2021年8月の読書メーター
セルバンテス「ドン・キホーテ」、松本清張の「砂の器」、ウルフのエッセイ、モーリア「原野の館」、感染症の大著「スピルオーバー」など充実した読書ができた……仕事が暇で……。
8月の読書メーター
読んだ本の数:18
読んだページ数:6480
ナイス数:8473
新版 徒然草 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)の感想
6年前に読了した際、次のように書いた: 「手にしたのは、何度目のことか。今回は、兼好の生きた時代を感じつつ読むことで楽しめた。柔らかな発想もだが、時代の転換期を透徹した目で見ていることを感じた。いつかまた読み返したい。」さすがにもう再読はないだろうと、ゆっくりじっくり読んできた。良かった。
読了日:08月31日 著者:兼好法師
原野の館 (創元推理文庫)の感想
感想は書かない。冒頭の数頁読んだだけで原野の叙述に痺れた。一気読みしたいけど、叙述自体を楽しむべきと感じ、敢えて1週間を費やして読んだ。美は細部にあり。だからと云って物語性も存分に楽しめる。結末には異論がありえようが、主人公は若い女性なのだから、新たなチャレンジなのかもしれない。お薦め。
読了日:08月30日 著者:ダフネ・デュ・モーリア
偶然とは何か:北欧神話で読む現代数学理論全6章の感想
2006年に翻訳が刊行。2021年の夏、「書物復権」なる特設コーナーで発掘。原書は1991年。古い! エイズが世界的に蔓延し多くの人が怯えていた頃の本。偶然をテーマの本は各種あるが、本書は、「欧米人の精神風土を基礎づけた散文物語「サガ」を起点にラブレーやゲーテなどの文章も随所に織り込んだ」点にあろう。尤も、日本人にはややなじみが薄い。
読了日:08月29日 著者:イーヴァル エクランド
哲学的な何か、あと数学とか (二見文庫)の感想
後書より:「フェルマーの最終定理という難攻不落な難問。 それに取り組む学徒たちの姿を通して人間が生きる意味を探るテキスト。 (中略) 数学がいかにロマンに満ちあふれた学問であるか、その一端を少しでも」。数式なし。数式や公式、定理といった出来あいの結果の羅列しか目にしない我々門外漢に証明に至る(至らなかった)ドラマとドキドキを追体験させてくれる。
読了日:08月24日 著者:飲茶
なぜ脳はアートがわかるのか 現代美術史から学ぶ脳科学入門の感想
著者は脳神経科学者。記憶の神経メカニズムに関する研究により、2000 年ノーベル医学生理学賞を受賞された。「脳科学、医学、認知心理学、行動科学から美学、哲学まで、あらゆる知を総動員し、人間の美的体験のメカニズムを解き明か」そうとした企ての著作である。どの程度うまくいっているのか。訳書は2年前だが、原書は2016年刊。まあ、ポピュラーサイエンス本としては新しいほうか。サイエンス系の本だが、本書は、アートなど文科系の文化と、脳科学など理科系の文化とを橋渡しする環境を整えようとする著者の試みの一環にある本。
読了日:08月23日 著者:エリック・R・カンデル
砂の器(下) (新潮文庫)の感想
本作は、如何にも清張らしい重厚な作品。彼の幅広い素養と該博な知識、社会問題への関心の深さが相俟って、読み応えのある作品になっている。娯楽作品と呼ぶのは抵抗があるが、文学作品と呼ぶのも難しい(とは清張も自覚していたか)。本作品は、押し売りなど当時の世相が興味深いが、なんといっても、ハンセン病への偏見が色濃く残っていた時代背景なしにリアリティは生まれない。病に侵された人は顔が歪んでいく。容貌魁偉な惨状は人に恐怖を呼び起こす。
読了日:08月21日 著者:松本 清張
増補 日本語が亡びるとき: 英語の世紀の中で (ちくま文庫)の感想
水村美苗といえば、夏目漱石の未完に終わった『明暗』の続きを書いた『續明暗』で有名だし、我輩もそのことで存在を認識した。いつかは読みたいと思いつつ果たせず来た。本書は、「日本語は、明治以来の「西洋の衝撃」を通して、豊かな近代文学を生み出してきた。いま、その日本語が大きな岐路に立っている。グローバル化の進展とともに、ますます大きな存在となった“普遍語=英語”の問題を避けて、これからの時代を理解することはできない。」というもの。
読了日:08月21日 著者:水村 美苗
文庫 女子高生コンクリート詰め殺人事件 (草思社文庫)の感想
犯行に関わった四人の生い立ちが本人たちの証言も含め語られる。本書の大半がそうした記述。出版社は、「現代の子育てと学校教育を考えるための最重要資料」と謳っている。法廷での犯人たちや親たちの証言は、生々しい。女子高生は40日もの拉致監禁で凄惨なリンチを受ける。監禁は犯人グループの一人の自宅。親も女子高生の存在に気付くも、それまでの息子との軋轢で断固たる措置が取れず、ずるずると監禁が長引き、最悪の結果に至った。当時、あまりの凶悪ぶりに、少年らがこんなとをするのかと、信じられない思いだった。今も。
読了日:08月19日 著者:佐瀬稔
砂の器(上)(新潮文庫)の感想
半ばまではいかにも大衆小説って感じで、飽かせないがどうかなと。段々盛り上がってきた。いよいよ本作品を重厚なもの足らしめているテーマへ。始めチョロチョロで、中パッパであることを期待。早速下巻へ。
読了日:08月18日 著者:松本 清張
スピルオーバー――ウイルスはなぜ動物からヒトへ飛び移るのかの感想
日に30頁ずつ読んできたが、最後は連休だったし文体に慣れてきたこともあって、二日で残りの170頁余りを一気に読んだ。原書は2012年のアメリカのベストセラー。こんな中身の濃い分厚い本がベストセラーって、アメリカの懐の深さを感じる。内容は、「ウイルスたちはなぜ、いつ、どこで、いかに種を超え人間へと飛び移り、大惨事をもたらしてきたのか。異種間伝播(スピルオーバー)を通じて爆発的に広がった疫病の実態とそれに挑戦する人々の苦闘を、徹底した現地取材を通して辿る」というもの。
読了日:08月17日 著者:デビッド・クアメン
AV女優、のちの感想
著者は、アダルトテーマ全般を中心に執筆のライター。特にエロとデジタルメディアとの関りに注目しているとか。筆者の本を読むのは二冊目。一冊目の際、実は名前からして筆者は女性だと思い込んでいた。二冊目になる今回も同じ誤認。情けない。女性のAV女優という仕事に対する見方を知りたいと言う動機があったのだが。
読了日:08月14日 著者:安田理央
海底の支配者 底生生物-世界は「巣穴」で満ちている (中公新書ラクレ (676))の感想
ゴカイやユムシなどの底生生物が、海底に穴を掘って暮らすってこと自体が初耳。なるほど海辺の砂場に穴が空いているのを目にすることはあったが、こうした生態があったとは驚き。しかもその穴は、彼らの体の数十倍の大きさ。生き延びるための戦略だろうが、知らない世界が海の底に広がっていることを思うだけでも、生き物の世界の奥深さを感じさせてくれる。巣穴の形を取る方法も興味深い。こういう研究があるってことを知るのも意義があろう。ただ珍しい生き物たちの画像をもっと観たかった。
読了日:08月12日 著者:清家 弘治
アメリカに潰された政治家たち (河出文庫)の感想
「日本の戦後対米史は、追従の外交・政治史である。なぜ、ここに描かれた政治家はアメリカによって消されたのか。沖縄と中国問題から、官僚、検察、マスコミも含めて考える。岸信介、田中角栄、小沢一郎、鳩山由紀夫…。」北方領土や竹島、尖閣諸島、辺野古などの根源は何処に。日本の政治がこんな隘路に陥ったのは何故か。失われた30年は何故か。目に唾してでも構わない。今の日本に危機感を抱いているなら、一読を勧める。
読了日:08月10日 著者:孫崎享
ドン・キホーテ 後篇3 (岩波文庫)の感想
これで全六冊を読み終えたことになる。大作だし、再読することは恐らくないだろうと、一気読みはしないで、ゆっくりゆったり読んできた。巨大な水車を巨大な敵と観て戦いを仕掛けるドン・キホーテという、昔読んだ物語の冒頭のイメージが後篇を読むことで大きく覆された。物語に作者が出たり偽のドン・キホーテらが登場する物語が物語の中に繰り込まれたり、ドン・キホーテが正気と狂気を往還した挙句、最後には……。なるほど、全体を読んで初めて本作品が以後の作家らに甚大な影響を及ぼしたのもなるほどと思わせられる。楽しい物語の長旅だった。
読了日:08月08日 著者:セルバンテス
世にも美しき数学者たちの日常の感想
「最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常」の著者。数学が苦手な著者や編集者らが、全く接点のない数学者らに会って話を聞く。数学が分かる、数学が面白い、数学にのめり込む<人種>が居る、そのこと自体 驚きだ。形や動きの先に何か奥深いものを嗅ぎ取ってしまう。混沌とした世界に秩序を掴みとる。数式は道具であり結果に過ぎない。実際に数学者の面々に会うと、偏見通りの孤高の人より普通の人が多いことに逆に驚いたり。将棋や囲碁の天才より芸術家に近いのかもしれない。とにかく楽しい探訪記である。
読了日:08月07日 著者:二宮 敦人
量子力学の奥深くに隠されたもの コペンハーゲン解釈から多世界理論への感想
一般向けを意識して数式は一切使っていないものの、我輩にはなかなか理解が及ばない。読了するのに二週間を要した。それでも、著者の懇切な説明についつい釣り込まれていく。本書のテーマは、コペンハーゲン解釈から多世界理論へだが、小生は多世界理論はあまりに荒唐無稽と勝手に決めつけていた。が、本書を読んでそんな思い込みは早計だと感じた。本書では第三部「時空」の数章が特に面白い。量子力学という長年の難問に多世界量子力学が重要な影響を及ぼせるかもしれないという著者の考えが示されているからだ。
読了日:08月06日 著者:ショーン・キャロル
文庫 庭仕事の愉しみ (草思社文庫)の感想
ヘッセ作品は、主に若いころ、『車輪の下』『デミアン』『シッダールタ』『荒野のおおかみ』などといくつかは読んだものだ。中でも『荒野の狼』は若いころ、ほとんど座右の書だった。四半世紀を経て読んだ際には、もう、当時の興奮は感じられなかった。若いころにこそ読む本というのはあるのだろう。
読了日:08月04日 著者:ヘルマン・ヘッセ
病むことについて 新装版の感想
これまで小説と日記などを読んできた。本書は、評論家エッセイストとしてのウルフ作品が楽しめる。伝記や書評論、随筆、父のこと、ウエイリー英訳版『源氏物語』を読んでの反応などと多様な文を楽しめた。表題の「病むことについて」や、「蛾の死」が短文ながら秀逸。象徴の域に届きそう。「斜塔」で、英文学史について他では得られない知見が得られた。もっとエッセイを読みたく感じた。
読了日:08月03日 著者:ヴァージニア・ウルフ
読書メーター
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 2024年9月の読書メーター(2024.10.01)
- 2024年8月の読書メーター(2024.09.04)
- 2024年7月の読書メーター(2024.08.05)
- 2024年6月の読書メーター(2024.07.14)
- 2024年5月の読書メーター(2024.06.03)
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- 2024年9月の読書メーター(2024.10.01)
- 2024年8月の読書メーター(2024.09.04)
- 2024年7月の読書メーター(2024.08.05)
- 2024年6月の読書メーター(2024.07.14)
- 2024年5月の読書メーター(2024.06.03)
「書評エッセイ」カテゴリの記事
- 2024年9月の読書メーター(2024.10.01)
- 2024年8月の読書メーター(2024.09.04)
- 2024年7月の読書メーター(2024.08.05)
- 2024年6月の読書メーター(2024.07.14)
- 2024年5月の読書メーター(2024.06.03)
「読書メーター」カテゴリの記事
- 2024年9月の読書メーター(2024.10.01)
- 2024年8月の読書メーター(2024.09.04)
- 2024年7月の読書メーター(2024.08.05)
- 2024年6月の読書メーター(2024.07.14)
- 2024年5月の読書メーター(2024.06.03)
コメント