2021年7月の読書メーター
暑い。仕事は夕方から未明まで。日中はだから基本 睡眠時間帯となる。エアコン頼り。買い物に出るのがやっと。七月の読書はなんといっても、ピンチョンの『重力の虹』がメイン。理解したとか堪能したとは言いづらいが、読書体験として銘記されるだろう。セルバンテスの『ドン・キホーテ』も前月から。これも物語の世界の根幹はここにあると感じている。八月上旬には全六巻を読了かな。
画像は、東京在住時代も終わりに近づいていた2006年の夏前、東京芝。タクシーで都内を走り回った。芝・増上寺界隈も休憩などで馴染みの場所の一つ。歩道橋の上から何度も東京タワーを眺め撮影した。
7月の読書メーター
読んだ本の数:13
読んだページ数:4825
ナイス数:7073
ドン・キホーテ 後篇2 (岩波文庫)
読了日:07月30日 著者:セルバンテス
恋するアダム (新潮クレスト・ブックス)の感想
さすがに物語の工夫は随所にあって、最後まで読ませる。一番の眼目は、Alロボットが主人公の愛しい人を恋すること。一方でネットを介して膨大な情報を摂取する。法律も含めて。ただ、時代設定が曖昧で(一応1982年)、自動運転車が実用化してたり、アラン・チューリングがまだ生存して、かなり重要な理論的発言をさせたり、正直 小説としては、頭でっかちの感が強い。情報が(今の段階では妄想に近いAlやロボットに纏わる懸念も含め)山盛り。それでもロボットに予め設計に組み込まれている法的正義を何より至上とする思想が……
読了日:07月29日 著者:イアン・マキューアン
幾何学の偉大なものがたりの感想
著者は、「イタリア数学協会よりガリレオ賞を受賞した幾何学者」である。
『ヒポクラテスの誓い』で有名なヒポクラテスは我輩も知らないではない。が、古代ギリシャの数学のヒポクラテスは、知らなかった。本書を読んで天才だと、思い知った。ユークリッドの「原論」の土台も数学者ヒポクラテスが作ったんだ。…など、いろいろびっくりな知見もあって飽きない。本書では、デモクリトスの扱いが小さいことに失望。彼は幾何学者じゃなく、物理学も含めた哲学者だから埒外か。
読了日:07月26日 著者:ピエルジョルジョ・オーディフレッディ
沖縄戦の子どもたち (歴史文化ライブラリー 526)の感想
「太平洋戦争末期、激しい戦禍に遭った少年少女たち。彼らの体験や視点を通し、二度と戦争を起こさないために何ができるのかを考える。」という本。感想は随時書いてきた。読めば読むほど腹が立つ。明治維新政府……大和人が沖縄人に対して行った同化政策。現代中国が香港に為していること、ウイグル族に為していることを彷彿させる。
読了日:07月23日 著者:川満 彰
『失われた時を求めて』への招待 (岩波新書 新赤版 1884)の感想
「無二の大長編は、なにを、どのように語っているのか。全訳を達成した第一人者によるスリリングな解説書」というもの。吉川氏による『失われた時を求めて』をリアルタイムで数年かけて全編を読んだ。訳者に敬意を表し、本書を手にした。得られる知見は多々あったが、読んだ時の楽しさを思い返していた。いつか再読することがあるだろうか。
読了日:07月21日 著者:吉川 一義
計算する生命の感想
あとがきで森田氏は、本書は連載や全国各地で開催してきたトークライブで少しずつ重ねてきた思考をまとめたものであるとした上で、「特に、大人のための数学教室「和から」の主催で、(中略)東京で開催してきた「『数学する身体』実践ゼミ」は、ユークリッドの『言論』や『幾何学』、フレーゲの『算術の基礎』など、本書に登場する数学史の古典を、あらためて「計算の歴史」に位置づけ、読み解いていく試みで、本書の核となる思考の多くの部分が]、このゼミのなかで生まれた」と述べている。
読了日:07月19日 著者:森田 真生
重力の虹〈2〉 (文学の冒険)の感想
本作品は、ロケットを巡っての物語である。第二次世界大戦末期から終戦直後にかけてのヨーロッパが主な舞台。「中心となるのはアメリカ軍中尉タイローン・スロースロップ。行く先々で女と関係を持つスロースロップには、セックスした後にV2ロケットが落下するという秘密があった。その秘密を知る組織の面々はスロースロップを監視し、様々な仮説を打ち立てる」という荒唐無稽な物語。
読了日:07月18日 著者:トマス ピンチョン
ドン・キホーテ〈後篇1〉 (岩波文庫)の感想
意図的なのか後篇になって物語の……あるいはドン・キホーテらの性格……もっと言うと描き方が変質した気がする。ドン・キホーテの狂気ぶりが先鋭化してる。類い稀な記憶力と(独特な)知性に磨きがかかり、一方 尋常じゃない狂気……疑うことを知らない思い込みの頑なさとの両立 それとも緊張感ビンビンの屹立が物語の面白さを際立たせている。正気とは何か、何があなたの正気を保証するのか、社会の認知以外に正気は正気足りえない。箍を外してはいけない。
読了日:07月17日 著者:セルバンテス
須賀敦子が選んだ日本の名作: 60年代ミラノにて (河出文庫)の感想
「須賀の編訳・解説で60年代イタリアで刊行の『日本現代文学選』から13篇収録。解説は日本人にも作品への見事な誘いとなっている」とか。我々にとっての現代にも読まれている作家(作品)もあれば、読まれてしかるべき作家(作品)も。感想めいたことは、個々の作品読了の都度 書いてきた(ブログに収めた)。悲しいかな、石川「紫苑物語」は、肌に合わなかった。
読了日:07月12日 著者:
20世紀アメリカ短篇選〈上〉 (岩波文庫)の感想
古書店で発掘した本。20世紀の前半、戦争前の作家の作品が載っている。「20世紀前半のアメリカ社会をも浮彫りにする短篇集」とのことで、作品を一つ読むたびにメモって来た。オー・ヘンリー、ドライサー、ロンドン、フォークナー,スタインベック、フィツジェラルド、ヘミングウェイ、コールドウェル、オルグレンらの作品を楽しめる。
読了日:07月10日 著者:
完訳 グリム童話集〈2〉 (岩波文庫)の感想
王さま、王子さま、王女さま、悪魔、意地悪か姑息というか、現実的な兄乃至姉二人と、どんくさい末弟か末妹という、三人の息子(娘)たちという登場人物。娘は誰も観たことのない美しさ。美人か金持ちか、魔力的能力(才能)を持つ人物でないと話の俎上に上らない。王さまは娘の意志を確かめることなく、自分の決めたところに嫁がせる。深い森にすむ動物たちは不思議な力を持つ。森の案内者でもある。擬人化された森の動物たち。動物に限らず家や木も不思議な力を持つ。
読了日:07月05日 著者:W. グリム,J. グリム
重力の虹〈1〉 (文学の冒険シリーズ)の感想
20世紀の文学はメルヴィル『白鯨』ジョイス『フィネガンズ…』プルースト『失われた時…』マルケス『百年の孤独』などを意識しないわけにいかない。トルストイやドストエフスキー、フロベールらは前提として。文学は如何なる存在であるべきか。徹底して純粋なる世界を志向するか、個別の風俗的矛盾を露見させようとするか。それとも、現下の世界のあらゆる事象を意識し、文学は無論 哲学科学経済技術軍事文化など、あらゆる文献論考を踏まえ、取り込み、全体を無謀なまでに意識せんとするか。
読了日:07月04日 著者:トマス ピンチョン
狂気の愛 (光文社古典新訳文庫)の感想
愛にはアガペーの愛とエロースの愛があると(古代ギリシャに寄り添うと)言われることがある。アガペーは宗教的な愛、崇める愛、天上への崇高なる愛である。一方、エロースの愛は、地上的な愛、肉欲を含め、人間の愛、俗なる愛である。この紋切り型な対比を遊戯的に使えば、アンドレ・ブルトンは徹底してエロースの愛に偏したと感じる。
読了日:07月02日 著者:アンドレ ブルトン
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