マーク・ホウ著『ミドルワールド』でブラウン運動の驚異を知る
1905年というと、物理学好き、あるいはアインシュタインをニュートンと並ぶ科学の英雄とガキの頃に思い込んでしまった小生のようなものには、特別な年である。
言うまでもなく、「アインシュタインは「光量子仮説」「ブラウン運動の理論」「特殊相対性理論」に関連する5つの重要な論文を立て続けに発表した」わけで、これらの何れの論文も後世の科学に非常な影響を与えた年だから驚異の年と呼ばれるわけである。
← マーク・ホウ著『ミドルワールド―動き続ける物質と生命の起原』(三井 恵津子【訳】 紀伊國屋書店 (2009/12/12 出版))
このうち、「ブラウン運動の理論」は、やや地味な扱いになっているかもしれない。
小生はアインシュタインの伝記などを好んで読んできたので、概略は(覚束ない理解ながら)知っている。
しかし、肝心の「ブラウン」なる人物については、全くといっていいほど知らないし、まして彼に付いて調べよう、なんて思いもよらないまま、今日に至ってしまった。
そのブラウン運動の研究が、ある意味、量子力学の影響に価値的には匹敵するものだとは尚のこと、気付かずに来た。
アインシュタインの栄光の輝きに眼が眩んで、ブラウンなどは背景に追いやられてしまったようだ。
(光量子仮説については、光電効果との関連で、個人的に思い出がある。)
そのことを思い知らせてくれる本に図書館で偶然、出合った。
例によって新入荷本のコーナーに並べられていた三十冊ほどの本の一冊だったのだが、小生の目は、ヴォルテール伝の本(これがまが実に面白い!)と共に、本書に真っ先に向いた。
その本とは、マーク・ホウ著の『ミドルワールド―動き続ける物質と生命の起原』(三井 恵津子【訳】 紀伊國屋書店 (2009/12/12 出版))である。
本書を紹介する前に、まず、ブラウン運動とはどういうものか。
「ブラウン運動 - Wikipedia」によると、「ロバート・ブラウンが、花粉が水の浸透圧で破裂し水中に流失し浮遊した微粒子を顕微鏡下で観察中に発見した現象」である。
本書でも指摘されているが、「水中で浸透圧により破裂した花粉から流出した微粒子ではなく、花粉そのものがブラウン運動すると間違われることがある」!
小生も本書を読むまで、「花粉そのものがブラウン運動する」と思い込んでいた!
小生の下手な紹介より、出版社側の詳細を転記して示したほうが分かりいいだろう:
本書は、ミクロとマクロのあいだの大きさの物質が、ランダムに動き続ける「ミドルワールド」への手引きである。
ブラウン運動の発見者ロバート・ブラウンをはじめ、近代科学史を彩るニュートンやアインシュタインなどの偉大な天才たちや、不遇な奇才たちの興味深いエピソードも織り込みながら、科学史の見落とした「ミドルワールド」探究の跡をつぶさに辿り、そのはかり知れない可能性に迫る。
じっとしていられない小さなものたち
偶然発見された「ミドルワールド」―ロバート・ブラウン小伝
快楽の園、決定論の果樹園
産業革命からライスプディングまで
巨人たちが使った統計学
虚構と哲学、時間と実在
ブラウン的世界の理論
ゴムの小球から原子の発見へ
物質から生命へ
ミドルワールドの鎖状のギャング、プラスチック「ミドルワールド」とはクォークなどのミクロな世界と生命体などのマクロな世界の間に存在する中間スケールの世界を指す。植物学者ブラウンが、この世界でおきる片時もじっと留まらない運動を発見して以来200年、今日までの研究の経緯を明かにし、この運動の理解が、生命の起源の解明や最新のナノテクノロジーの開発にとって重要であることを説き明かす。
ちなみに著者のマーク・ホウは、物理学者であると同時に、小説家でもある。
だからだろうか、実に読みやすいし、読んで楽しい物語風に仕立ててあって、極大の宇宙と極小の素粒子との中間の、まさに我々の日常に(とても!)身近な世界の驚異への関心を掻き立ててくれた。
DNAだって、巨大な分子であるタンパク質だって、細胞の液中中で微細な、しかし決して止まざるブラウン運動の渦中にある(こんな当たり前のことにさえ、今更、気付くなんて)!
物理学に比べると、どちらかというと、化学はあまり好きではなかったし、プラスチックなる物質が何か人為的過ぎて嫌いだったのが(小生の小説や随筆を読んだことがある方なら、プラスチックへの小生の偏見の強さに気づいておられるかもしれない)、ちょっと見直してみようかな、なんて我輩に思わせてくれたのだ。
(10/01/07 作)
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