2020年9月の読書メーター
仕事のスケジュールは、(仕事が有無に関わらず)7月から正常化されている。その分、読書の時間も減ってきた。夏バテもあるかもしれない。
先月も漱石をメインの読書。 2冊読んだので、読了の冊数や頁数が減るのもやむをえないか。
9月の読書メーター
読んだ本の数:12
読んだページ数:4165
ナイス数:7306
ポオ評論集 (岩波文庫)の感想
評論が率直で面白いが、本書の中心は、ポーだけあって、「詩作の哲学」「詩の原理」だろう。
「詩作の哲学」では、大概の作家、特に詩人は、一種の精妙なる狂気ーー恍惚とした忘我の境地で創作すると思われるのを好みーー反対に、世間に創作の舞台裏をのぞかれるのを(中略)極端に嫌悪する。」が、ポー自身は、「そうした嫌悪感とは無縁だし、自作の創作過程を逐一思い出すのにいささかの難儀も感じない」と言う(p.161-3)。
「詩の原理」での主張も興味深いが、その要点をまとめるのはやめて、一番感じた記述を引用するにとどめておく。
読了日:09月27日 著者:ポオ
書物の愉しみ 井波律子書評集の感想
自宅でゆっくり楽しみつつ読んできた。読もうと思えば一気に読めてしまうのだが、関心を惹く本が多く、気になる本に出会うたび、スマホなどでお気に入り(これから読みたい本)に登録してしまう。主に中国だが、日本の古典でも読んでいない本が山のように。
丁寧な書評ぶりで、好感が持てる……のはいいのだが、読むほどに自分の無知や不勉強ぶりが思い知らされて、逆に憂鬱になったり。
登録した中から一冊でも読めたらいいな。
読了日:09月26日 著者:井波 律子
夏目漱石全集〈3〉 (1974年)の感想
コロナ禍を奇禍として、トルストイの『戦争と平和』やナボコフの一連の文学講義、更にラフカディオ・ハーンの著作集や角川版の漱石全集を読む機会を得た。
今もボッカチオの『デカメロン』を読みだしたところである。漱石については、若いころは文庫本所収の有名作品は一通りは読んだが、1990年代に出た岩波版漱石全集を出るたび書店でゲットして次々に読んでいった。
読了日:09月24日 著者:夏目 漱石
古事記の神々 付古事記神名辞典 (角川ソフィア文庫)の感想
同氏は、「もともとは中西進に師事し古代文学を専門としていたが、吉本隆明『共同幻想論』の影響から『古事記』や『遠野物語』の民俗学的研究にシフト」(Wikipediaより)したとか。異色! 『口語訳 古事記』がベストセラーになったが、吾輩も流行りに乗った一人である。明治のある時期から記紀神話が喧伝されるようになった。天皇の権威を高める一貫だったようだ。が、研究が深まるにつれ、「日本書紀」と「古事記」との異同が明らかになってきた。
読了日:09月21日 著者:三浦 佑之
音楽と音楽家 (岩波文庫)の感想
いきなり余談だが、最近、あまり、シューマンの曲、聴いてないなー、と思っていたら、ふと、数年前、奥泉光作の「シューマンの指」を読んだことを思い出した。それはともかく、音楽にも門外漢の吾輩が言うのも僭越だが、鑑識眼を感じる。意見が明快。音楽的センスに自信があるのだろう、ショパンやブラームスらを発掘し、紹介に尽力した。ショパンやリスト、メンデルスゾーン、シューベルトらと同時代の、自ら傑出した音楽家の優れた評論として、楽しめた。
読了日:09月16日 著者:シューマン,吉田 秀和
首里の馬の感想
沖縄を舞台の幻想物語。沖縄の置かれた特異な悲しい歴史が土台にある。支配者が次々に変わって歴史が塗り替えられ、頻発する台風が住民を家や村もろともに吹き飛ばしていく。古くからの歴史は断片や言い伝えの形で、あるいは読み取りが可能かどうかわからないカセットテープの形で残ってはいるが、それを読み解く人がいない(機械がない)。現れる前にこの物語でも資料館は閉鎖される。物語ではクイズ番組の解答者に送信されるのだが、いつか解読されるとも限らない。
読了日:09月14日 著者:高山羽根子
宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃 (角川学芸出版単行本)の感想
望月新一教授が発表した、「宇宙際タイヒミュラー(IUT)理論」の極めてユニークな特性が念入りに語られる。19世紀に非ユークリッド幾何学が数学(幾何学)の世界に革命を起こした歴史に匹敵するとか。数学者でも、対面で濃厚なレクチャーを受け、且つとことん疑問をぶつけていかないとならない。それでも、得心が行くかどうか。兎に角斬新奇抜な新しい数学なのだと、力説。着想もだが、使われる数学言語もユニークで、数学者でも理解に数年あるいはそれ以上の年月を要するかも! だって。
読了日:09月13日 著者:加藤 文元
人間の性はなぜ奇妙に進化したのかの感想
仕事の合間に楽しんだ。他の動物との対比では、進化に絡んでの分析だったかもしれないが、ある意味肝心の点が書いてない。本書の最後は人間のペニスが話題に。「七百万~九百万年をかけてヒトのペニスが推定される祖先のサイズからなぜ四倍にも拡大したのか」は、謎。なぜに過大に大きいのか? まさにここが(少なくとも吾輩の)気になるところじゃないか。が、謎だと言ってお仕舞になっている。画竜点睛を欠く。フィニッシュが尻切れトンボ。
読了日:09月12日 著者:ジャレド ダイアモンド
夏目漱石全集〈2〉 (1973年)の感想
漱石は、独自に文学の世界を切り拓いた。本作「吾輩は猫である」であり、「坊っちゃん」だ。日本の文学に滑稽や諧謔を描き切った作家は少ない。その後は、内田百閒を始め、何人かは現れたが、漱石を以て嚆矢とする。彼の前例となる作家があるとしたら、十返舎一九の『東海道中膝栗毛』 を筆頭に江戸時代には見つかる。が、明治の世になって、中央集権と軍国主義、封建主義と男尊女卑が是とされる社会になった。文学ですら、私小説を典型とする、井の中の蛙的純文学を至上とするようになった。漱石的余裕の諧謔文学の存在する余地が狭まっていった。
読了日:09月09日 著者:夏目 漱石
月の科学と人間の歴史―ラスコー洞窟、知的生命体の発見騒動から火星行きの基地化までの感想
月を巡る神話や物語は日本に限らず、古来より少なからず見受けられる。近代より遥かに夜の闇の深かった古(いにしえ)において、月明かりの煌々たる輝きの眩さは想像を絶するものがあったろう。新月や曇天で月が隠れた夜の闇は、とてつもなく深かったろう。現代であっても、ちょっと郊外の山間の道に足を踏み入れたなら、漆黒の粘り付くような闇に呑みこまれるような感覚を覚えることがある。いや、家の庭ですら、街灯とは反対側の一角では思わず手を伸ばして歩いてしまう。
読了日:09月08日 著者:デイビッド・ホワイトハウス
白い牙 (新潮文庫)の感想
有名な作品だし今後も読み継がれていくとは思う。文章に力があり、読む手を休ませないのだ。ただ、少しは読書体験を重ねてきた自分、人種問題などにも無垢ではありえない今となっては、ナイーブな気持ちでは読めない。作家には明らかな人種的偏見がある。人種的序列があることは否めない。先住民の上の白人。先住民に限定的とはいえ飼いならされる狼。純粋な狼ではないのだとしても、こんな物語が現実にありえるのかと訝しんでしまう。いうまでもなく、白人の上には神が鎮座している。
読了日:09月08日 著者:ジャック・ロンドン
文庫 本と暮らせば (草思社文庫)の感想
「本と暮らして60 数年の著者が、知られざる面白い本や、本にまつわるドラマ、漱石、鷗外、芥川、太宰などの作家の秘話を、軽妙に、濃密に、綴る」とか。あまりに奥が深い。登場人物名だけ列挙しておく。沢村貞子、中谷宇吉郎、大石順教、坂東三津五郎、太田静子(太宰の愛人)、与謝野晶子に『源氏物語』を訳させた小林政治、志賀直哉の弟・直三。熊本時代の漱石が通った古書店の主人・河島又次郎、同じく漱石の松山時代の下宿の孫娘・久保より江、『漱石全集』で不詳とされる書簡の宛先人・高田元三郎。
読了日:09月03日 著者:出久根 達郎
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