王子江『天地斎徳 日月同明』を巡って
以前、といっても数年どころではなく、十数年も前のこと、東京書芸館で歌川広重の『東海道五十三次』を買ったことがある。無論、全55枚揃!
まだ、サラリーマン時代で、いろんな思い入れもあってどうしても欲しかったのだ。
日記に書いたことがあるが、ガキの頃、居間の襖や壁にいろんな浮世絵が(あるいは壁の染みや汚れを隠すためだったか)貼ってあったのを今でも思い起こすことが出来る。
写楽の役者、歌麿、鈴木春信の美人画、そして広重。
← 王子江 『天地斎徳 日月同明』 (東京書芸館)
無論、複製である。ガキの小生にも本物ではないと分かる。
それでも、テレビがあり(その前はラジオが鎮座していた)、食事の部屋であり、団欒の空間である茶の間(居間)にそれらが何故か(父の趣味には違いなかろうが)貼ってあるそれらを、CMの間に、あるいは漫画を書くのに飽きてふっと見上げた瞬間にどうしても目に入ることになる。
広重は「蒲原」と「庄野」だった。
もう、それらの画は目に焼きついてしまっている。
ようやく買える余裕もできたので、身の程知らずにも思い切って購入したのだった。
残念ながら、保栄堂版の『東海道五十三次』(全55枚揃)の所在は今は不明である。借金のかたに人手に渡った…のかもしれない。
そんな贅沢が叶わなくなって久しい。
ただ、東京書芸館は小生の窮状を知る由もないのだろう、新作が出来ると案内が今も来る。
美術関係の情報にはいろんな形で接しておきたいので、案内のパンフレットはじっくり読む、眺める、購入し部屋の壁に飾って眺めるのを夢想したりする。
つい先日、また、パンフレットが届いた。
王子江という名の水墨画家の新作案内だった。
題して『天地斎徳 日月同明』(てんちさいとく にちげつどうめい)。
小生、王子江という水墨画家をまるで知らない。
パンフレットによると、NHKで何度となく特集が組まれたとか。
あるいは番組表で名前を見たかもしれない。
が、我が家のテレビ(ブラウン管タイプ)はとっくの昔、壊れている。
あるのはモバイルタイプで画像は心もとない。テロップの活字がなんとか読める程度(それも近づかないとダメ)。
なので、以前は好きだった美術関係の番組は敬遠している。せっかくの絵画の画像に砂嵐や霞がかかっているのでは興醒めなのは分かってもらえるだろう。
H系の番組も見たいが、見れば見るほど逆に画像が不分明でストレスが溜まるばかり(って、まあ、どうでもいい話だが)。
→ 王子江 『天地斎徳 日月同明』 (東京書芸館)
戴いたパンフレットで『天地斎徳 日月同明』を見る。迫力がある。頒布される商品の画寸は「縦25×幅90.4cm」とある(別に額あり)。
ただし、下書きもしないで描いた原作は、縦3m、幅13mだとのこと。パンフレットには大作に取り組む画伯の様子を写す写真も載っている。
王子江とはいかなる人物か。
その略歴を一部示す:
1958年 中国北京出身(画家と文人を輩出した名家に生まれ、祖父と父より3歳から英才教育を受ける) 国立北京芸術学校卒業
1988年 来日
1990年 権威ある『中国当代国画家辞典』に最年少で掲載
1996年 100m水墨障壁画「雄原大地」(100m×2m)千葉県茂原市立美術館収蔵 NHKテレビ「100m水墨障壁画~中国人画家と茂原市民」放映 30m水墨障壁画「過去・現在・未来」(30m×2m)兵庫県姫路市中央保健センター収蔵
1997年 「神嶺雄姿」制作。20m水墨障壁画「人類の愛」(20m×2m)ニュージーランド・アジア2000美術館収蔵。 ニュージーランド政府より感謝状を受ける
1999年 100m水墨障壁画「聖煌」(100m×2m)奈良薬師寺収蔵 第13回水墨画秀作展にて、「月華」で文部大臣賞を受賞 NHKテレビ「聖煌・100mを描く一中国人画家・王子江の挑戦」放映
2001年 兵庫県姫路城の築城四〇〇年記念行事として、100m水墨障壁画「源流千古」を城内で制作。兵庫県姫路市収蔵
2003年 30m水墨障壁画「江山如面図」(30m×2m)兵庫県龍野如来寺収蔵
2004年 50m水墨障壁画「出雲勝境図」(30m×2m)島根県出雲大社・大社町吉兆館収蔵 NHKテレビBShi「中国・時代の心を描く・王子江100メートルの大水墨画」放映
2005年 水墨作品「天地斎徳・日月同明」(10m×8m)国立中国美術館収蔵 NHKテレビ、ETV特集「日中をつなぐ100メートルの水墨画~中国人画家・王子江の挑戦」放映
(「王子江 プロフィール」など参照)
なるほど、今回頒布される「天地斎徳・日月同明」は、国立中国美術館収蔵で、現物は日本では見ることはできないわけだ。
← 王子江 『天地斎徳 日月同明』 (東京書芸館)
これほどの作家なら、小生が知らないだけで、既にいろんな方が紹介しているはず。
ネット検索してみたら、案の定だった:
「いづつやの文化記号 王子江水墨画展」
茂原市立美術館で“雄原大地”が公開されていた、しかも、入場無料だった!
「いづつやの文化記号 王子江水墨画展」の記事を読むと、大作“雄原大地”の実物を目にしての感動が伝わってくる。100mもある障壁画! 画像も載っている。
「2005王子江水墨画展 雄原大地再び 茂原市立美術館」でも画像を見ることができるが、千葉県茂原市公式サイトのはずなのに何故かやや薄く気迫も充実ぶりも感じられない。上記ブログで画像を観たほうがいいだろう。
勝手ながら、「いづつやの文化記号 王子江水墨画展」から一部を転記する。その説明ぶりが見事なのだ:
山を下るにつれ、河が現れ、所々に滝が見える。左右何段かをへて水が河に流れ落ちる音が聞こえてくるようである。河に白い帆舟が浮かび、水面はわずかに波打ち、細長い水流が幾重にもできている。この水墨画に人は出てこないが、川辺や周りを岩や松の木に囲まれた高台には家々が見える。右は全体のなかで一番気に行った場面。構図が素晴らしい。手前の山と対峙している山には滝があり、白雲は龍が動くように帆舟が停泊している河のほうへ降りてきている。また、松の配置が巧み。これほど上手に山水を表現した水墨画は日本画でもそうお目にかかれない。
画像共々、是非、直接サイトへ飛び、ブログの記事の全文を読んでもらいたい。
王子江氏の画業の展覧の上での出発点に茂原市を選んだことでも分かるように、同氏は千葉県と山梨県を中心に活動を続けておられるようだ。
無論、横浜や銀座などの画廊での個展は何度となく開催されているようだ。
山梨県も活動の拠点にされていることを証するサイトが見つかった:
「35.王子江との出会い (2006.4.14) (木曽町広報 4月号 木曽町町長 田中勝己)」
「木曽に100メートルの絵を展示する場所がないか」ということで、かの地(の町長)に打診があったらしいのである。
この頁で、「上野の美術館で、2008年に個展が計画されてい」ることを知る。
↑ 上掲の三つの画像を組み合わせると…。「王子江 『天地斎徳 日月同明』:東京書芸館」より。
なお、「王子江 人生楽事会」を覗くと(どうやら、これが王子江氏のホームページのようだ)、「王子江氏の100m作品が常設展示される美術館を!と、多くの人々が求めていましたが、緑があり、木曽町に「王子江100m美術館」建設の夢が見えてきました」といった記事を読むことが出来た。
「王子江日記」を発見!
また、「芸術家・水墨画家 王 子江(おう すこう) 新着情報ブログ」が詳しい。
「NPO法人「日本で最も美しい村」連合 - 王子江 人生楽事展~in木曽」を覗くと、「水墨画家・王子江(おうすこう)さんの作品展「王子江人生楽事展in木曽」」が開催中であり、連休中も見ることが叶うと分かった:
「王子江「人生楽事展」」
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コメント
王子江さんとお会いしたことがあります。郷土北海道浦臼町の先輩 佐藤氏が無名時代の王子江さんが飛び込みで建築をやっていた佐藤さんにふすま絵などの仕事を請い、描いて貰ったところあまりにも素晴らしいので驚き、その後、王さんの面倒を見たことから佐藤さんを日本のお父さんと慕い、お父さんの郷里の絵を描くと云い、現地へ行ってで浦臼町の山河を描き、町に寄付しています。NHKで紹介され世界的な有名な画家になった今も浦臼町で水墨画教室を開いたり、東京で開かれる東京浦臼会などに出席して戴いています。このときお会いしたのですが、大画家になった今も気さくに話してくれます。
投稿: | 2011/02/17 07:21
名無しさん コメント ありがとう!
王子江さん 近年、有名になってきましたね。
同氏についてのエピソードを教えていただき、ありがとうございました。
小生が同氏の作品に惹かれた頃は、世間的に有名だったかどうか。
小生は、東京書芸館から折々送られてくるパンフレットの中の記事で初めて知りました。
ただならぬ気迫を感じたものでした。
同氏は、白い紙面には、下書きを一切しないで、ぶっつけで描いていくとか。
しかも、巨大な作品を短時間で一気呵成に仕上げるのが流儀だとも。
自在な世界は、これからももっともっと広まり深まりそうです。
投稿: やいっち | 2011/02/17 20:56