2022年1月の読書メーター
先月は腰痛もあって、休みの日が増え、我輩としては読んだほうかな。感染症、経済、風俗や社会、量子力学、政治、日本人の起源論など。小説はもちろん。 それぞれに印象的だった。
1月の読書メーター
読んだ本の数:17
読んだページ数:5170
ナイス数:10620
ソ連兵へ差し出された娘たち (単行本)の感想
読むのがつらい本だった。読み辛いのではなく、内容の重さのゆえである。「(前略)満州開拓団幹部らは駅に進駐していたソ連軍司令部に助けを求めたが、今度は下っ端のソ連兵が入れ替わるようにやってきては“女漁り”や略奪を繰り返すようになる。頭を悩ました団長たちが取った手段とは…」といった話だが、あとは察してもらいたい。
読了日:01月30日 著者:平井 美帆
素数たちの孤独 (ハヤカワepi文庫)の感想
傑作。本作については、読み出して間もなく、以下のように呟いた:
ほとんど題名で選んだかも。なんたって素数だもの。素数は孤独なのかな。たとえ一瞬ぶつかり火花を発するように見えても、それは眺める誰かの錯覚に過ぎない。衝突する2つがゆえの、燃え上がる焔の須臾の煌めきを垣間見たいという願望の為せるわざに過ぎない。星座を為すオリオンの白々しさ。星々たちは捻じれの位置にある。宇宙に於いては素数という名の星は音楽を奏でることはない。
読了日:01月28日 著者:パオロ ジョルダーノ
うんち学入門 生き物にとって「排泄物」とは何か (ブルーバックス)の感想
著者によると、「うんち」を考えることは、「生き物」とは何か、「いのち」とは何か、人間を含めた生き物を取り巻く「環境」とは何かという一大テーマに繋がるという。その成果が本書だ。小学校などで「うんち」がやりづらい、行くと揶揄われるなど、問題になっているとか。著者としては、「うんち」の果たしている役割を家庭や学校や友達の間で、みんなで考えてもらい、翻って生き物や命について考えてほしいのだ。
読了日:01月26日 著者:増田 隆一
崩れゆく絆 (光文社古典新訳文庫)の感想
ナイジェリア作家のアチェベは、「アフリカ文学の父」とも呼ばれる(誰からか)。中国文学の父というと、魯迅。アメリカ文学の父は、マーク・トウェイン? 日本文学の父というと、漱石か鴎外か。じゃ、四迷や一葉は? 紅葉は? こう書く場合、近代文学ということが前提にあるだろう。日本では古事記や源氏物語や平家物語、方丈記、枕草子、徒然草など日本文学を語るうえで欠かせない世界に誇る作品群がある。
読了日:01月25日 著者:チヌア アチェベ
「木」から辿る人類史: ヒトの進化と繁栄の秘密に迫るの感想
分野的にあまり手にしない本だったからか、自分が知らない間に人類学では随分と研究が進んでいた。読みながら何度も付箋を貼りメモしてきた。ブログ日記にもそれなりに書いてきた。
本書では、「定説では、石・青銅・鉄が重要な役割を担ったとされている。しかし、じつは「木」こそが歴史をつくった最も重要な鍵だと著者は言う」。
読了日:01月24日 著者:ローランド・エノス
プラナリア (文春文庫)の感想
女性が亭主より稼ぎがいいと、男性は肩身が狭い。あるいは男性は肩身が狭いだろうなと女性が忖度する。この短編集の中でも、相手のふがいなさに歯噛みする女性の、どうにも踏ん切りの付かない様子がある種のユーモア感覚も漂させながら、それでも切なさに苦しむ姿が印象的に描かれている。現代ならこんな女性像は時流から外れている?
読了日:01月21日 著者:山本 文緒
世界は「関係」でできている: 美しくも過激な量子論の感想
量子論を巡る、ポピュラーサイエンス本はこれまでも少しは読んできた。僭越ながら(生意気とは思いつつ)、率直に本書は傑出していると感じた。専門家でも数式的扱いはともかく、その中身は理解が及ばないという量子論。だからこそ、我田引水の力学書ならぬ哲学書や宗教書の類は数知れず。本書での著者の主張は、龍樹(ナーガールジュナ)の哲学を紹介していること、さらにはシェイクスピアの「テンペスト」からの引用を紹介していることでも察せられる。
読了日:01月20日 著者:カルロ・ロヴェッリ
賃労働の系譜学: フォーディズムからデジタル封建制への感想
感想はブログ日記に折々書いてきた。否定的なことばかり書いたが、日本の非正規雇用の労働者らの置かれている実態は想像を遥かに超える。ブラック企業はそういった現実から生まれるべくして生まれた用語だ。一方、そうした現実にやられっぱなしじゃない、少なからぬ試みが実を結んだこともある。自分にしても基本給のない(完全歩合制)の会社に身を置いている。他人事じゃない。
読了日:01月18日 著者:今野晴貴
疫病の世界史(下)――消耗病・植民地・グローバリゼーションの感想
読み応えあった。疫病……感染症対策は今や世界全体が手を握り合って。過去の経験をしっかり学ばないと。現下のコロナ禍で、2019年には既に露になっていた日本の経済社会の歪みが一層の惨状となって顕在化した。切羽詰まった、一番助けの必要な人達が見捨てられてる。(一つだけ例を挙げると、保健所の数が40%以上減らされてきた、など。)
読了日:01月17日 著者:フランク・M・スノーデン
核DNA解析でたどる 日本人の源流の感想
再読。ついでに書くとダブって買った。勿体ないので(悔しいので)敢えて読み返した。感想は: https://bookmeter.com/reviews/68815578
読了日:01月15日 著者:斎藤 成也
喉の奥なら傷ついてもばれない (集英社文庫)の感想
全く未知の作家で、ほとんど題名に惹かれて手にした。「人妻たちが抱える欠落と渇望を描く6編」だとか。本短編集については、解説の村山由香がいい。この作家さんも好きで何冊か読んだことがある。彼女は、収められた六篇はいずれも、いびつな愛しか知ることのできなかった女たちの物語だ」とした上で、「ぜひとも不用意に読み始めてほしい、そうして茫然と立ちすくんでほしい」と解説の冒頭で書いている。
読了日:01月14日 著者:宮木 あや子
駅路 (1961年)の感想
本書所収の作品が書かれたのは昭和30年代半ば。清張が50歳で脂の乗り切った時期か。日本の経済も高度成長期の真っ盛り。激しい立身出世競争がサラリーマン社会でも繰り広げられていた。当然ながら落ち零れる人もいる。大衆小説の幣に流石の清張も例外ではなく、どの作品の主人公も立場や状況は異なっていつつも発想法というか考え方が似ている。何処か軽薄ですらある。そこは屈折した人間探求を求めるほうが無理だろう。
読了日:01月12日 著者:松本 清張
自民党 失敗の本質 (宝島社新書)の感想
石破茂, 村上誠一郎, 内田樹, 御厨貴, 前川喜平, 古賀茂明, 望月衣塑子, 小沢一郎ら、メインのマスコミには登場しなくなった骨のある面々へのインタビュー集。「モリカケ問題、桜を見る会、コロナ対策……官邸主導といわれる現在の自民党政権だが、いったい誰のための政治主導なのか。「国民のため」という視点が安倍・菅政権、そして自民党からは消えたように見える」。岸田政権になっても安倍らへの忖度は変わらない。小泉以降の政権は、日本を貶めたくてならないようだ。
読了日:01月11日 著者:石破 茂,村上 誠一郎,内田 樹,御厨 貴,前川 喜平,古賀 茂明,望月 衣塑子,小沢 一郎私のいない部屋の感想
フェミニズム、ウーマンリブ、“Me Too” ミソジニー、などに関心のある方には励まされ鼓舞される書。「父のDVから逃れるように家を離れ、サンフランシスコの安アパートに見つけた自分の部屋。女に向けられる好奇や暴力、理不尽の数々を生き延び、四半世紀暮したその部屋でやがてソルニットは作家になった」というソルニットの自叙伝である。
読了日:01月10日 著者:レベッカ ソルニット
疫病の世界史(上)――黒死病・ナポレオン戦争・顕微鏡の感想
パスツゥールやコッホ、リスター等に絡む本や微生物の狩人等を改めて纏めて学習し直しているような。研究者らのドラマ満載。面白い。フランス革命やナポレオンについての記述が興味深い。フランス革命はフランス本土だけで起きていたんじゃない、植民地での黒人などの有色人種らの奴隷制からの解放運動でもあった(こんなことは教科書には書いてない)。が、ロベスピエールらが粛清され、ナポレオンの反動政治が始まる。彼には植民地の利権が必須だった。奴隷制は断固死守。彼らの勝利は明らかだった…………
読了日:01月09日 著者:フランク・M・スノーデン
地形で読む日本 都・城・町は、なぜそこにできたのか (日経プレミアシリーズ)の感想
「古地図と地形を眺めれば、文献だけではわからない歴史が浮かび上がる。ロングセラー『地形と日本人』著者による歴史地理学入門第2弾」というもの。例えば昔は山城が多かったのが、次第に平野部に築かれるように。あるいは、古代の都がどういう理由で作られる場所がドンドン変わっていったのか。好奇心で読んだ。
読了日:01月08日 著者:金田章裕
裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち (at叢書)の感想
DVなど当たり前に振るう、女性に子供を生ませて、あとは知らん顔といったろくでもない男がうんざりするほど出てくる。でも、女性達は彼等と一時的にしろ結ばれる(女性が奴等を選ぶ)。昔からなんでしょうが、一層ひどくなってるのを感じます。沖縄は特にひどいのか。政権の意向に従わない沖縄への締め付けは本土の人間には想像がつかないか。生きるためには選択の余地がない。どんな奴だろうが、声を掛けてくる、手を出す、金を出す、眼をつけてくる奴が、取り澄まして対岸を通り過ぎる奴より遥かにまし。それだけの現実がある。
読了日:01月01日 著者:上間陽子
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