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2023/10/03

2023年9月の読書メーター

 ← 岩瀬浜。浜辺から立山連峰を望む。

 話題の「ハンチバック」も読めたし、今月もそれなりに多様な本が読めた。再読本が多いのが先月の特徴かな。

 吾輩の2023年9月の読書メーター 読んだ本の数:16冊 読んだページ数:5081ページ ナイス数:4577ナイス ★やいっちさんの2023年9月に読んだ本一覧はこちら→ 「2023年9月読書まとめ - 読書メーター

 ブラックホール…興味津々。相対性理論と量子論の相性の悪さの極みが事象の地平線でせめぎあってる。著者はキリスト教の神の敬虔なる信者。最後の章は信仰告白になってる。ビッグバンは、神による天地の創造説にはうってつけ?

暗闇のなかの光──ブラックホール、宇宙、そして私たち

ハイノー・ファルケ,イェルク・レーマー

 

 本作は、内容よりハンチバックという身体性に由来するだろう話題性が先行している気がして、ちょっと抵抗もあった。ドキュメントに徹したら、ある意味もっと響いたかもしれない。その代わり、読まれる読者層は限られていたか。

 読んでみて、えげつなさそうな記述も垣間見られるが、それ以上に彼女特有の身体性だからこその切迫感。ギリギリの<まともな女>たることへの哀れなほどの切望懇望が齎すドタバタした営為の日々。

 親が懸命に残した資産の力がものを云っている。そのことが恵まれているとやっかむムキもあろう。カネがなかったら(大多数はそうだろう)真っ赤な闇の海の底へと溺れ沈湎(ちんめん)し、無言と沈黙の闇の中でどんな呟き愚痴呻き呪いが泡ぶきやがて泥濘に沈んでしまっていた(る)に違いない。無視…見て見ぬふり…。

 が、作者には手段があった。表現し訴える執念もただならぬものがあった。ある日、目覚めたら虫になっていたとして物語を虚構したカフカ。ある日気が付いたら呪うべき身体性を宿命づけられていた。作者は本作で文学のとば口を覗いたと感じた。この世界はこれはこれで煉獄なんだろうが。

ハンチバック

ハンチバック

市川 沙央

 

 関西弁…河内弁っぽい訳。軽快というかコミカルでいいけど、ドロドロ感が薄いのが残念かな。神々の名前が原文通りなのが救い。好悪ははっきりするかも。

口訳 古事記

町田 康

 

 今回で3回目。改めて感想は書かない。読むたび深まる感銘。いつか4回目はあるだろうか…

アフリカの日々 (河出文庫)

イサク・ディネセン

 

 二週間余りを費やして通読。とてもじゃないが読んだ(理解できた)とは云えない。が、ひたすら想像力を刺激され続けた。本文もだが、詳細な原註・訳註も漏らさず目を通した。気になる文献などは手元のスマホでチェック。読みたい本登録の山が高くなった。おそらく大半は図書館か古書店に頼るしかないし、実際には目にすることもないだろう。

水と夢: 物質的想像力試論 (叢書・ウニベルシタス)

ガストン バシュラール

 

 梨木香歩作品は三作目。作品紹介には、「昭和の初め,人文地理学の研究者,秋野は南九州の遅島へ赴く.かつて修験道の霊山があったその島は,豊かで変化に富んだ自然の中に,無残にかき消された人びとの祈りの跡を抱いて,秋野の心を捉えて離さない.そして,地図に残された「海うそ」ということば…….五十年後,不思議な縁に導かれ,秋野は再び島を訪れる」とある。

海うそ (岩波現代文庫)

梨木 香歩

 

 仕事の合間の楽しみに車中で読んできた。ひょんなことで入手した本。せっかくなので、古いけど読んだ。本は経年変化しても、内容は(史実などの細部にこだわらない限り)勉強になる。

物語 明治・大正を生きた女101人 (新人物文庫)

 

 読みやすい。わかりやすい。真相は徐々に判明してく。薄衣を剝ぐようにして。  飽きさせず読ませる力はある。しかし本作については、公安が出てくることで、真相はやぶの中なんじゃないかと思えてしまう。

月下のサクラ (文芸書)

柚月裕子

 

 これを原作とした(?)映画が評判になっていた。父が鉄道員だったこともあり、観たかったのだが、原作を読んでからと思っているうちに見逃した。

鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)浅田 次郎

 

 ようやく通読。…ただの通読に終わった。書店でもらってきた冊子。4つの論考が載っている。いずれもエッセイや小文といったものではなく、いずれは本となる連載の論考である: ようやく通読。…ただの通読に終わった。書店でもらってきた冊子。

『季刊 未来』2023年夏号

『季刊 未来』2023年夏号

未来社

 

「日本書紀には存在しない出雲神話がなぜ古事記では語られるのか? 序文のいう編纂の経緯は真実か? この歴史書の謎を解きあかし、神話や伝承の古層を掘りおこす」は額面通りと感じた。

「「国家の歴史」以前から列島に底流する古層の語りとして、古事記をとらえ返す」という本。記紀神話に捉われない古事記理解が納得できる。同氏の本はこれで何冊目かな。お勧め。

古事記を読みなおす (ちくま新書)

古事記を読みなおす (ちくま新書)

三浦 佑之

 

 何しろ、素材の杉(吉野杉)や竹作り(探し)からプロジェクトは始まる。小生は、桶が杉から出来てると知ってびっくり。何処かヒノキか何かだと思い込んでた。
 本書は「岩波ジュニア新書」の一冊だが、日本の食文化や職人文化伝統に関心のある方には格好の書だ。

巨大おけを絶やすな! 日本の食文化を未来へつなぐ (岩波ジュニア新書 962)

巨大おけを絶やすな! 日本の食文化を未来へつ…

竹内 早希子

 

 数年ぶりに再読。面白く楽しめるように書かれているが、百億人という人口を支える土を求めてというもので、読むべき本と思う。若手研究者の苦闘ぶりという点で通じるものを感じた。繰り返すが、読むべき本なのだ。

土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて (光文社新書)

土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求…

藤井 一至

 

 これまで何冊か読んできたが、古井の作品で初めて面白いと感じた。

「雪の下の蟹」は所謂サンパチ豪雪に絡む小説。彼は金沢在住時代経験していたのだ。但しアパートの住人として。作品では豪雪の真っ只中も経験しているが、終息期に近かったようだ。

 これが、いよいよ積雪三メートルに及ぶ豪雪の日々の真っ只中を一戸建ての主、当事者として経験していて、それを縷々彼なりに語ったなら、この不条理とも云える事態を一級の作品に仕立て上げられたかもしれない。これはこれで傑作だけど。

「男たちの円居」は傑作と感じた。彼は大学生になって山岳部に入り、山を経験したことがあったようだ。その体験が生きているのか。就職戦線に離脱しそうな主人公が友人に誘われるがまま冬の山へ。そこでの物語とも言いようのない紆余曲折ぶりが面白い。最後辺りで女子学生の集団との邂逅にもならない擦れ違いもドラマのような煮え切らない話がつかみどころがなくて面白い。

雪の下の蟹・男たちの円居 (講談社文芸文庫)

雪の下の蟹・男たちの円居 (講談社文芸文庫)

古井 由吉

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