2021年9月の読書メーター
先月もいろいろ楽しんだ。東海道中膝栗毛の再読もだが、特筆すべきはウェイリー版源氏物語の日本語訳を読み始めたこと。今月はそれがメインになりそう。
9月の読書メーター
読んだ本の数:17
読んだページ数:5727
ナイス数:10551
僕が死んだあの森の感想
ことの発端は、「母とともに小さな村に暮らす十二歳の少年アントワーヌは、隣家の六歳の男の子を殺した。森の中にアントワーヌが作ったツリーハウスの下で。殺すつもりなんてなかった。いつも一緒に遊んでいた犬が死んでしまったことと、心の中に積み重なってきた孤独と失望とが、一瞬の激情になっただけだった。でも幼い子供は死んでしまった。」この前後の三日が主人公の人生を決定する。ネタバレ? 違う。
読了日:09月29日 著者:ピエール・ルメートル
三人の女たちの抗えない欲望の感想
著者は、米ニュージャージー州出身の作家・ジャーナリスト。本作については、「八年越しの取材で女性のリアルを描き出し、各紙誌の絶賛を浴びたノンフィクション…ルポルタージュ」とも。3人の女性たちのリアルが交互に螺旋を描くように断片的に描かれていく。それぞれに何処にでも居そうな、しかし現実には同じ人生などありえない生活が描かれ、ドンドン展開していくので、前の話との繋がりが見えず戸惑うことも(これは自分が最初は日に数十頁ずつ読んでいたせいもある)。
読了日:09月27日 著者:リサ・タッデオ
日本史サイエンス 蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る (ブルーバックス)の感想
「蒙古は上陸に失敗していた! 秀吉には奇想天外な戦略があった! 大和には活躍できない理由があった! 日本史の3大ミステリーに、(中略)船舶設計のプロが挑む。リアルな歴史が、「数字」から浮かび上がる!」といった本。
読了日:09月26日 著者:播田 安弘
東海道中膝栗毛 下 (岩波文庫 黄 227-2)の感想
上巻を読み始めたのは十日頃か。コロナ禍で旅行も行けない中、せめて本の上で長旅気分と読み出した。94年頃、新潮社の文学全集の中の一巻を図書館から借り出して読んだっけ(当時は失業中だった)。長いとは到底言えない2週間ほどの旅も明朝には草鞋を脱ぐことになりそう。徒歩での長旅など今生 やることはないだろう。東海道は、新幹線やバイク(高速道)でなら何度か。夜行や寝台車でも通過したことはある。
読了日:09月25日 著者:十返舎 一九
曾我蕭白 (新潮日本美術文庫)の感想
「曾我蕭白(享保15年(1730年) - 天明元年1月7日(1781年))は、江戸時代中期の絵師。蛇足軒と自ら号した。高い水墨画の技術を誇る一方、観る者を驚かせる強烈な画風で奇想の絵師と評される。」好きな…というより畏怖すべき絵師。作品は芸術というより、蕭白の気迫溢れる世界そのもの。「寒山拾得図」ほか、驚嘆させる作品が多々。
読了日:09月24日 著者:狩野 博幸
科学とはなにか 新しい科学論、いま必要な三つの視点 (ブルーバックス)の感想
「科学を毛嫌いする反知性主義も、過度に信奉する権威的専門家主義も、真に科学的であることはできない。日本の科学技術力はなぜ衰退しているのか?疑似科学信仰はなぜ拡大するのか?(中略)科学の意味を問い直す、「新しい科学論」」の本。 何処までも高度化し細分化する科学。卑近な例でいえば、何か体調に異変を覚えたとする。歯や眼ならそれぞれの科へ行けばいいのだろうが、もっとつかみどころのない場合もある。大きな病院の受付で、何科を受診すればいいのか、それを自分で決める…その判断は正しいのだろうか。
読了日:09月23日 著者:佐倉 統
マインド・タイム: 脳と意識の時間 (岩波現代文庫 学術 429)の感想
「私たちが何かをしようと意識するよりも前に脳の活動が始まっている。この発見が哲学において名高い自由意志の論争に衝撃をもたらしたように、リベットが提示する実験結果に裏づけられた驚愕の知見は、幅広い分野に大きな影響を与えてきた」という。岩波の初版から15年以上を経て岩波現代文庫に入った本。この手の本では珍しいようだ。
読了日:09月21日 著者:ベンジャミン・リベット
源氏物語 A・ウェイリー版1の感想
源氏物語の世界は色に例えたら紫と思う。1925年から徐々にイギリスに姿を現していった、ウェイリー版源氏物語。ヴィクトリア朝時代の桎梏からの脱却を苦闘していた詩人らに衝撃を与えた。T・S・エリオットやW・B・イェイツらとの交流のあったウェイリー。当時の評論家らは作者のムラサキをプルースト、ジェーン・オースティン、ボッカッチョ、ジェイクスピアになぞらえたり。ムラサキとウェイリーとの合作と言っていい本作は、ヴァージニア・ウルフにも衝撃を与えた。英訳された源氏物語を訳者らは日本語へ訳した。
読了日:09月20日 著者:紫式部
AVについて女子が知っておくべきすべてのことの感想
スポーツ新聞社の記者として取材経験あり。2014年にAVデビュー、約750本の作品に出演。WWEに憧れ英検1級取得。TOEIC満点。英語力を生かし海外でのイベントに参加、英語で情報発信も。「AV女優を志望するなら事前にその業界の情報を得ておくべき」で、「本書はAV女優をめざす方にとって、心の準備をするサポートになれば幸い」と。さらに、「誰かがその人なりの理由でAVの仕事を始めるなら、始める前より楽しい人生を得てもらいたい」とも。とにかくクレバーで前向きな人。こういう方も業界には居たんだなあと感懐深い。
読了日:09月18日 著者:澁谷 果歩
東海道中膝栗毛 上 (岩波文庫 黄 227-1)の感想
麻生磯次校注の本書は1973年の刊。吾輩は、新潮の文学全集版で1995年に初読。何故か未だに印象に残っている。旅どころかちょっとした旅行も難しい今だからこそ、読み返したくなった。十返舎一九の二十八歳から三十五歳までの八年間の苦心の作。今とは時代が違うとはいえ、一九 若い! 江戸ッ子の弥次郎兵衛と北八コンビの道中滑稽談。駄洒落など言葉遊びが満載。折々の狂歌が抜群。源氏物語もだが、物語の中に歌を織り込むのは日本独自のスタイル? さて、先を急ぐので、今夜にも下巻へ。
読了日:09月17日 著者:十返舎 一九
皮膚はすごい: 生き物たちの驚くべき進化 (岩波科学ライブラリー)の感想
人類はある時期(一二〇万年前)、体毛を失った。 お蔭で馬もだが、汗を流すことで体温調節が可能になり、長距離を走れるようになった。 一方、ごく薄い角層は、水を通さない。 放っておいて干上がることはない。 それはケラチノサイトの変化したもの。 ケラチノサイトには電場や適切な温度、可視光、音波などの刺激を感知する機能がある。 皮膚感覚は、表皮の下に来ている神経終末や、表皮の中に入り込んでいる神経線維に担われている。 が、著者によると、ケラチノサイトも担っているというのだ。
読了日:09月11日 著者:傳田 光洋
魚たちの愛すべき知的生活―何を感じ、何を考え、どう行動するかの感想
内容案内では、「チンパンジー顔負けの知性や親しみを誘う行動などとともに、見すごされてきた魚たちの豊かな内面世界を描」くとあるが、実際、近年の研究で魚類の想像を超えた世界が見えてきた。 本書を読むと、生活のためならともかく、楽しみでの釣りなどとんでもないと気付かされる。
子供の頃、近所の兄さんに連れられて小川や海へ釣りに出かけたものだが、すぐに嫌になった。 釣り針にミミズを刺すのが気色悪いと感じたからだと思っていたが、魚の目や吊り上げられての魚の飛び跳ね方に死の悶絶……断末魔の足掻きを直感した。
読了日:09月10日 著者:ジョナサン・バルコム
それでも、日本人は「戦争」を選んだ (新潮文庫)の感想
2007年の年末年始の五日間、高校生相手に行われた講義を元にした本。「指導者、軍人、官僚、そして一般市民はそれぞれに国家の未来を思いなお参戦やむなしの判断を下した。その論理を支えたものは何だったのか。鋭い質疑応答と縦横無尽に繰り出す史料が行き交う中高生への…集中講義を通して、過去の戦争を(略)考える日本近現代史」。近年の選挙は高年齢の方の投票率が高い一方、若い人の投票率は低い。若い人に政治(など)にもっと関心を持ってほしいという願いがある。
読了日:09月09日 著者:加藤 陽子
土偶を読む――130年間解かれなかった縄文神話の謎の感想
土偶好きは少なからずいるに違いない。吾輩もその一人。特にあの遮光器土偶! その謎が解けるなら、なんとしても読みたい。
「現代までに全国各地で2万点近くの土偶が発見されている。 ・一般的な土偶の正体として 「妊娠女性をかたどったもの」 「病気の身代わり」 「狩猟の成功を祈願する対象」 「宇宙人」……」などの説がこれまでに展開された。が、実はいずれも確証が得られていない。」
読了日:09月06日 著者:竹倉 史人
ミメーシスを超えて: 美術史の無意識を問うの感想
2000年5月刊だが、書物復権という11の出版社共同の復刊のコーナーがあって、2021年復刊の本を発掘してきた。本書は題名(テーマ)からしてかなりハイトーン。表題の美術史の無意識を問うとは、これまでの美術を支配していたのは、絵の見方にしろ、そもそも美術の歴史自体が「父の機能」だったことを示すこと。本書で圧巻だったのは、第五章の「「傷」のメトニミー」だった。その副題は「カラヴァッジョの<聖トマスの不信>をめぐって」である。「メトニミー」とは換喩。
読了日:09月06日 著者:岡田 温司
ゼーノの意識 ((下)) (岩波文庫 赤 N 706-2)の感想
題名は「ゼーノの意識」とあるが、「ゼーノの良心」と訳すべきかと迷ったと、訳者。吾輩は、「ゼーノの良心」がより相応しいと感じた。「意識」は、作家と交流があり、本作を褒めたというあのジョイスに引き摺られたのだろう。意識の流れの手法が本作でも使われている…そうとは思えなかった。患者である主人公は、精神科医に勧められフロイト流の精神療法の一環で回想を試みた。冒頭は煙草を止めようとして挫折を繰り返す苦い場面。だが、禁煙の決心は本当に決心だったのか。守るつもりのない禁煙の意志はまさに良心の疼きに繋がるはず。
読了日:09月04日 著者:ズヴェーヴォ
ゼーノの意識 ((上)) (岩波文庫 赤 N 706-1)の感想
身勝手で我が侭な、生活には終われていない男の回想。少なくとも、上巻の250頁ほどまでは、やや退屈だった。直前にモーリアの傑作を読んだから、どうしても比較してしまう。さすがに上巻の終わり頃になって、男の身勝手が他人(妻や愛人など身内)を巻き込んできて、読み手としては息苦しくなり、作品の力なのか描かれる状況の切迫感なのか分からなくなった。
読了日:09月02日 著者:ズヴェーヴォ
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