2021年11月の読書メーター
← 昨日、裏庭にて撮影した南天。何本もあるどの南天も真っ赤な実を生らしている。
先月は、それまで読んできたウェイリー版源氏物語(日本語訳)を読了した虚脱感めいたものがあって、積ん読本の消化の印象が強い。それでも、年縞博物館を訪れ、関連書を手にしたり、それなりに充実してたかな。
11月の読書メーター
読んだ本の数:16
読んだページ数:4169
ナイス数:7511
闇の奥 (岩波文庫 赤 248-1)の感想
今回読んで、傑出した作品だと実感した。「アフリカの奥地に象牙採集をする人々の上に起こった事件を作者自身の体験にもとづいて書いた作品」というが、むしろ、「作者の原始に対する驚異と文明に対する呪詛とが熱病のような激しさであらわされている」という評のほうが的確だろう。本作品を読むのは楽じゃない。むしろ難儀だろう。それでも、闇の奥へ刻苦しながら分け入る夢魔の魅力は何物にも代えがたい。
読了日:11月28日 著者:コンラッド
フラッシュ: ある犬の伝記 (ルリユール叢書)の感想
「19世紀の英国詩人エリザベス・バレット・ブラウニングの日常模様が、 愛犬フラッシュの目を通して語られる、ユーモア溢れる伝記小説」というものだが、ウルフが犬好きなのか微妙。そもそもある犬の伝記という題名なのだし。どう見ても愛犬からの視点ではない気がする。語り手を愛犬にすることで、バレットの生活の他人には窺い知れない細部まで描いても不自然ではないということだろうが、フラッシュがイヌっぽくない。
読了日:11月24日 著者:ヴァージニア・ウルフ
蜜のあわれ・われはうたえどもやぶれかぶれ (講談社文芸文庫)の感想
二階堂奥歯著の死に至る日記『八本脚の蝶』にて、犀星の「蜜のあわれ」なる作品を知った。奥歯が言及するくらいなら、並の作品であるわけがない。変幻自在の金魚という幻想小説。晩年の犀星が理想とする若い女性像を、老作家と金魚との会話で描き出す。老いた作家を痒い所に手が届く…至れり尽くせりの世話を生活を共にしつつ彼女…金魚がしてくれる。時に我が侭で自己主張も強い、現代っ娘らしい少女像。老いた男の夢。小説だからこそ好き放題に描ける。そう、あと一歩で西牧徹の黒戯画の世界だ。
読了日:11月24日 著者:室生 犀星
江戸春画の性愛学 (ベスト新書)の感想
今朝(21日)未明読了した。読んだというより眺めため息を吐いた。内容については、「わが国での性行為を描いた絵巻は平安時代の十世紀に成立した。『小柴垣草子絵詞』が描かれ、以来、鎌倉、室町時代から元禄時代までの「春画」を見るとき、その歴史的な事実と遺存により、わが国がいかに古代より性愛文化が発達していたかが窺がえる。本書は、江戸を中心にその周辺でもっとも発達した、「春画」の魅力を余すことなく紹介した、カラー新書の決定版」に尽きる。
読了日:11月21日 著者:福田 和彦
シマシマが語る46億年の歴史の感想
年縞博物館が、昨年、隣接する若狭三方縄文博物館と合同で開催した「年縞のシマ模様にちなんで、地球46億年の歴史の中の重要な出来事や環境記録を刻む様々なシマシマを2部構成で紹介」するというもの。特別企画展は惜しくも見逃したが、辛うじて、この図録で楽しんだ。図録だけあって、写真満載で嬉しい。福井県の遺跡の豊富さを学んだ。
読了日:11月20日 著者:福井県年縞博物館・若狭三方縄文博物館
人体大全 なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのかの感想
著者は、「幅広いテーマでベストセラーのあるノンフィクション・ライター」。人体大全とあるが、適度にダイジェストしている。この手の本は、好きであれこれ読んできたが、群を抜いて面白い。教科書的な記述が皆無で、読み手を飽きさせない。さすが名うてのノンフィクションライターだ。本書が面白かったので、次は、やはり彼の『人類が知っていることすべての短い歴史』を読みたい…と思わせたよ。初めは付箋を貼りながら読んでいたが、あまりにその数が多く、やめた。随所に人に教えたい、あるいは自分への気づきが見つかるはず。お勧め。
読了日:11月18日 著者:ビル・ブライソン
年縞博物館 解説書の感想
一緒に買ってきた中川毅著の「時を刻む湖――7万枚の地層に挑んだ科学者たち」を補完する。年縞博物館の解説書。図版も豊富。説明も分かりやすい。こちらだけでも楽しめる。あの山根一眞さんが特別館長。
水月湖のある三方五湖を周遊するのもいいし、まずは年縞博物館の建物自体が素晴らしい。全長45mの水月湖年縞を展示するため、「世界一細長い博物館」となった。ギネスに登録したんだろうか? 設計は、建築家の内藤廣氏。
読了日:11月17日 著者:福井県年縞博物館
白楽天 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 (角川ソフィア文庫)の感想
ウェイリー版源氏物語や、その途中、中西進氏の『源氏物語と白楽天』を読んだこともあり、白楽天への関心が呼び起こされた。
惜しくも本書には、肝心の「長恨歌」が含まれないのだが、ま、初心者は高望みはしない。実際、読んでみて(漢詩としては)平易で親しみやすいと感じた。
読了日:11月16日 著者:下定 雅弘
ゴヤの手紙(下) (岩波文庫 青 584-2)の感想
上巻は、あくまでゴヤファンやゴヤの研究者の資料的価値以上の書簡は乏しかった。翻って下巻は、特に聴力を失ったり、子供の病気に心を痛めたり、貴族らの寵愛より画家としての矜持を貫く姿勢など、極めて人間的。但し、何処か自分はゴッホの書簡集的な文学性を期待していたようで、少しがっかり。時代的にまだないものねだりだったかもしれない。手紙の中から、ゴヤのあの絵画を浮かべるのは絵画の門外漢にはやや難しかった。
読了日:11月13日 著者:ゴヤ
第三の男 (ハヤカワepi文庫)の感想
極めて高名な作家の極めて有名な作品。買い求めたら、案外と頁数の少ないことに変な驚き。名作に長短など関係ないのだが、何処か大作という先入見があった。『第三の男』は、「キャロル・リード監督作品。第二次世界大戦直後のウィーンを舞台にしたフィルム・ノワール」。「アントン・カラスのツィター演奏によるテーマ音楽や、ハリー・ライム役のオーソン・ウェルズの印象深い演技でも知られている」。あまり映画を観ない吾輩も遠い昔観た。
読了日:11月12日 著者:グレアム グリーン
においが心を動かす; ヒトは嗅覚の動物であるの感想
題名に惹かれ手にしたが、結構しんどい読書となった。プルーストの話など軽くいなされていた。
内容案内に、「西洋では香りに対して視覚より低いものとみなす歴史があった。19世紀科学の時代にも匂いの分野は注目されてこなかった。2004年ノーベル賞受賞に至る1991年リンダ・バックとリチャード・アクセルによる嗅覚受容体遺伝子の解明は、その後の嗅覚研究の急激な発展の契機となった」とある。そうなのだが、「進化として視覚より古い知覚。今後も注目していきたい」とも。
読了日:11月10日 著者:A・S・バーウィッチ
時を刻む湖――7万枚の地層に挑んだ科学者たち (岩波科学ライブラリー)の感想
「水月湖の年縞|特集記事|福井県里山里海湖研究所」によると、「水月湖は、三方五湖の中でも一番大きな湖です。この湖の底には、7万年以上の歳月をかけて積み重なった「年縞(ねんこう)」と呼ばれる縞模様があります。水月湖の年縞は、いくつかの奇跡が重なってできた世界的に珍しい貴重なもので、考古学や地質学における年代測定の「世界標準ものさし」に採用されました」というもの。
読了日:11月09日 著者:中川 毅
アルフレッド・ウォリス――海を描きつづけた船乗り画家の感想
先日のブログ日記に、「衝動買いの本。表紙の絵に惹かれた。アルフレッド・ウォリスは、アンリ・ルソーとは描かれる世界も手法も違うが、専門の絵描きでは望めない素朴さと描きたい世界への 郷愁の念に近い切迫感がある。どちらも、一度みたら忘れないタッチの絵」と書いた。感想はそれに尽きている。
読了日:11月06日 著者:塩田純一
白い薔薇の淵まで (河出文庫)の感想
最初は濃厚な性愛シーンにポルノチックなものを感じ、退屈な小説なのかと思ったら(大概のポルノ小説は読み出して間もなく退屈で飽きる)、途中から読むほうのギアもあがって、持ち帰って読んでしまった。読了直後の印象として、傑作だと思った。書かれた(公表された)のは20年ほど前。LGBTなど今日ほどは理解が進んでいなかったし、同性愛…レズも同様。当時にあって、レズ小説を本格的に書くのは社会的抵抗も想像以上のものがあったろう。語り手は三十路の美人で仕事も立派にこなしている。男性の彼氏もいる。が、心底惚れるのは女性。
読了日:11月05日 著者:中山可穂
ゴヤの手紙(上) (岩波文庫 青 584-1)の感想
ゴヤ(の若き日)の人となりを知るには第一級の資料だろう。開けっ広げな人柄も。ただ、上巻に限っては、ゴッホの書簡集的な文学性を求めても、無いものねだりかな。
読了日:11月05日 著者:ゴヤ
人形愛/秘儀/甦りの家 (講談社文芸文庫)の感想
高橋和巳の奥さんだった方。高橋和巳は若くして惜しくも亡くなった。彼の作家業を献身的に支えたとか。深く理解するには、カトリックの信仰に親しまないと見当違いな観念論で終わってしまうだろう。自分なりに下世話に解釈すると、自分が若いころ、男に人形…玩具として翻弄されたことを、今度は美しく初心な少年を人形のように弄んでいるようにも思える。幻想的なようでいて、己の欲望に過剰に忠実に振る舞ったとも思える。そう、あくまで下卑た理解だと断っておく。
読了日:11月02日 著者:高橋 たか子
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