« 2020年9月の読書メーター | トップページ | 2020年11月の読書メーター »

2020/11/02

2020年10月の読書メーター

Kuma ← 玄関で見守る鮭を掴む熊と子……の木彫り。

 仕事の他に庭や畑仕事に精出したわりに、よく読めたかな。永らく書庫の奥に鎮座し埃をかぶったままだった角川版漱石全集を基軸に、懸案だったデカメロンも読み始めたし、久々オースターを読んだ。サイエンスものも好著に恵まれた。充実した読書と思える。

10月の読書メーター
読んだ本の数:13
読んだページ数:4838
ナイス数:6203


インフィニティ・パワー: 宇宙の謎を解き明かす微積分インフィニティ・パワー: 宇宙の謎を解き明かす微積分感想
面白かった。ストロガッツがまた名著を世に生み出した。2017年、グーグルは、アルファゼロと呼ばれる深層学習プログラムを発表。チェスの世界に衝撃を与えた。チェスを自身! で学習。恐るべきは、アルファゼロは、洞察を示した点。邪悪でサディスト的で創造的。人類が初めて見た、恐るべき新種の知能。近い将来、超人間的知能が、人間に解決できない問題を解決できたとして、我々にはそのプロセスを理解出来ないかもしれない。まさに、「総合的俯瞰的に」アルファゼロが洞察し結論を出す。人間には従うしかない。ユートピアかディストピアか。
 読了日:10月31日 著者:S. ストロガッツ


吉原の舞台裏のウラ 遊女たちの私生活は実は〇〇だった? (朝日文庫)吉原の舞台裏のウラ 遊女たちの私生活は実は〇〇だった? (朝日文庫)感想
出版社の内容案内に「江戸時代に遊郭が設置され繁栄した吉原。その実態を覗き見しつつ、繁栄の裏側に隠された遊女の実像や当時の大衆文化に迫る」とある。貧しさや親(多くは男親の放蕩)ゆえに女衒に売られ、そして苦界に沈んでいく少女ら。遣り手や先輩女郎らに芸や色の道を教え込まれる。田舎ではありえない贅沢の極みと、一旦堕ちるととめどない奈落の底。錦絵に観られる豪華絢爛な姿は実態とは懸け離れていたという。着るものも食べるものも想像の他の貧しさ。
読了日:10月28日 著者:永井 義男


ミミズによる腐植土の形成 (光文社古典新訳文庫)ミミズによる腐植土の形成 (光文社古典新訳文庫)感想
ダーウィン最後の著作。息子や娘、姪そして友人らの研究や協力がしばしば言及されている。息子の誰々 娘の誰々と名指しして。もしかして彼等を引き立てる意図もあって、好きなミミズの研究書を書いた? 本書を読むと言っても、ミミズが好きなわけじゃない。ダーウィンも子供の頃の嫌な思い出があって、ミミズ研究に携わるとは思いもよらなかったようだ。吾輩も小学生の頃、近所のお兄さんに岩瀬浜へ魚釣りへ連れてもらった。何が嫌と言って、釣り針にミミズを突き刺す段取りが嫌だった。家の畑ではミミズには免疫はあったが。
読了日:10月26日 著者:ダーウィン


生命の〈系統樹〉はからみあう: ゲノムに刻まれたまったく新しい進化史生命の〈系統樹〉はからみあう: ゲノムに刻まれたまったく新しい進化史感想
ダーウィンの進化理論(イメージでは、〈樹〉として描かれる)が否定されたわけではないが、生命(進化)の歴史は想像以上に複雑だったと分かってきた。本書の前書きにあるように、「分子系統学がもたらした意外な洞察は、生命の歴史や、生物のからだの機能を担うパーツについての、わたしたちの知識体系を根本からつくり変えた」という。
読了日:10月23日 著者:デイヴィッド クォメン


夏目漱石全集〈5〉 (1974年)夏目漱石全集〈5〉 (1974年)感想
古書市で入手した角川版漱石全集を読み続けている一貫である。「坑夫」は失敗作の評価が一般のようだが、切羽詰まっての創作であると同時に、かなり実験的な作品で、吾輩は楽しめた。「文鳥」は一転して、文鳥に託してのある女性への思いを静かに描いていて絶品である。「夢十夜」は、時代を超えた今でも色褪せない価値のある作品。これだけでも彼の名は残るだろう。漱石の読み返しの試みを初めて7か月。文学を哲学レベルから徹底して考える漱石。漱石の自分なりの再認識熱は続く。
読了日:10月22日 著者:夏目 漱石


食卓歓談集 (岩波文庫)食卓歓談集 (岩波文庫)感想
「酒席で哲学談義してもよいか」「なぜ女は酒に酔いにくく老人は酔いやすいか」「鶏と卵はどちらが先か」「ユダヤ人はなぜ豚を食べないか」「アルファはなぜアルファベットの始めにあるか」等々。歓談というが、プラトンで云う饗宴か。今でいうシンポジウムほど形式ばらない。自然現象をあれこれ問答する議論が興味深い。科学なき時代、とんでもない妄説が飛び交う。古代ギリシア・ローマの饗宴の席に(創作であっても)こんな話が交わされていた。同時代の日本は弥生の前期か。当時の弥生の人々の会話を探るすべは何もないのかな。
読了日:10月18日 著者:プルタルコス


最新DNA研究が解き明かす。 日本人の誕生最新DNA研究が解き明かす。 日本人の誕生感想
興味深いテーマで、吾輩には難しいところ(特に第一章のゲノム解説、中でも集団遺伝学の基礎知識が数式などもあって理解が及ばなかった)もあったが、興味に惹かれて一気読み。
 本書は、日本人の誕生とあるが、専門的にはヤポネシアと表記したかったのだろう。大まかには日本列島の意味。ゲノム解析の技術が近年飛躍的に高まり、まさに今、どんどん新しい知見が生まれつつある。本書では特に、第6章の「ピロリ菌ゲノムから探る日本列島への人類移動」が面白かった。
読了日:10月16日 著者:斎藤成也,木村亮介,鈴木留美子,河合洋介,松波雅俊


田舎教師 (新潮文庫)田舎教師 (新潮文庫)感想
実在の人物の日記を元に小説に仕立てたもの。だが、小説になり切っていない。福田恆存氏も解説で書いているが、主人公の影というか存在感が薄い。当時の世相からも出世主義に駆られ、死の病に侵されても、文学の道をと思いつつ、若くして肺病に没してしまう。モデルとなった人物が平凡だったのか、作家の田山氏に力量が足りなかったのか、主人公の渇望が今一つ感じられない。紀行文としてなら一読の価値くらいはあるかもしれないが、小説としては食い足りない。外側から感情移入もなく彼の生活を眺めたという印象に留まった。
読了日:10月12日 著者:田山 花袋


デカメロン 上 (河出文庫)デカメロン 上 (河出文庫)感想
14世紀の物語だし、退屈だろうと思っていたら、あにはからんや、(ペスト禍に負けじと)明るくおおらかに大いに男女の交歓を楽しむ。策略に満ちている。ペストで従前からの宗教や権威が失墜した。僧侶も王権もペストには全く敵わない。助けにならない。だからだろう、ボッカッチョは権威に対しても遠慮会釈の欠片もない。充実した解説によると、ダンテ(の『新曲』という詩文)を意識しての散文だという。ダンテは詩で権威を撃ち、ボッカッチョは散文で、というわけである。ペストは中世を終わらせ近世へ転換させたのだ。
読了日:10月11日 著者:ボッカッチョ


ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)感想
ネタバレになるが、最後にはあの9・11の悲劇が待っている。それなりに明るい結末をそれぞれに持てたのに、航空機が貿易センタービルに突っ込んでいくように、あるいは彼らも悲劇のどん底に向かっていくのか。我もまたかつてアルカディアにありという、西欧では有名な理想郷を巡る言葉がある。オースターとしては珍しく明るい基調の作品だが、それでも、だれもがみないつかは、そんな夢のような時はかつての話として語るしかなくなってしまう。そういうオチを付けないといたたまれないのがオースターなのかもしれない。
読了日:10月09日 著者:ポール・オースター


夏目漱石全集〈4〉 (1974年)夏目漱石全集〈4〉 (1974年)感想
「虞美人草」「京に着ける夕」「写生文」「予の描かんとする作品」「虞美人草予告」「日記」「書簡」などを所収。日記や書簡は、「虞美人草」執筆当時のものがメインで参考になる。感想めいたことはこれまで折々書いてきた。
 本作の主役は、何と言っても藤尾という女性だろう。当時としては勝ち気で自尊心が高く行動的で、男性を翻弄するかのような女性は珍しいだろう。漱石も、毛嫌いしている。何とか彼女の奔放さを死で以て報いたいと、書簡でも書いている。本巻には河野多恵子氏の作品論が載っている。
読了日:10月07日 著者:夏目 漱石


万邦の賓客 中国歴史紀行 (集英社文庫)万邦の賓客 中国歴史紀行 (集英社文庫)感想
古来より遺ってきた宝物文物は、少なくとも皇帝が集めてきたものの多くは北京や台北にある故宮博物院(館)に収まっている。すぐれた文物は、それを愛する人たちのもの、国籍も人種もこえて、人類の宝なのだ。それを「万邦の賓客」という筆者の好きな言葉で示している。
 
読了日:10月05日 著者:陳舜臣


雪国を江戸で読む 近世出版文化と『北越雪譜』雪国を江戸で読む 近世出版文化と『北越雪譜』感想
江戸時代にあって雪国を扱う本など珍しいに違いない。唯一かどうかは知らなかったが、牧之の魚沼には及ぶべくもないが、富山も嘗ては雪国だった。38豪雪当時の光景は今も脳裏に刻まれている。あの惨状が毎年の光景とは考えたくもない。
 雪景色は、雪を知らないか滅多に降らない地方と雪国とでは受け止め方はまるで違う。雪景色を単純に美しいとか楽しみと思えるのは、雪を知らないか、大人の労苦を知らない子供だろう。
読了日:10月03日 著者:森山 武

読書メーター

|

« 2020年9月の読書メーター | トップページ | 2020年11月の読書メーター »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

写真日記」カテゴリの記事

読書メーター」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 2020年9月の読書メーター | トップページ | 2020年11月の読書メーター »