シートン著の『オオカミ王 ロボ』を読み直す(後篇)
小生は、西部開拓時代の、白人によるインディアン…先住民族の大虐殺を重ね合わせて読まざるを得なかったのだ。
→ Ernest Thompson Seton (drawing from 「100 Years of Illustration Ernest Thompson Seton 1860-1946」)
先住民族の地の利を生かした戦いも、白人の側の狡猾さと約束をことごとく破る卑劣さの故に、リーダーらも含め、大量虐殺の憂き目に遭ってしまう。
(同時に、都の貴族達に騙まし討ちに遭った、先住民族のリーダー阿弖流爲(あてるい)の悲劇をも重ね合わせて読んでいたのだった。北米大陸には、ロボに匹敵するような知恵のある優れたオオカミが複数居たらしいが、先住民族のリーダーも何人もの名前が史書に載っている。彼らもことごとく殺されていった。)
まさかこんな読み方、感じ方をするとは思いもよらなかった。
ニホンオオカミが絶滅したのは、「害獣として処分の対象とされた事の他に、明治以降に輸入された西洋犬からのジステンパーなどの伝染病が主原因とされている」というが、本書を読んで、日本が白人文化の洗礼を受け、オオカミへの偏見を抱かされた側面のほうが実は大きいのでは、と思えてならない。
← Ernest Thompson Seton (drawing from 「100 Years of Illustration Ernest Thompson Seton 1860-1946」)
アメリカの、白人に毛嫌いされ怖れられたオオカミたちも、人間は決して襲わないのだが、読んでいて狼たちの残虐さ、狡猾さばかりが印象付けられる(読むのが小生のような理解力も洞察力も乏しい子どもが圧倒的だろう)。
そして、日本に古来住むオオカミへの恐怖心や敵愾心のような感情を植えつけられる。
脱亜入欧に勤しんだ日本の人々は、日本の里山も明治維新以降、自ら徹底して破壊し尽くす。
クマやオオカミらの生活するゾーンを人間達がどんどん侵食していく。
当然、人間たちと野性の動物達との遭遇と軋轢、諍いが増える。
人間の人的、生活上の被害も生じる。
クマやイノシシやオオカミが敵視され、オオカミやクマは怖いもの、人間を襲うものという先入観をいろんな形で植えつけられ、殺すことを正当化される。
害獣ニホンオオカミの誕生である。
彼らの生活圏を狭めていって、ついにニホンオオカミの絶滅という事態に立ち至る。
日本の里山を含めた文化や伝統も、ある意味、白人(や白人の洗礼を受け近代化した日本人)のフロンティアに他ならなかったというのは、というのは穿ちすぎなのだろう、けれど。
→ オオカミ王ロボ (多分、白土三平画による漫画の一場面を小学校卒業前後の頃に模写したもの。)
ここまで話を敷衍するのは、やや深読みしすぎ、誤読ギリギリなのかもしれないが、自分としてはそれほど的外れな読み方ではないと思う。
子供の頃はともかく、大人になって読むと、こんなに印象が違うのかと驚くばかりだ。
白人の残虐さ、横暴さに思いが至り兼ねないから、大人には読ませたくない本、なのかもしれない、などと余計なことまで詮索したくなってしまった。
(念のために付言しておくが、シートンは彼の時代にあって、彼なりに消えゆく野生動物への共感の念を抱いていたと小生は感じている。あくまで、作品の時代背景を嗅ぎ取ってしまっただけである。)
関連拙稿:
「羽根、あるいは栄光と悲惨の歴史」
「古矢 旬著『アメリカ 過去と現在の間』」
(10/02/17 作)
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