前田普羅のこと(後編)
上掲のサイトによると、「全国を踏破し、日本の自然の特徴とその美観を説いた志賀重昴(しげたか)の『日本風景論』(明)は、少年時代の普羅に強い印象を残した」ことが、【わずか5分で来富決断】に預かって大きかったという。
また、「少年の頃(ころ)から普羅は自然科学に強い関心を持っていた」とのことで、「横浜の記者時代、胴乱を下げ毎月の植物野外採集の会に参加しては、牧野富太郎博士等の指導を受けることが楽しみだった」という興味深い記述も見受けられる。
かなりの読書家らしかったが、「そのうちの多くは科学書・科学雑誌であったようだ」という。
以下に読書家の横顔を自ら描いたような自身の句を示す:
花更(か)へて本積みかへて夜寒なる
「普羅は「地貌(ちぼう)」という言葉を使う。一人一人の人間が別の容貌を持つように、土地にはそれぞれ独特の地貌があるという」、その普羅が、富山に永く在住したのだった。
【二上山に自筆刻んだ碑】があるという、その碑には、下記の句が:
雪山に雪の降り居る夕べかな
さらに、下記の句も上掲のサイトに見出された:
鰤網(ぶりあみ)を越す大波(おおなみ)の見えにけり
既出している前者は、「普羅が代表句とまで自信を持った」句らしいが、小生には、この句の味わいは、当該の地に立たないと滋味深く楽しめないように思う。雪山があまりに一般的過ぎる気がするのだ。
小生は、たまたま富山出身の人間であり、「雪の降り居る夕べ」の雰囲気・情緒・厳しさと仄見える情感を少しは子供の頃に感じたから、それなりに思い入れができるというに過ぎない。
それより、後者の句は、まさに寒ブリ漁の勇壮な様が浮かび上がるようであり、僭越ながら、小生には秀逸に映る。
このサイトでも、前田普羅が紹介された後、幾つかの句が掲げられている。
重複を恐れず転記する:
うしろより初雪ふれり夜の町 :「普羅句集」
駒ケ岳凍てて巌を落しけり
病む人の足袋白々とはきにけり
雪解川名山けづる響かな
乗鞍のかなた春星かぎりなし
奥白根かの世の雪をかがやかす
人殺ろす我かも知らず飛ぶ蛍
春更けて諸鳥啼くや雲の上
春昼や古人のごとく雲を見る
神々の椿こぼるる能登の海
うらがへし又うらがへし大蛾掃く
面体をつゝめど二月役者かな
帰りなん故郷を指す鳥総松(絶句)
さて、肝腎の(絶句)に垣間見える「鳥総松」とは一体、何だろう。
例えば、下記サイトを見てみる:
「小正月(こしょうがつ)」
「門松を14日の「とりまて」に取り除くとき、その跡の穴に小枝を刺す習慣が、沓掛・生子・菅谷地区などに見られる。これをトブサマツ(鳥総松)と呼んでいる。『万葉集』に「鳥総立て足柄山に船木伐り樹に伐りにゆきつ安多良船材を」とあるように、昔、きこりが木を伐ったとき、伐った梢をその株に立てて山神をまつったという習俗、当地の正月行事に今も生きている」という。
この「小正月」というページは、下記のサイトの中にある:
「猿島町ホームページ」
久保田万太郎の句にも、「鳥総松」を織り込んだ句があった:
鳥総松霜ふかき日のつづきけり
下村非文にも、「鳥総松」を織り込んだ句があった:
又もとの己が日々なり鳥総松
鳥総松は下記サイトによると、1月の季題(季語)らしい:
「季題【季語】紹介 【1月の季題(季語)一例】」
下記サイトでも、前田普羅の句が見出された:
「「初めての作句 俳句入門」講座 ◆ 中坪達哉」(北日本新聞文化センター)
掌(てのひら)に葡萄(ぶどう)を置いて別れけり
上掲サイトには、前田普羅の碑文が載せられている。転記する:
「わが俳句は俳句のためにあらず さらに高く深きものへの階段に過ぎず」
なるほど、最後の最後に至って、鉄槌を食らったような気分だ。
お前如きが、前田普羅の句の鑑賞などを綴るな、ということなのか。
いずれにしても、そろそろ切り上げ時なのだろう。
[富山は立山をいただく町の光景を吟じた句を「赤とんぼ。」さんに教えていただきました:
立山のかぶさる町や水を打つ
この句については、「会報「商工とやま」平成14年10月号 立山と富山(13) 立山のかぶさる町や」(立山博物館 顧問 廣瀬 誠(元県立図書館館長))を覗くと参考になる。
この頁には、下記の句も載っていた:
雪の夜や家をあふるる童声
オリヲンの真下春立つ雪の宿
(05/03/29 追記) ]
(2004年12月11日 原作 本稿は、「直筆短冊、富山で発見 「辛夷」主宰・前田普羅の代表句」 (富山のニュース - 都道府県別 - 47NEWS(よんななニュース))があったため、急遽、本ブログにアップした。)
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コメント
すっかりご無沙汰の失礼をお許しください。石崎俊彦氏の数千点の資料をいま2年計画で整理分析中です。
前田普羅を覚えていただいていて感謝です。
南砺市のブログ、「なんと万華鏡 ほそみち」ものぞいてみてください。
投稿: 奥野達夫 | 2011/12/01 13:40
奥野達夫さん
ひさしぶりです。
無沙汰しております。
石崎俊彦さんとは、知る人ぞ知るの方ですね。
議員としての活躍は別儀として、棟方志功の活動への貢献は有名なこと。
版画家の棟方志功が恩義を受けた石崎俊彦氏に「青花堂」という堂号を呈したとか。
「なんと万華鏡」
http://5698.blog.nanto-e.com/
久しぶりに覗かせてもらいました。
「東京、名古屋、大阪から等距離の富山」という視点、とても面白いですね。
投稿: やいっち | 2011/12/01 21:31