« マイルス・デイヴィスの絵画へ(後篇) | トップページ | シートン著の『オオカミ王 ロボ』を読み直す(前篇) »

2010/02/17

『マグネシウム文明論』は注目に価する

 別に我輩如きがエコ論議に口を出すつもりもないが、野次馬根性だけはあるので、関連の話題にはつい目が行ってしまう(らしい)。
 過日、図書館へ返却のため、寄った。
 今、ジョージ・エリオットの大著『ミドルマーチ』を読んでいる最中で、ほとんどかかりきりなので、他の本を読む余裕などない。
 なので借りるつもりはなかった。

4569775616

← 矢部 孝/山路達也 著『マグネシウム文明論』(PHP新書 PHP研究所)

 …のだが、音楽CDだけは返却のついでに新規に借り出した。
 すると、そのカウンターの近くに新入荷本が陳列されている。
 中に、ちょっと気を惹く題名の本がある。
 題名が大仰(に思えた)で、際物(きわもの)的な本かとも思ったが、好奇心には勝てず、手に取ってしまった。

 その本とは、矢部 孝/山路達也 著の『マグネシウム文明論』(PHP新書 PHP研究所)である。
 副題が「石油に代わる新エネルギー資源」となっている。

 自分なりに鬱屈した性格の人間だと自分で自覚していて、まともな本は眼中にないはずだが、でも、「石油に代わる新エネルギー資源」として「マグネシウム」だなんて、なんのこっちゃと、気が付いたら、借り出していた。
 薄手の本だし、『ミドルマーチ』の合間に、気分転換的に読めるだろう…。

 出版社側の謳い文句は、「CO2 25%削減の秘策はこれだ!「太陽光」「水素」の限界を超える革新的技術『タイム』誌など世界も注目」とあるし、著者の一人・矢部 孝氏は、東京工業大学教授、もう一人の山路達也氏は、テクニカルライターと、過去の実績からも、トンでも本ではなさそう。
 ちょっとネット検索してみたら、民主党の議員さんも注目しているブログが見つかったりして。

 マグネシウム文明論とは、何のことか。
 そもそも、マグネシウムって、どんな物質
 昔の写真機だと、フラッシュとして、マグネシウムを焚いていたのを知っている人もいるだろう。
 にがりに関係する物質という話を聞きかじったことがある…。
 海水には相当量、含有されている。
 ただ、現段階では精製して抽出するのが技術的というより、コスト的に難しい。

 検索してみたら、「マグネシウム - Wikipedia」の中に、「次世代エネルギー」なる項が設けられていた:

燃焼にて二酸化炭素を発生しない事から、化石燃料に替わる次世代エネルギーとしての利用研究が進められている。水と反応させて燃えるときの熱を利用する他、同反応により発生する水素を燃料として利用する方法が挙げられる。燃焼後の酸化物のリサイクルのための還元処理が最大の課題であり、レーザーによる高温を利用する方法などが提案されている。

 なるほど、この課題が克服されつつある、あるいは既に解決され、実用化の段階を迎えつつある、ということなのか。

 本書の内容などについては、小生が下手な解説を試みるより、ライターの一人・山路達也氏が矢部 孝氏にインタビューする形で、かなり詳しい説明が得られる:
『世界は、石油文明からマグネシウム文明へ』矢部教授の回答(1) WIRED VISION
1トンのマグネシウムを作るのに10トンの石炭が使われている?
海水からマグネシウムを低コストで取り出せる?

『世界は、石油文明からマグネシウム文明へ』矢部教授の回答(2) WIRED VISION
ほとんどエネルギーを使わずに、海水を淡水化できる?
海水から取り出した酸化マグネシウムはどこで精錬する?
太陽光励起レーザーの変換効率は本当に40%以上?

『世界は、石油文明からマグネシウム文明へ』矢部教授の回答(3) WIRED VISION
レーザー媒質の改良は可能か?
4㎡の巨大なレンズを低価格で作ることは可能?
レーザーによる超高温に精錬炉は耐えられるか?

『世界は、石油文明からマグネシウム文明へ』矢部教授の回答(4) WIRED VISION
金属マグネシウムの精錬効率は?
燃料用マグネシウムは、どんな形状になる?

 もっと本書の概要、あるいは敢えて「マグネシウム文明論」と銘打つ理由を端的に展望したいという方は、下記のサイトがとても分かりやすく参考になる。
 サイト主の方が若いころは石油化学工場で働いていたということで、着目する点も、的を射ていると感じた:
マグネシウム文明論 (mark-wada blog)

 次世代のエネルギー源が、例えば、車についても、まだこれという決定打が見えていない中(水素を使う燃料電池の問題点も、本書を読んで知らされた)、マグネシウム、そしてレーザー(太陽光励起レーザー)技術との組み合わせが浮上しつつあることに、素人ながら期待してもいいように感じてしまった。
マグネシウム文明論 (mark-wada blog)」のサイト主の方が書いておられるように、「太陽電池だとか、電気自動車だとか言っているが、この技術がコストの壁を乗り越えたら全部これで席巻されてしまうのではないだろうか」と、小生も感じた次第である。

                               (10/02/15 作)

|

« マイルス・デイヴィスの絵画へ(後篇) | トップページ | シートン著の『オオカミ王 ロボ』を読み直す(前篇) »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

科学一般」カテゴリの記事

社会一般」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。
面白そうな本ですね。マグネシュームがね?読んでみます!

投稿: シゲ | 2010/02/18 09:59

シゲさん

トンでも本かと、最初はちょっと…と思ったけど、なかなか興味深い本でした。

単に効率がいいとかじゃなく、物質のサイクル、エネルギーの循環を考えてあって、素人ながら近い将来的には有望なのかな、と。
物質の分解にレーザーを使うってのも、勉強になりました。


マグネシウム…。
マグネシュームという表記もありますね。
違いがあるのかな。
時間があったら、調べたい。気になる。

投稿: やいっち | 2010/02/19 13:57

2013年3月10日放送のNHK「サイエンスZERO」は、「パワー10倍! マグネシウム電池開発中」というテーマ:
http://www.nhk.or.jp/zero/contents/dsp419.html

以下、上記頁より転記:
これまでの乾電池よりもパワーが10倍長持ちする「新世代の電池」。その原理はなぜか、ある種の金属に塩水をかけるだけ。しかも、使いきっても太陽の熱などで熱すれば元に戻って繰り返し使えるという、夢のようながら不思議な電池です。しかもこれが発見されたのは、ひょんなきっかけ。リニアモーターカー実験線跡で新型車両の開発をしていた研究者が、たまたま車体に塩水をかけたところ、発電することが判明したのです。先日、3輪電動バイクで100キロの走行実験が行われ、実現が視野に入ってきた新型電池の不思議な実力をお楽しみください!

なお、出演者(ゲスト)は、小濱 泰昭氏
(東北大学教授)

投稿: やいっち | 2013/03/11 22:22

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『マグネシウム文明論』は注目に価する:

« マイルス・デイヴィスの絵画へ(後篇) | トップページ | シートン著の『オオカミ王 ロボ』を読み直す(前篇) »