2020年6月の読書メーター
← 高志の国文学館で開催中の「生誕170年 ラフカディオ・ハーンの共感力―発見、探求、そして発信へ」展へ行ってきた。
先月に続き、休業が続いた。その分、庭仕事に精を出した。結構、すっきりしたような。仕事のほうは、4月の頃に比べればまし。昨年比5割くらいは戻ったか。が、先の見通しは暗い。今よりは改善しても、やはりワクチンが普及しないと厳しいかな。
読書だけが楽しみ。ハーンの全集のうちの2冊やディケンズの『二都物語』、漱石の『文学評論』など、書庫に眠っていた本を今だからこそと読んだりと、それなりに充実。ツーリングにも出かけた。ハーン展へも。
6月の読書メーター
読んだ本の数:13
読んだページ数:4741
ナイス数:8071
重力波で見える宇宙のはじまり 「時空のゆがみ」から宇宙進化を探る (ブルーバックス)の感想
約百年前、アインシュタインが予言した重力波の存在が、ついに観測された。本書(原書)が書きあがった頃に、そうした朗報が飛び込んできたので、本書も一部慌ただしく書き直したとか。タイムリーというべきか。重力波は極めて幽かな波なので検出するには技術の積み重ねが必要だった。日本も検出競争に名乗りを上げていたが、海外勢に先を越されたわけである。
読了日:06月27日 著者:ピエール・ビネトリュイ
ヒトの目、驚異の進化 視覚革命が文明を生んだ (ハヤカワ文庫NF)の感想
ヒトの目が、多くの動物のように顔の両側じゃなく、前に付いているのはなぜか。それは二つの目で距離感を得るためだといった俗説がある。本書ではそれよりある種の幽霊現象を脳で実現するためだという。では、幽霊とは? 本書に示される研究のかなりの部分は、認知科学者の下條伸輔氏である。第一章は、「感情を読むテレパシーの力」。これまた怪しいテーマ。だが、読むと霊長類が色覚を発達させたのは、木の実を探したり食用となる葉っぱを採集するためというが、色覚は同類たちの皮膚の色合いの変化を識別するためだという。
読了日:06月25日 著者:マーク・チャンギージー
武器としての「資本論」の感想
今朝、読了直前、現代の日本は、明治以来の国民国家システムそのものの衰退過程にある。明治は富国強兵といっていたが、アベ政権はそれを経済成長と言い換えてやっている。累積する国債、中央銀行の膨張、年金・医療制度の破綻、学校の機能不全、政治不信と投票率の低下、経済の不振、少子化……。労働組合(連合)の感度の鈍さ。派遣など非正規労働者の困窮を座視する労働組合って、主婦など大多数の働き手を斬り捨ててるってことだよね、と呟いた。
読了日:06月23日 著者:白井 聡
ラフカディオ・ハーン著作集 (第1巻)の感想
ハーンは1850年生まれ。1.ギリシャに生れ、イギリスで育ち、フランスで教育を受けたヨーロッパ時代。2.アメリカのシンシナティへ渡り、ニューオーリンズへ移り、仏領西インド諸島のマルティニークにも行ったアメリカ時代。3.明治23年に横浜に着き、松江へ赴任し、ついで熊本、神戸、東京へ移って明治37年に亡くなった。
読了日:06月22日 著者:ラフカディオ・ハーン
サピエンス日本上陸 3万年前の大航海の感想
台湾から一番近い琉球列島の島である与那国島への航海。マスコミを入れての公開実験となった。葦などの草束舟や筏舟と失敗を重ね、丸木舟でついに成功した。丸木舟で渡海しただろうという有力な説の浮上である。その渡海への試行錯誤のドキュメント自体が本書の読み物である。同時に、吾輩の関心は、何故、後期旧石器時代のホモサピエンスは広大な海を越えていったのか。
読了日:06月20日 著者:海部 陽介
SYNC: なぜ自然はシンクロしたがるのか (ハヤカワ文庫 NF 403 〈数理を愉しむ〉シリーズ)の感想
著者は本書の結びで、「今後の研究で私は、ことあるごとに同期現象へと立ち帰っていくことだろう。それは美しくも奇妙であり、心を激しく揺さぶりもする現象なのだ。同期現象にはある意味で、宗教を彷彿とさせるところがある。(……ホタルが川岸で織り成す明滅の光景への畏敬の念を述べた上で……)同期現象はなぜかわれわれの心の琴線に触れる深遠な現象である。(中略)「自然発生的な秩序の源を突き止めれば、宇宙の謎を解き明かしたことになる」と、人は本能的にわかっているのかもしれない」と書いている。
読了日:06月18日 著者:スティーヴン・ストロガッツ
夏目漱石全集〈15〉 (1974年)の感想
「文学評論」が面白い。講義のためとはいえ、馴染みの薄い18世紀の英文学を徹底研究している。文学は勿論、世相風俗から哲学まで。漱石は創作したかった、研究じゃなく。大学は辞めたかった、既に「吾輩は……」を書き始めていたのだ。講義しつつ、文学とは創作とはを試行錯誤してた。本書の極め付けは、スウィフト論。未曾有の風刺家を狷介孤高の漱石が徹底分析。それは自己分析でもある。お薦め。
読了日:06月15日 著者:夏目 漱石
河出世界文学全集 (6)二都物語 クリスマスキャロルの感想
出来過ぎのストーリー展開だったりするが、それでも、18世紀終わり、フランス革命、特に1789年7月14日のバスティーユ襲撃を背景にしての物語。フランスのパリとイギリスのロンドンの二都を絡めての物語。ディケンズからしても遠くない過去の、時代を画する事件だっただけに力が入っただろうことは想像に難くない。いかにも出来過ぎの物語だが、何と言ってもディケンズの筆力に圧倒された。後書きの中野好夫さんも書いているように、突っ込みどころはあれこれあっても、ディケンズなのである。
読了日:06月13日 著者:ディケンズ
無限とはなにか?―カントールの集合論からモスクワ数学派の神秘主義に至る人間ドラマの感想
再読: 文学も美術も音楽も、宇宙論も、そして数学も、無限とは無縁ではありえない。
探求をとことん突き詰めていけば、遅かれ早かれ無限の穴か極か壁に突き当たる。無はきっとそこら中に口を開けて獲物…無謀なる犠牲者を待っている。 驚くべきは、そんな蛮行に挑んだ連中がいる、ということよりも、スターリンの圧政下にあっても、そして無限の陥穽を恐れることなく、探求を続け、一定の成果を上げたという厳然たる事実があるということだろう。
読了日:06月10日 著者:ローレン グレアム,ジャン=ミシェル カンター
東京の中の江戸名所図会 (文春文庫)の感想
本書の肝は何と言っても、「江戸名所図会」にある。「江戸名所図会 - Wikipedia」によると、「江戸名所図会は江戸時代後期の天保年間、斎藤月岑が7巻20冊で刊行した江戸の地誌である」。
本書の後書きでも作者が書いているが、「考証の確かさと、当時の景観や風俗を伝える雪旦の挿図が高く評価されており、江戸の町についての一級資料になっている」、その遺産のありがたさもだが、江戸名所図会の成り立ち自体がドラマである。
読了日:06月08日 著者:杉本 苑子
漢古印縁起 (中公文庫)の感想
父の蔵書だろうか。骨董趣味は自分にはない。ないことはないが、鑑識眼などからっきしない。水墨画の類だと、善し悪しは別にして、好きな作品はある。が、骨とう品美術品に手を出す気はない。そうは言いつつ、こういったものでも、傾倒できるってことが羨ましく思えたりする。まあ、極めて凡庸な人間なのだ。だからこそ、こうして小説を読むわけである。物語でないと、こうした世界の一端ですら知ることはないのだから。
読了日:06月06日 著者:陳 舜臣
現代アメリカ傑作短編集 コレクターズ版 世界文学全集 29の感想
50年近い昔の当時ホットだったスタインベック、フィッツジェラルド、フォークナーなど、錚錚たるアメリカの当代人気作家が集められている。訳者の好みで。今日読んだこともあって、M.K.ローリングスの短編集が印象に残った。中でも「ヤコブの梯子」が秀逸。「豆の収穫」や「森の女」も鮮烈。男がどうしようもなく、しょわしない一方、男に振り回される女性たちの心理や行動が丁寧に、共感的に描かれてるなと思ったら、作家は女性だった。
読了日:06月04日 著者:スタインベック フォークナー フィッツジェラルド 他
ラフカディオ・ハーン著作集 (第12巻)の感想
英文学史なんて、普通のハーン、八雲ファンには地味な内容の本。正直、吾輩も書庫の奥に放置したまま。が、現下の状況に鑑み、書店へ足を運ぶことも侭ならない中、在庫の中から未読を探して読んでいる。読みだしてみると、ハーン節が炸裂。当時にあって、英文学は仏文や独文と並んで、最先端の文学だった(アメリカ文学はまだ歴史が浅かった)。東大にあって日本の学生相手の英文学史講義。幅広い勉強と読書体験から読むべき本を取捨選択して読むべき本を推奨する。
読了日:06月03日 著者:ラフカディオ・ハーン
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