川合玉堂の「二日月」に一目惚れ
過日、NHK 日曜美術館を見ていたら、思わずほれぼれするような絵に遭遇した。
→ 川合玉堂「二日月」(明治40年 墨画淡彩・絹本・軸・1幅 86.4×139.0 東京国立近代美術館)
見ようと録画しておいたのは、東京在住時代に好きになった向井潤吉の特集(「民家巡歴 向井潤吉の戦後|NHK 日曜美術館」)を見るためだった。
作品の保存されている「世田谷美術館分館 向井潤吉アトリエ館」へは、砧の公園で憩いたいというのもあって、幾度となく通ったものである。
その番組の延長だったか、川合玉堂の特集を見ることになった。橋本雅邦や横山大観、菱田春草らの大家の陰に埋もれているわけでは決してないが、それでも、印象が特に強くない。
あるいは、弟子に(小生のような美術の門外漢には)目立って見える作家が出なかったから、正当な評価を受けきれなかったのか(あるいは、高く評価されているのに、小生の認識が甘いだけなのだろう)。
← 川合玉堂「朝もや」 ( 昭和13年 彩色・絹本・軸・1幅 86.5×118.3 1938 東京国立美術館)
まあ、川合玉堂(1873 - 1957)についての大よそのことは、「川合玉堂 - Wikipedia」を参照すればよい。
小生が思わず瞠目したのは、玉堂の「二日月」という作品を見た時だった。二日月という名称は、小生にはややなじみの薄い言葉だなと思っていたのだが、テレビでは、かの作品の中に仄かに描かれている二日月をアップしてみせてくれたのである。
その瞬間、グッと来てしまったのだった。
「二日月(ふつかづき)」とは、読んで字のごとしで、月齢2の月、あるいは陰暦2日の月を意味する。
絵では三日月よりは薄い月影が、画面をじっと見つめないと分からないほどにひそやかに二日月が描かれている。
まるで川合玉堂の人柄を偲ばせるような奥ゆかしい月が、見る人が見ればわかるから、それでいいではないか、というがごとくに照っている。
→ 川合玉堂「祝捷日(しゅくしょうび) 」(昭和17年 彩色・絹本・額・1面 58.0×72.5 東京国立美術館)
この二日月だが、小生が素養が無くて馴染みが薄いだけであって、俳句の世界では結構、詠み込まれているようだ。
「二日月 575筆まか勢」から幾つかピックアップしてみると:
あかね雲ひとすぢよぎる二日月 渡辺水巴
二日月三日月より淋しさよ 高野素十
二日月竹がそよげばかくれけり 高田蝶衣
凍蝶の夢をうかがふ二日月 攝津よしこ
薄より萱より細し二日月 正岡子規
くらがりに水仙の香や二日月 古賀まり子
(原題「見る人が分かればいいと二日月」(2016/02/24)より、題名を変えて載せた。)
| 固定リンク
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- 2024年8月の読書メーター(2024.09.04)
- 2024年7月の読書メーター(2024.08.05)
- 2024年6月の読書メーター(2024.07.14)
- 2024年5月の読書メーター(2024.06.03)
- 2024年4月の読書メーター(2024.05.06)
「文化・芸術」カテゴリの記事
- 2024年8月の読書メーター(2024.09.04)
- 2024年7月の読書メーター(2024.08.05)
- 2024年5月の読書メーター(2024.06.03)
- 2024年3月の読書メーター(2024.04.02)
- 2023年10月の読書メーター(2023.11.01)
「美術エッセイ・レポート」カテゴリの記事
- バンクシーをも呑み込む現実?(2022.10.27)
- フローベールからオディロン・ルドン作「聖アントワーヌの誘惑」へ(2018.10.23)
- ニコライ・レーリッヒの孤高の境涯(2016.05.18)
- 川合玉堂の「二日月」に一目惚れ(2016.02.25)
- 先手必笑(2015.08.10)
「美術・日本編」カテゴリの記事
- 川合玉堂の「二日月」に一目惚れ(2016.02.25)
- イラストレーター八木美穂子ミニ特集(2014.09.03)
- 異形の画家「小林たかゆき」を知る(2014.09.01)
- 山の版画家・畦地梅太郎の世界(2014.05.23)
- 霧の作家・宮本秋風の周辺(2013.10.15)
コメント