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2012/01/04

三つ子の魂を保つ画家

 幼児や低学年の小学生の絵を見ていて思うのは、その<天才性>である。技術や経験が未熟なのは仕方がないとして、その描かれる作品の中に、時折、びっくりするような作品に出会うことがある。クレーやミロを思わせるような、突拍子もない、だけれど未熟で感性の皮膚が薄く柔らかいが故の、現実の世界を生のままに感じ描いたとしか思えない作品を目にすることがあるのだ。

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← 「幻想オペラ劇「航海者」の戦いの場面」 (1923 39x29cm パリ、ハインツ・ベルグリューエン蔵 ) (画像は、「ヴァーチャル絵画館」より)

 以前、もう、7年ほど前のことになるが、それまで区役所として使われてきた建物が老朽化したこともあり、区役所が新しい場所に移転することになった。
 当然、古い建物は解体され、今の図書館をふくむ情報センターが出来たのだが、その工事の間、工事現場の周りがフェンスで囲まれていた。

 実は、そのフェンスに多分、近所の小学校の生徒の作品なのだろうが、(コピーなのか、あるいは実物が防水されていたのか)何点かの絵が飾られていた。
 通勤の際、あるいは買い物で通りかかった際に、その絵の数々を観た。
 正直、そのほとんどの作品は傑作だと思った。今のようにカメラを持っていたら、間違いなく撮影していたに違いない!

 そう、あどけないし、拙いけれど、そこには生な感性が息衝いていた。まだ学校教育で技術を、つまりは常識を習得する前の、いい意味での感性の脆さと危うさがあった。
 技術と常識という、生き育つためには余儀ない硬化した膜が張り付く前の感性が現実と交歓していた。

 拙い絵…。
 でも、運動神経って幼児のほうが俊敏なのではないのか。
 もしかして、幼児は現実をまさにそのままに描いているってことはないのか。
 大人は、幼児の頃に眼にし耳にし心に感じ取っていた現実を成長と共に綺麗に忘れ去り消し去っていくのではないのか。

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→ ヴォルス『Blue Phantom』 (画像は、「artshore  芸術海岸 ヴォルス:震え、または呪力  5-5」より)

 感性も、蛹が蝶に変態するように、以前の形態、以前の感覚を完璧に失ってしまうのではないのか。幼児と大人とは、それどころか小学生の高学年とでさえも、まるで宇宙人と人間ほどに異質な世界に住んでいるのではないのか。
 
 けれど、そうした感性は小学校の高学年になるとほとんど消滅してしまう。いかにも、技術を学び、このように描けば褒められる絵になるというパターンが見え見えになってしまう。


 確かに成長している(また、成長して欲しい)。技術の上達が見られる(こともある)。
 でも、凝り固まった常識というスクリーンが、現実との間に、しっかり下りてしまっている。
 生きるためには、傷口は癒えないといけない。膿がいつまでもジクジク滲み出してもらっては困る。傷口は瘡蓋(かさぶた)となり、やがて自然に剥がれ落ち、幼児のぷくぷくした肌が大人の肌へと変貌していく。

 感性も同様なのである。
 そして、幼児の感性のままに大人になるのは、辛い。むしろ、異常でさえある。世界を見る目は、隣の誰彼と基本的には同じであり、色合いを共有しないと生きられない。
 その代わり、失うものも多いし大きい。
 失うだけではなく、忘れ去る。
 思い出さえも、虚構の中に、というより虚構の彼方霞んでいき、変貌を遂げ、思い出という名の別個の物語の海に沈み去っていく。

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← ジョアン・ミロ「空色の黄色」 (画像は、「ミロ : アート オブ ポスター」より)

 けれど、この世には稀有な存在がいる。
 高度の技術を習得し大人としての成熟を観つつも、純な、生の感性をそのままに息衝かせ、世界と裸の心で交歓できる人がいる。
 そう、その稀有な一人がパウル・クレー(やバスキアやヴォルス、ミロ、あるいは日本で言えば中村正義)なのだと思う。


                            (2010/11/15 原作

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