デューラー『メランコリア I』の「I」再び
過日、図書館へ足を運んだ。
いつものように自転車を駆って、ではなく、車で。
不本意ながらも車を使ったのは、車道はともかく歩道には雪が残っていて、走行に不安を覚えたからである。
早く、快適な風を浴びながらサイクリングを兼ねて図書館などへ向かえるような季節が来て欲しいものである。
← 藤代 幸一【著】『デューラーを読む―人と作品の謎をめぐって』(法政大学出版局 (2009/12/10 出版))
その図書館の新入荷本のコーナーで、デューラーを扱う本を発見。
題材がデューラーとなると、目を通さないわけにいかない。
それは、藤代幸一著の『デューラーを読む―人と作品の謎をめぐって』(法政大学出版局 (2009/12/10 出版))である。
「“ペンを執る画匠”デューラーの旅日記や書簡を読み込み、フランス病疑惑や“メレンコリア1”の謎を、記号・紋章・占星術等のキーワードを通して読み解く」といった本で、小生は占星術と聞くと、どうも敬遠したくなるのだが、それでも一度はそうしたテーマにも接しておいたほうがいいかなと、借りた。
それに、本書ではデューラーの「フランス病(梅毒)疑惑」をも扱っていて、やはり疑いは濃厚のようである(当時の治療のための秘薬をデューラーは購入している)。
デューラーについては、これまでも何度となく扱ってきた。
「デューラー『メランコリア I』の周辺」では、『Melencolia I』の中の多面体(石)の面にガイコツらしきものが見える、という話を主にしている。
「デューラーの憂鬱なる祝祭空間」にては、デューラーの水彩画の魔的な細密描写に焦点を合わせてみた。
さらにデューラーについては、ルドンと絡めて書いた拙稿「版画からあれこれ想う」があって、この中では、「メランコリア I」の「I]に着目している。
(この「版画からあれこれ想う」については、「ブレスダン…版画と素描と」と題した記事にてブログ化している。)
本書でも当然ながら、「メランコリア I」も読み解かれていて、その中で「I」についても、諸説のあることを教えてくれている。
何年か前、この「I」が「「ラテン語の「行け」」を意味する」lことを知って、つい勝ち誇ったような(?)気分になっていたが、あくまで説の一つに過ぎないと分かり、窘められたような気になった。
この「I」は、ラテン語で「行く」を意味する動詞「ire」の命令形「i」(「行け」)だという説である。
「メランコリア I」と記された旗(銘文? 看板?)を持つ奇妙な動物(コウモリらしい)へ、「行け」、つまりは去ってしまえ(立ち去れ!)、という解釈をしているわけである。
実際のところは、この絵の題名にしても、この銘文「メランコリア I」から採っているわけで、これまでも多様な解釈がされてきた。
本書ではギュンター・グラスやベンヤミンの解釈がやや詳しく紹介されている(時間の余裕がなくて、ここでは紹介できない)。
→ アルブレヒト・デューラー『Melencolia I』(メランコリア) (画像は、「Albrecht Dürer – Wikipedia」より)
さらにブラントの『愚者の船』(今は詳しく調べられないので、ボスの『愚者の船』を紹介しておく → 「ヒエロニムス・ボス-愚者の船」)との絡みで、この「i」は、実は、銘帯「メランコリア I」を持つコウモリの鳴き声であり、この鳴き声は魔的なもののシンボルだという解釈を示されている。
版画「メランコリア I」に大きく描かれている、翼を持った若い女性は、悪霊であり悪魔なのであって、コウモリは、この悪魔に退散しろと言い募っている(喚いている)というわけである。
これは、小生の見解だが、そこまで解釈を施すなら、デューラーのフランス病との絡みから言って、彼をこんな病に陥れた娼家の娼婦に、つまりはそんな誘惑に負けたこと、こんな憂鬱症な人間になってしまったことに向かって、呪詛の念を発している、もっと端的には、「憂鬱症よ 去れ!」といったテーマの絵なのでは、という解釈までもう一歩ではないか、と思えてくるのだが、恐らくは(きっと!)、解釈のし過ぎなのだろう。
(10/01/10 作)
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