歴史

2010/03/27

『敗北を抱きしめて』雑感(余談)

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← 清水 幾太郎【著】『倫理学ノート』(講談社学術文庫)(小生は岩波書店版で読んだ。)

 雑感(8)で、小生は、以下のように記述している:

 この無責任と無自覚は、東京大学、そしてその総長である南原繁も同じだった。一九四六年三月、戦没した東京大学の学生と職員のための慰霊祭が行われ、そこで南原が総長として述べた追討の辞の全文が、「戦没学徒に告ぐ」と題されて『文藝春秋』に掲載されている。
 この中で、国民的罪悪に対する贖罪の犠牲者と戦没した学徒を呼んだ。正義に負けたのではなく、「理性の審判」に負けたのだというのだ。
 南原は、「日本による侵略の犠牲になった者たちについて語らなかったし、アジアのほかの民族にもいっさい言及しなかった。今こうして糾弾している軍国主義、超国家主義の推進にこの大学が積極的に加担していたことについても立入らなかった」(p.319)
 南原(に限らないが)の「転向の基盤にあったのは、彼が語りかけ悼んだ、真実を追究した学徒ともども、日本の指導者たちに欺き導かれたのだ、という確信だった」(p.320)のである。なんという、強弁だろう。なんという、ご都合主義なのだろう。これが日本の最高学府の総長の姿勢なのだ。

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『敗北を抱きしめて』雑感(9)

 5月1日付け朝日新聞夕刊に評論家(で漫画の原作者でもある!)大塚英志氏による "「戦後史」すら与えられた国で "と題された一文が掲載されていた。どうやら憲法記念日を前にということでの小文のようだが、副題として「理念に忠実でなかった僕たち せめて国際仲介役できないか」とある。この副題は誰が付けたのか、分からない。新聞社の編集部のほうで付されたのだろうか。

 小生は大塚英志氏のことは、あまり知らない。昨年、ひょんなことから『「彼女たち」の連合赤軍』を読んだことがあるだけである。
 彼は朝日での一文の冒頭、ジョン・ダワーの『敗北を抱きしめて』が話題になった時、書評を求められたが、結局書かなかった、それは「一読して感じた生理的ともいえる不快さを払拭できなかったからだ」と記している。
 その不快さを彼は次のように説明している:

 ぼくが感じた嫌悪はだから同書の欠点に対してではなく、戦後史さえも「彼ら」に書かれてしまった自分たち自身への深い忸怩に他ならない。(大塚氏)

 悲しいことだが、この点、小生も同感なのである。別に戦中・戦後史について細かくフォローしてきたわけではないが、纏まった形での「敗戦」前後を展望した分析の書は、ついに現れていないように思われるのだ。

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『敗北を抱きしめて』雑感(8)

 今、俗に「太平洋戦争」などと呼び習わしている、日本が関わった戦争の名称。小生は、いつも、どう呼べばいいのか、迷ってしまう。「第二次世界大戦」というと、どこか世界史っぽいし、どこか欧州での戦争に焦点が絞られているようで、日本が関わったという印象が薄れてしまう。まさに、世界の歴史の中に埋没してしまいそうに感じてしまうのだ。

 もちろん、日本が世界の歴史の流れの中にあって、余儀なく戦争への道をひた走った面もないわけじゃない。が、今は、その点には触れない。
 さて、ほかに「大東亜戦争」とか、「十五年戦争」とか、いろいろありそうである。
 ところで、戦争に関するSCAPによる検閲政策のなかに、用語の変更に至るものもあったようである。

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『敗北を抱きしめて』雑感(7)

 日本国憲法がアメリカ当局の強い意志によって成立した面があることは、否めないだろう。当初は、日本の政治家達も、明治憲法の手直しで乗り切れるという目論見があったことは、確かだとしても。

 かの天皇機関説の主張で迫害された美濃部達吉、降伏前の日本で「自由主義」憲法の理論家としてもっとも有名だった美濃部にしても、憲法改正論争に加わる機会を与えられた際、憲法の改正には消極的な所見を発表した。
「明治憲法の改正を急ぐ必要はない。どんなことがあっても、国が外国の占領下に置かれている時期に、憲法改正を行うことは不適切である、と。近年の諸問題が生じたのは、明治憲法の欠陥によるものではなく、憲法の真意が曲解されたことによるというのが、美濃部の考えであった。(美濃部は、明治憲法下の天皇の地位を問題視することはなかった。西洋の憲法でも「神聖な」とか「不可侵の」君主という言葉を使っていると指摘した)」(p.122)

 それでもアメリカ当局の新憲法制定の意志が断固たるものと分かり、やがて日本の当局も、日本の意志を加味するよう戦略を立てたわけである。

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『敗北を抱きしめて』雑感(6)

 今回からジョン・ダワー著『敗北を抱き締めて』の下巻に入る。
 従って以降の引用頁数は、特に断らない限り下巻であることを予め明記しておく。

 さて、マッカーサーの占領政策が終戦直後は勿論、中には今に至るも影響力を持つに至ったことはもっと知られていいだろう。中には今では空気のように当たり前になっていて、その歴史的経緯などすっかり忘れられているものもある。

 ところで、マッカーサーの占領政策が、我々誰しもが予想されるように、戦中、そして終戦直後の日本の状況を見て決定されているのではないことは、興味深い。マッカーサーの占領政策を決定する上で大きなウエイトを占めたのは、「マッカーサーの軍事秘書官であり、心理戦の責任者であったボナー・F・フェラーズ准将」だったという。

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2009/08/23

実朝やけんもほろろに生き果てつ

 つい先日、「弥一 キジに遭遇す」といった小さな事件があった。
 未明から早朝にかけてのアルバイトの最中、とある郊外の町中でいきなりキジと出くわした、という他愛もない日記である。

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← 源実朝/著『《新潮日本古典集成》金槐和歌集』(新潮社) 「血煙の中に産声をあげ、政権争覇の余震が続く鎌倉で、修羅の中をひたむきに疾走した青年将軍、源実朝。『金槐和歌集』は、不吉なまでに澄みきった詩魂の書」とか。この年になって、悲運を宿命付けられて生まれ、そして死んだ実朝の世界に改めて親しみたくなった。太宰が傾倒するのも無理はないか。

 富山だし、キジの一羽くらいに遭遇することも、あっておかしくはないが、あまり突然に、しかも、目の前に出てきて、そのキジがまた慌てふためき狼狽している光景が滑稽なような、でも哀れなような不思議な気持ちになり、一つの体験にまでなりそうなものだった。

 実は、その日、さらに奇妙な偶然があった。

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2009/08/16

カストラートについて

 個人的な関心もあって、アルマン・マリー・ルロワ著『ヒトの変異  人体の遺伝的多様性について MUTANTS』(監修上野直人 訳者築地誠子 みすず書房)を読んでいたら、カストラートという呼称に遭遇した。
 カストラートという音楽史上の存在については、小生には、多分、初耳の言葉だが、オペラなどクラシック音楽ファンにはあるいは馴染みの、常識に属する言葉なのかもしれない。

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← アルマン・マリー・ルロワ著『ヒトの変異  人体の遺伝的多様性について MUTANTS』(監修上野直人 訳者築地誠子 みすず書房)

 本書は、「その昔、重い奇形をもつ人々は「怪物」とみなされた。いま、奇形は遺伝子の働きを知るうえで、貴重な手がかりとなっている。その間には体づくりの謎をめぐる、数百年にわたる混乱と探究の歴史があった」といった本。
 小生には単なる好奇心ではすまない内容の本。

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2009/06/18

大和岩雄著『人麻呂伝説』を読む

 大和岩雄著『人麻呂伝説』(白水社)を読んだ。
 つい先日、大和岩雄・著の『新版 古事記成立考』(大和書房)を読了したばかりで、その流れで大和氏の本を手にとったのである。

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→ 大和岩雄著『人麻呂伝説』(白水社)

 大和氏の著書は多数にのぼっており、その中で本書を選んだのは、なんといっても、小生には柿本人麻呂への勝手な思い入れがあるからである。
 詩も読まないし、文学的センスもないのだが、柿本人麻呂の歌には、そんな鈍感な小生にさえ震撼させるような言葉の喚起力が感じられる。

 同氏には、上掲書に関連して、『人麻呂の実像』という著書があるのだが、残念ながら富山の図書館には在庫がない!

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2009/05/13

ティム・ワイナー著『CIA秘録 下』の周辺

 ティム・ワイナー著『CIA秘録 下』(藤田博司・山田侑平・佐藤信行・訳 文藝春秋)を読んだ。
 ティム・ワイナー著の『CIA秘録 上』(藤田博司・山田侑平・佐藤信行・訳 文藝春秋)を読んでの感想文は既に過日、アップしてある

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← ティム・ワイナー著『CIA秘録 下』(藤田博司・山田侑平・佐藤信行・訳 文藝春秋)

 大よその紹介は既に済ませたし、こういった本は、要約してもつまらない。
 とにかく、エピソードと事実(記録文書や関係者へのインタビュー)に満ちている。

 エピソードの多くは失敗か悔恨に満ちたもので、時に愚劣極まりないと、怒りの念さえ覚えることもある。

 トップに立つ人間の定見のなさや気まぐれに、組織(や国家)がいかに左右されてしまうものなのかを思い知らされる。

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2009/05/04

『CIA秘録 上』の周辺

 ティム・ワイナー著の『CIA秘録 上』(藤田博司・山田侑平・佐藤信行・訳 文藝春秋)を読んだ。

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→ ティム・ワイナー著『CIA秘録 上』(藤田博司・山田侑平・佐藤信行・訳 文藝春秋)

 予約したのは二月で読めたのは四月下旬だったから、随分と待たされたことになる。
 相当に読まれているってことなのだろうか。

 下巻も読了してから感想文を書こうかと思ったが、いつになるか分からないので、とりあえず上巻を読んでの印象をメモしておく。

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