« 前田普羅のこと(前編) | トップページ | 「日本画壇の風雲児 中村正義 新たなる全貌」展! »

2011/11/19

前田普羅のこと(後編)

 上掲のサイトによると、「全国を踏破し、日本の自然の特徴とその美観を説いた志賀重昴(しげたか)の『日本風景論』(明)は、少年時代の普羅に強い印象を残した」ことが、【わずか5分で来富決断】に預かって大きかったという。

Tamaryu_034

 また、「少年の頃(ころ)から普羅は自然科学に強い関心を持っていた」とのことで、「横浜の記者時代、胴乱を下げ毎月の植物野外採集の会に参加しては、牧野富太郎博士等の指導を受けることが楽しみだった」という興味深い記述も見受けられる。

 かなりの読書家らしかったが、「そのうちの多くは科学書・科学雑誌であったようだ」という。

 以下に読書家の横顔を自ら描いたような自身の句を示す:

 花更(か)へて本積みかへて夜寒なる

「普羅は「地貌(ちぼう)」という言葉を使う。一人一人の人間が別の容貌を持つように、土地にはそれぞれ独特の地貌があるという」、その普羅が、富山に永く在住したのだった。
【二上山に自筆刻んだ碑】があるという、その碑には、下記の句が:
 雪山に雪の降り居る夕べかな

 さらに、下記の句も上掲のサイトに見出された:
 鰤網(ぶりあみ)を越す大波(おおなみ)の見えにけり

 既出している前者は、「普羅が代表句とまで自信を持った」句らしいが、小生には、この句の味わいは、当該の地に立たないと滋味深く楽しめないように思う。雪山があまりに一般的過ぎる気がするのだ。
 小生は、たまたま富山出身の人間であり、「雪の降り居る夕べ」の雰囲気・情緒・厳しさと仄見える情感を少しは子供の頃に感じたから、それなりに思い入れができるというに過ぎない。
 それより、後者の句は、まさに寒ブリ漁の勇壮な様が浮かび上がるようであり、僭越ながら、小生には秀逸に映る。

Sokko_001

 このサイトでも、前田普羅が紹介された後、幾つかの句が掲げられている。
 重複を恐れず転記する:

 うしろより初雪ふれり夜の町 :「普羅句集」
 駒ケ岳凍てて巌を落しけり
 病む人の足袋白々とはきにけり
 雪解川名山けづる響かな
 乗鞍のかなた春星かぎりなし
 奥白根かの世の雪をかがやかす
 人殺ろす我かも知らず飛ぶ蛍
 春更けて諸鳥啼くや雲の上
 春昼や古人のごとく雲を見る
 神々の椿こぼるる能登の海
 うらがへし又うらがへし大蛾掃く
 面体をつゝめど二月役者かな
 帰りなん故郷を指す鳥総松(絶句) 

Sokko_003

 さて、肝腎の(絶句)に垣間見える「鳥総松」とは一体、何だろう。

 例えば、下記サイトを見てみる:
「小正月(こしょうがつ)」
「門松を14日の「とりまて」に取り除くとき、その跡の穴に小枝を刺す習慣が、沓掛・生子・菅谷地区などに見られる。これをトブサマツ(鳥総松)と呼んでいる。『万葉集』に「鳥総立て足柄山に船木伐り樹に伐りにゆきつ安多良船材を」とあるように、昔、きこりが木を伐ったとき、伐った梢をその株に立てて山神をまつったという習俗、当地の正月行事に今も生きている」という。

 この「小正月」というページは、下記のサイトの中にある:
「猿島町ホームページ」
 
 久保田万太郎の句にも、「鳥総松」を織り込んだ句があった:

 鳥総松霜ふかき日のつづきけり

 下村非文にも、「鳥総松」を織り込んだ句があった:

 又もとの己が日々なり鳥総松

 鳥総松は下記サイトによると、1月の季題(季語)らしい:
「季題【季語】紹介 【1月の季題(季語)一例】」

Sokko_005

 下記サイトでも、前田普羅の句が見出された:
「「初めての作句 俳句入門」講座 ◆ 中坪達哉」(北日本新聞文化センター)

 掌(てのひら)に葡萄(ぶどう)を置いて別れけり

 上掲サイトには、前田普羅の碑文が載せられている。転記する:

「わが俳句は俳句のためにあらず さらに高く深きものへの階段に過ぎず」
 なるほど、最後の最後に至って、鉄槌を食らったような気分だ。
 お前如きが、前田普羅の句の鑑賞などを綴るな、ということなのか。

 いずれにしても、そろそろ切り上げ時なのだろう。


[富山は立山をいただく町の光景を吟じた句を「赤とんぼ。」さんに教えていただきました:

 立山のかぶさる町や水を打つ

 この句については、「会報「商工とやま」平成14年10月号 立山と富山(13)  立山のかぶさる町や」(立山博物館 顧問  廣瀬  誠(元県立図書館館長))を覗くと参考になる。

Sokko_013

 この頁には、下記の句も載っていた:

 雪の夜や家をあふるる童声
 オリヲンの真下春立つ雪の宿

                   (05/03/29 追記) ]

2004年12月11日 原作 本稿は、「直筆短冊、富山で発見 「辛夷」主宰・前田普羅の代表句」 (富山のニュース - 都道府県別 - 47NEWS(よんななニュース))があったため、急遽、本ブログにアップした。)

|

« 前田普羅のこと(前編) | トップページ | 「日本画壇の風雲児 中村正義 新たなる全貌」展! »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

文化・芸術」カテゴリの記事

富山情報」カテゴリの記事

写真日記」カテゴリの記事

コメント

すっかりご無沙汰の失礼をお許しください。石崎俊彦氏の数千点の資料をいま2年計画で整理分析中です。
前田普羅を覚えていただいていて感謝です。
南砺市のブログ、「なんと万華鏡 ほそみち」ものぞいてみてください。

投稿: 奥野達夫 | 2011/12/01 13:40

奥野達夫さん

ひさしぶりです。
無沙汰しております。

石崎俊彦さんとは、知る人ぞ知るの方ですね。

議員としての活躍は別儀として、棟方志功の活動への貢献は有名なこと。
版画家の棟方志功が恩義を受けた石崎俊彦氏に「青花堂」という堂号を呈したとか。

「なんと万華鏡」
http://5698.blog.nanto-e.com/

久しぶりに覗かせてもらいました。
「東京、名古屋、大阪から等距離の富山」という視点、とても面白いですね。

投稿: やいっち | 2011/12/01 21:31

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 前田普羅のこと(後編):

« 前田普羅のこと(前編) | トップページ | 「日本画壇の風雲児 中村正義 新たなる全貌」展! »