2021年10月の読書メーター
今月は何より「ウェイリー版源氏物語」。素晴らしい翻訳だった。偶然だが、「清少納言を求めて、フィンランドから京都へ」も楽しんだ。中西進氏の「源氏物語と白楽天」も併せ、少しは源氏物語の深みに近付けたか。一方、二階堂奥歯著の死に至る日記「八本脚の蝶」は衝撃的。忘れられない読書体験となった。
10月の読書メーター
読んだ本の数:15
読んだページ数:6387
ナイス数:8524
源氏物語 A・ウェイリー版4の感想
1ヶ月半を費やして全四巻読了。分かりやすく 且つ味わい深く、楽しめました。「源氏物語」の現代語訳の可能性が広いことを感じた。感想……?
読了日:10月31日 著者:紫式部
道が語る日本古代史 (朝日選書)の感想
内容紹介:「(略)全国規模で建設されたこの直線道路網は、古代史上最大の内乱、壬申の乱を征した天武天皇が行なった政策で、律令国家のあり方を具現化したもの。直線道路のあり方は古墳時代までさかのぼる。(略)雄略天皇の時代、(略)律令国家の建設に突き進んだ推古天皇の時代、律令国家完成の土台を築き上げた天武天皇の時代――。時代の転換期には道路の姿も大きく変化した。やがて律令国家そのものが弱体化し、ついに消滅すると、これらの道路も変質し、消滅してしまう。(略)」
読了日:10月30日 著者:近江俊秀
人体 5億年の記憶: 解剖学者・三木成夫の世界の感想
三木成夫の本には、図書館で発見し感激した「胎児の世界」を皮切りに大概の本は読んできた(「胎児の世界」は、後日入手し再読。三木の本は殆ど所蔵。1冊だけ読まずに温存してある)。弟子筋の布施氏による本書は総集編と云えるもの。感想を書くか分からない。本書はそつなく三木の世界を纏めてある。三木の世界への入門書として、あるいは再認識の機会として、何より生き物としてこの宇宙に、地球に人間が在ることの素晴らしさを再確認する書としてお薦めする。
読了日:10月27日 著者:布施 英利
源氏物語 A・ウェイリー版3の感想
敢えて日に数十頁ずつ読んできた。主語述語はもちろんだが、誰の語り、あるいは誰についての語りなのか明確なので、古文に苦手でも内容が理解できる。といっても、登場人物群の相関関係は、我輩には入り組んでいるし、男女の縺れ合いも一方ならぬものがあって、各帖毎に冒頭に表示してある、相関図…系図は非常に参考になり、頼りっぱなしといってもいいほど。作者であろう紫式部は頭の中だけで錯綜する図を描けているのだろうが、それだけで感心してしまう自分が情けない。それより、数十年の物語なのに、筋に破綻がないらしいのが、凄い。
読了日:10月24日 著者:紫式部
地学ノススメ 「日本列島のいま」を知るために (ブルーバックス)の感想
本書を読むと、東海、東南海、南海地震が切迫している(2030年代か)と、改めて思い知った。桜島の巨大噴火もヤバイ。太平洋側の人口を相当程度に少なくとも巨大地震のなさそうな日本海側に移さないとという持論を改めて確認した。中国と北朝鮮の境にある白頭山もいつ巨大噴火してもおかしくない。946年の巨大噴火では、火山灰は偏西風で日本の東北地方に数十センチ積もった。
読了日:10月24日 著者:鎌田 浩毅
清少納言を求めて、フィンランドから京都への感想
遠い現代のフィンランドからアラフォー女性が「枕草子」そして書き手の「セイ」の魅力に目覚め、ヘルシンキから京都へ。驚くのはフィンランド政府や企業の文化的助成の分厚さ。彼女は日本語が喋れない読めないのに、平安朝の「セイ」や「枕草子」を知ろうと悪戦苦闘する。その日記調ドキュメントタッチの書きぶりが面白い。あの平安朝に何故表立って文筆を含めた言論が出来たのか、その不思議は今の日本人にももっと興味を持っていいのでは。セックスを含めた赤裸々な語り口や活動ぶりが本書の人気の一端なのかな。
楽しみました。
読了日:10月22日 著者:ミア・カンキマキ
とめられなかった戦争 (文春文庫)の感想
本書は、内容案内の「NHK教育テレビ「さかのぼり日本史」で放送された内容をもとに作った単行本「NHKさかのぼり日本史②昭和 とめられなかった戦争」の文庫化」「「それまで侵略はなかった」と主張し続けてきた安倍首相に真っ向から対抗し、歴史家としての気概を見せた加藤陽子東京大学大学院教授。いまいちばん旬な歴史学者の加藤教授が、語り下ろし形式で、日本の近現代史をわかりやすく解説した本」に尽きる。短いし、読みやすい。
読了日:10月21日 著者:加藤 陽子
けものたちは故郷をめざす (岩波文庫)の感想
公房のいい読者ではないが、少しは読んできた。やはり、『砂の女』の実存主義的……やや形而上的な世界の印象があまりに強い。だからか、本作品は、満州国崩壊の混乱の中、突然投げ出された少年の、謎の人物との必至の脱出劇というリアルな物語であるにも関わらず、何処かまさに何処までも砂の中を藻掻く、いい意味での抽象性を感じた。恐らく(ネタバレになるが)物語の結末で、少年が日本への帰国の船にやっと乗船できたのに、なぜか日本という幻の故国を目の前に上陸が叶わないという不条理な場面になっていることに起因するのかもしれない。
読了日:10月17日 著者:安部 公房
源氏物語 A・ウェイリー版2の感想
第二巻を読んでいる中で、「分かりやすい。物語の全貌や、特に人間関係が掴みやすい。が、原文の味わいじゃないが、十二単のように錯綜した、微妙な表現の妙味が薄らいでいると感じる。何処かストーリーを追っているような。翻訳者は作家じゃなのだろう。訳者は二人で評論家・俳人と詩人のコンビらしい。物語に仕立てる技術が足りないのか、英語の原文がそうなのだから仕方ないのか。割り切って訳している結果なのかもしれない。あるいは、つい先日、中西進氏の白楽天絡みの本を読んだから、猶更感じるのかもしれない」などとメモった。
読了日:10月15日 著者:紫式部
数の発明――私たちは数をつくり、数につくられたの感想
著者は、「マイアミ大学人類学部教授、同学部長。専門は人類学・言語学。言語と非言語的な認知・文化・環境の相互作用に関心を持つ」とか。彼の「父は『ピダハン』の著者のダニエル・L・エヴェレット。幼少期に、宣教師の父とともにピダハン族の村で過ごした」という。その体験が研究のベースにあるようだ。内容案内には、「ピダハン族などの数を持たない人々の社会や、乳幼児と動物の量の認識、世界の言語に残る痕跡を通じて、数の発明という忘れられた人類史の転換点を探る書」とある。
読了日:10月14日 著者:ケイレブ・エヴェレット
皮膚感覚と人間のこころ (新潮選書)の感想
『皮膚はすごい: 生き物たちの驚くべき進化』を読んで感銘を受け、早速二冊目に。
内容案内に、「外界と直接触れ合う皮膚は、環境の変化から生体を守るだけでなく、自己と他者を区別する重要な役割を担っている。人間のこころと身体に大きな影響を及ぼす皮膚は、その状態を自らモニターしながら独自の情報処理を行う。その精妙なシステムや、触覚・温度感覚のみならず、光や音にも反応している可能性など、皮膚をめぐる最新研究」とある。
読了日:10月13日 著者:傳田 光洋
八本脚の蝶 (河出文庫)の感想
(本文の最後近くを読んでいた際のメモ)仕事の合間に読んできた。が、いよいよ末期の時が迫ってきていた。気になって残りを自宅で。本当に飛び降り自殺を遂げた。生きる苦しみより死んだほうがまし。痛いのは嫌だと愚痴りつつ、やるしかないと。飛び降りて地上に激突するまでの2秒間の間、何を考えたろうか。他人時間は2秒でも、死に至る時間は永遠だったはず。彼女が死ぬほど怖がった痛みは感じる暇はなかった? 急激に迫る地上…アスファルトは救いへの光だった?
読了日:10月08日 著者:二階堂 奥歯
火の娘たち (岩波文庫)の感想
(前略)中東を含めたギリシャローマの古今の世界を自在に、あるいはまさに幻想の中で往還することが感じられてくると俄然、作品の世界が楽しめる。プルーストの『失われた時…』では、マドレーヌ効果が印象的なように、本作ではふとした機会に主人公は嘗ての世界の現前を目の当たりにする。そんな幻想。諸作品の有機的つながりが感じられだした本書の半ば頃になって遅まきながら丁寧に読んでいくようになった。彼の世界を存分に楽しむには(特に馴染みのない吾輩のようなものは)たっぷりの素養か、幻想文学への馴染み…センスが必要なのだろう。
読了日:10月07日 著者:ネルヴァル
源氏物語と白楽天の感想
吾輩の感想など野暮で無駄ですらある。筆者の結語の一部を示すだけにとどめる:「男の一代記としての光源氏物語は、幻を求める心を首尾とした物語であり、次代までもとり入れた物語は生死の境を超えて愛の因果に仕組まれた非情さをも主題とするものであった。白楽天の詩文を協奏する『源氏物語』の作業とは、こうした大きな宇宙観を読者に提示することだったのである。」
本書を読む苦労は、そもそも「源氏物語」を地では読めないのに、それに輪をかけて、白楽天の詩文の書き下し文すらまともに理解できない自分の素養のなさに起因する。
読了日:10月06日 著者:中西 進
草の葉―ホイットマン詩集 (岩波文庫 緑 36-9)の感想
有島武郎による選訳書。旧字体。日頃愛唱してやまないと自序でも書いている。巻末には年譜が載っているが、それを読むのも興味深い。さらに本書には有島によるホイットマン論でもある小文が載っている。彼の思い入れの深さと、ホイットマン理解の深さが感じられる。ホイットマンのアメリカに限らず英米の詩の歴史の枠組みからも食み出す世界。詩の形式をも次第に破ってまでも自然に向き合おうとする、孤立を恐れぬ姿勢。この小伝にはホイットマンの恋愛、女性に対する姿勢も語られている。やがて有島の「或る女」などへも繋がっていくのだろうか。
読了日:10月02日 著者:ホイットマン
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