『敗北を抱きしめて』雑感(1)
昨年、読み残した本は多数あるが、その中の一冊、ジョン・ダワー著『敗北を抱きしめて 上・下』(三浦陽一・高杉忠明訳、岩波書店刊)をようやく今になって読み始めることができた。
← ジョン・ダワー著『敗北を抱きしめて 上 増補版』(三浦陽一・高杉忠明訳、岩波書店刊)(小生が読んだのは、増補版ではない。)
本書は、小生の狭い歴史関係(現代史・戦後史)の読書体験の中で比較評価するのも、気が引けるが、実に中身の濃い歴史書であることは、間違いない。資料の浩瀚なる渉猟と、当然、アメリカ人ということも無関係ではない客観性、それでいて長く、日本の戦前・戦中・戦後史に関わった学者としての、テーマ性とが相俟って、実に面白く読めている(実は、まだ数十頁しか読んでいない)。
冒頭の「日本の読者へ」という挨拶文の中で、ジョン・ダワー氏は、かの森前首相の発言に怒っておられるのが、印象的だったので、まず、その下りを紹介しておこう:
この本の英語版が出版されて間もないころ、森喜朗首相が、日本は世界のほかの国や文化と違って、「天皇を中心とする神の国」だという悪名高いスピーチをおこなった。私は、これに非常に腹が立った。
なぜか?
これは、研究者として理解している日本ではないからである。私は日本に住んだことがあり、多くの日本人を知り、尊敬もしている。そうした一人の人間としての私の理解している日本でも、それはないからである。森首相が
述べた「日本」は、戦争中の宣伝屋たちが宣伝した「日本」である。それは歴史の特定の時期の、それもひどい時代の「日本」であり、国際的に大きな誤解と害悪を招きかねない、自国中心の政治的イデオロギーの色彩を帯びた「日本」である。私の見る「日本」は、画一的でもあるが、同時に複雑で矛盾に満ちた「日本」である。それは私の国アメリカや、私の同僚たちが研究している他の国や社会とまったく同じことなのである。
「日本の読者へ」は2001年2月1日の日付で書かれているので、森氏は首相という肩書きとななっている。ちなみに、日本のマスコミなどでも、この発言が問題になったわけだが、その際、ほとんど常に「神の国」発言として紹介されることに違和感を覚えていたものだった。
「神の国」だったら、それほど、小生としては問題になるはずもないと思えるからだ。神という言葉が複数であり、つまりは八百万の神々のまします国だというなら、誰もが納得するとは思えないとしても一つの識見ではありえる。まあ、一部の方々のある種の平凡な(しかし、それはそれで尊重されるべき)常識(正しい認識かどうかは別として)でもあるのかもしれない。
が、それに「天皇を中心とする」と冠せられると、全く、事情は違ってくる。冗談じゃないと思えるわけだし、マスコミも森前首相の発言に戦前の危険で狂気に満ちた時代への復古の念があるのではないか、それを今も念頭に置いているのではないかと、追究したのではなかったか。
しかし、マスコミでの森前首相の発言の名指し方は「神の国」発言に終始したのだ。テレビのタイトルも新聞での記事の見出しも。ここに小生は、日本のマスコミの及び腰の姿勢を感じたのである。中途半端なのである。「神の国」発言となると、何が責められるべきなのかの焦点がボケているではないか。
ま、この問題は、ここではあまり深入りしたくない。
さて、今回は、挨拶だけに留めておく。まだ、本論にさえ、入っていない。中身も濃いが、先は長い。気長にやっていこうと思っている。
(02/03/29)
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