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2020/04/01

2020年3月の読書メーター

 前月から読んできたディケンズの「荒涼舘」やナボコフの一連の文学講義を読了。我輩としては読んだ冊数や頁数が多いが、昨年に続く入院や、コロナ禍で仕事が暇なためなのは、悲しい。ただ、少しでも幅広い分野の本を読む、というポリシーは守れたかな。

3月の読書メーター
読んだ本の数:16
読んだページ数:5606
ナイス数:7062

 

残酷な進化論: なぜ私たちは「不完全」なのか (NHK出版新書)

残酷な進化論: なぜ私たちは「不完全」なのか (NHK出版新書)感想
読みやすく、カフェで気軽に読める。でも、示唆に富む。進化(論)の無方向性をつくづくと思い知らされる。原始的なものから高度な存在へ、単純で不便なものから合理的で優れた存在へ。右肩上がりの進化……なんて幻想に過ぎない。行き当たりばったりの進化。その典型の一つが人間という存在。言うまでもないが、大腸菌も人間も、それぞれが進化の突端にいる。そしてその両者が大腸などで危うい共生を辛うじて果たしているところに、つまり現に我々の身体の中において進化の妙が垣間見えるのが面白い。
読了日:03月31日 著者:更科 功


ゲーデルは何を証明したか―数学から超数学へゲーデルは何を証明したか―数学から超数学へ感想
ゲーデルが何をどのように証明したかについて、吾輩ごときが説明すべきでなかろう。ただ、「形式的に証明できない算術的真理が存在するという発見」を永久に知ることのできない真理の存在を意味するといった類の神秘的な直観を正当化する材料にしてはならないこと、さらに、筆者が示す以下の結論が大事だろう (以下転記):
読了日:03月28日 著者:E. ナーゲル,J.R. ニューマン


サイラス・マーナ― (光文社古典新訳文庫)サイラス・マーナ― (光文社古典新訳文庫)感想
94年に「ロモラ」を読んで以来のエリオットファン。物語としてさすがにドラマチック。同時に、古典らしいある意味、出来過ぎかなと思わせる展開でもある。ブロンテ姉妹など近代の小説を読みなれた我々には突っ込みところ満載だろう。女の子を預かって育てて危ないことはなかったのか……。それでも、随所に鋭い描写があって、退屈させずに読ませてくれる。次はいよいよ、「ミドルマーチ」に挑戦したい。
読了日:03月27日 著者:ジョージ・エリオット


ナボコフのロシア文学講義 下 (河出文庫)ナボコフのロシア文学講義 下 (河出文庫)感想
下巻ではトルストイの「アンナ・カレーニナ」や「イワン・イリッチ」を扱っている。「アンナ」は素晴らしい作品で二度も読んだが、近い将来三度目のトライをしたい。「イワン」については、これも二度は読んでいるが、ナボコフの激賞にも関わらず印象が薄い。これは再再読必須だ。「マクシム・ゴーリキー」も若いころは読んだが、再読したいとは思わなかった。人間的には素晴らしいと再認識させてもらったが、再読は「どん底」だけかな。

読了日:03月25日 著者:ウラジーミル・ナボコフ


富士山噴火と南海トラフ 海が揺さぶる陸のマグマ (ブルーバックス)富士山噴火と南海トラフ 海が揺さぶる陸のマグマ (ブルーバックス)感想
本書のテーマは、今のコロナの驚異の中で大方の関心の対象の他だろうが、前日の日記にも書いたが、著者も言うように、2030年前後に南海トラフの地震、連動する富士山噴火の切迫は変わらない。宝永の噴火以来300年余り。マグマが溜まっている。ひしひしと危険が迫っているのだ。多くは語らない。ここでは、「富士山火山防災マップ」を示すにとどめておく: http://www.bousai.go.jp/kazan/fujisan-kyougikai/fuji_map/ 
読了日:03月23日 著者:鎌田 浩毅


生命の樹: あるカリブの家系の物語 (891) (平凡社ライブラリー)生命の樹: あるカリブの家系の物語 (891) (平凡社ライブラリー)
読了日:03月21日 著者:マリーズ コンデ

 


ナボコフのロシア文学講義 上 (河出文庫)ナボコフのロシア文学講義 上 (河出文庫)感想
本書を再読して、改めて認識させられたことが多々。ゴーゴリが「死せる魂」の第二部を書き得なかった作家の悲劇がまざまざと。ナボコフ節、炸裂。ツルゲーネフは、大概の作品は二度は読んだが、「父と子」くらいは、もう一度読むかな。我がドストエフスキーの芸術性が……芸術性のなさが指弾されている! 「罪と罰」での、娼婦ソーニャの存在感のなさは、18で初めて読んだ時にも強く感じた。ドストエフスキーは、殺人は描くけど、娼婦のリアルは描けない。きっと、万が一にもトライしたら、自分の野蛮さが露見するからだろう。
読了日:03月20日 著者:ウラジーミル・ナボコフ


星屑から生まれた世界 進化と元素をめぐる生命38億年史星屑から生まれた世界 進化と元素をめぐる生命38億年史感想
高校時代から苦手な化学。しかし、本書の一貫したテーマが、「かのグールドは偶然性にとらわれ,生命のテープを再生しても人類(ホモ・サピエンス)が現れる可能性はゼロに近いとみた.けれど著者は,生物が使える元素は地球の地質史が決めたため,何度テープを再生しても,進化はほぼ同じ道をたどると主張する」とある以上は読まないと。書店ではこの「星屑から生まれた世界」という題名が我が目(ハート)を射た。ユニークな記述が続き、面白かった。
読了日:03月18日 著者:Benjamin McFarland


最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常感想
ピアノやヴァイオリンなどを幼少の頃より習ってきたプロ志向の音楽系と、油絵や彫刻などのアート系での学生の気質や雰囲気がまるで違うことに、なるほどと妙に納得。
 入学試験はどうやっているのか、ちょっと疑問だったが、学科は最低限問われるが、実技重視で、実技が抜群だと学科試験の劣位を補えるってのは、納得だった。とびぬけた才能を若くから示す、そんな人たちの発想法も生活も違うんだね。
 ところで、彫金など職人気質の学生もいることに心強い思いをした。
読了日:03月16日 著者:二宮 敦人


中島敦 (ちくま日本文学 12)中島敦 (ちくま日本文学 12)感想
夭逝した作家。高校の教科書で初めて接した。印象に残り、その後、文庫本などで繰り返し読んだ。古今東西の古典から最新の文学まで渉猟した。幅広い教養を持つ作家は、現代日本にだっているだろうが、漢文漢詩も含めてとなると、限られるのではないか。志向したかどうかは分からないが、稀代の知識人になった。その上での作家活動。どのような表現を目指すか、素養があるだけに悩んだのではないか。
読了日:03月13日 著者:中島 敦


大洪水の前に:マルクスと惑星の物質代謝 (Νuξ叢書)大洪水の前に:マルクスと惑星の物質代謝 (Νuξ叢書)感想
マルクスは資本論を完成できずになくなった。今の第2部、第3部はエンゲルスの編集になるもの。実は、この編集から漏れたマルクスの遺稿が近年徐々に刊行されつつある。その中には、19世紀半ばでありながら、20世紀後半となってようやく世界の経済学者に留まらず環境に関心を持つ者たちが危機をつのらせる問題意識が示されていた。当時の農業や経済の研究者には今で言うエコロジーの認識に通じるような問題意識を持つ識者がおり、マルクスは経済学のみならず生物学化学とかなりの自然科学を学習しメモしていた。
読了日:03月12日 著者:斎藤幸平


マルタの鷹〔改訳決定版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)マルタの鷹〔改訳決定版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
世評高いが未読だった。私立探偵もの。ハードボイルドの典型……元祖か。とことん己れの流儀を押し通す。その頑固さゆえに刑事や悪漢らも一目を置く。優しくなければ……と嘯くチャンドラーとは好対照。この主人公は女性(美女限定か)が好きなのは好きなのだが、たとえ愛する美女であっても、自分を騙したり嘘をつく奴は(恋情を殺しても)切り捨てる。この点は優しさ至上の現代にはそぐわないか。逆に云えば、こうでないとという熱烈なファンが好くなからぬ所以なのかな。
読了日:03月09日 著者:ダシール ハメット


戦下の淡き光戦下の淡き光感想
本書は、「一九四五年、うちの両親は、犯罪者かもしれない男ふたりの手にゆだねて姿を消した。」から始まる。著者は本書の執筆を始めたときは、この一行しか頭になかったとか。あとは書きながら考える。読者どころか書き手自身をも翻弄するかのように。作家たるものの至福でなくて何だろう。だからといって作家の気紛れに終始するはずがない。徹底的に調査、執筆に三~四年、編集に二年。
読了日:03月08日 著者:マイケル・オンダーチェ


時間は存在しない時間は存在しない感想
アインシュタインの相対性理論は量子力学との愛称が悪い。その欠点を克服する理論として、超紐理論と著者らの研究するループ量子重力理論(時間tのない理論)とがあり、侃侃諤諤の議論が闘わされている。が、本書は肩に力を入れずに読めるよう工夫されている。数式は本文中にはエントロピーが増大することを示す単純(だが深淵)な式一つだけ。このエントロピーの増大こそが時間の存在を傍証する。形(秩序)あるものは壊れる。その逆はありえない。過去、現在、未来。記憶……思い出。物理学的には時間は存在しない(しなくても構わないはず)。→
読了日:03月06日 著者:カルロ・ロヴェッリ


荒涼館(四) (岩波文庫)荒涼館(四) (岩波文庫)感想
2000頁の大作を楽しんだ。18世紀風な語りと、ブロンテ姉妹にあと一歩に迫る緊密な心理描写、情景描写とが混在している。ごくたまに出合う現代文学を彷彿させる描写にゾクッと。刑事モノ探偵モノのハシリのようなサスペンス的要素の一方、ハラハラのドラマの果てに呆気ない結末への流れ。主人公やその仲間たちがいい人過ぎてつまらなく感じる一方、個性的な灰汁の強い登場人物群の言動が読み手を飽きさせない。ギャグにも近い諧謔的でユーモラスな人物表現は、ゴーゴリやチェーホフ、ツルゲーネフらに影響していそう。
読了日:03月04日 著者:ディケンズ


荒涼館(三) (岩波文庫)荒涼館(三) (岩波文庫)感想
第三巻は、物語の起承転結で云えば「転」。ええー、こうなるのーという驚き(がっかり)の展開。こうなると、最後まで読まないでは居られなくなる。さすがのストーリーテラーの本領発揮。
読了日:03月01日 著者:ディケンズ

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