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2010/01/17

デイヴィッド・リンドリー著『そして世界に不確定性がもたらされた』を楽しむ

 デイヴィッド・リンドリー著の『そして世界に不確定性がもたらされた―ハイゼンベルクの物理学革命』(阪本 芳久【訳】 早川書房)を読んだ。

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← デイヴィッド・リンドリー【著】〈Lindley,David〉『そして世界に不確定性がもたらされた―ハイゼンベルクの物理学革命』(阪本 芳久【訳】 早川書房 (2007/10/25 出版))

 本書は、「世界を揺さぶった不確定性の概念と、それをめぐる著名な科学者たちの人間ドラマとをみごとに描き出した、渾身の科学ノンフィクション」といった本だが、小生は、図書館で本書をパラパラ捲って、その冒頭の一節を読んで借りることに決めた。

 それは、「量子論と不確定性の考え方は、ある日突然現れたものではない。浮遊した微粒子がランダムに動くブラウン運動など、19世紀には不規則で統計的な現象の存在が明らかになっていた」とあるのだが、そのブラウン運動などを含めて、不確定性理論の前史がある程度、踏み込んで描かれているらしいと分かったからで(も)ある。

 というのも、つい先日、「マーク・ホウ著『ミドルワールド』でブラウン運動の驚異を知る」(2010/01/06)なる小文を書きおろしたばかりで、表題に示したように、ブラウン運動の驚異、さらにはミドルワールドの面白さに目を見開かされたばかりだったからである。

 一旦、例えば今回のように、「ブラウン運動」といった現象、あるいはそのタームに関心が向くと、関連する本に、どうぞとでも天から言われたかのように出会えるから不思議である。


 本書で焦点になっているハイゼンベルクは、小生にとっては、学生時代にハイゼンベルク著の『部分と全体―私の生涯の偉大な出会いと対話』(山崎 和夫訳、みすず書房)を読んで以来の英雄である。

 実際、我がブログでも何度となくハイゼンベルクについては言及している。
謎の一日…原爆は誰の手に」(2006/11/25)でも触れているが、特に「ミラー著『アインシュタインとピカソ』」(2005/02/26)では、以下のように書いている:

ハイゼンベルクの『部分と全体』(山崎 和夫訳、みすず書房刊)は、刊行されて久しいが、物理学では今も最高に知的興奮に溢れる書だ。物理学者の書いた本で唯一、部分的にでもプラトンの対話篇の域に迫る本だと思う。機会があったら改めて触れてみたい本。学生時代に刊行された直後のその本を大学の書店で見つけて、即座に購入し、一気に読み終えた。あの興奮は忘れられない。その後、二度だけ再読している。

 その後も一度、読んだから都合、通算で四度、読んだわけである。
 それほど小生には魅惑的な本となっている。

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← ハイゼンベルク著の『部分と全体―私の生涯の偉大な出会いと対話』(山崎 和夫訳、みすず書房)

 それはそれとして、本書では、ハイゼンベルクとニールス・ボーアやアインシュタイン、パウリらなどとの人間ドラマが描きこまれている。最高の物理学者たちの実に人間臭い物語の書としても楽しめる(当事者達は、苦しかったりしただろうが)。
 無論、本書の本筋は、「量子力学、さらにその第一の特徴である不確定性原理によって、古典論の因果律と決定論の放棄を迫られた物理学者たちの知的苦闘の歴史」なのである。
 またこの不確定性は、量子論共々、一般社会ではやや(あるいは相当に)飛躍した(誤解された)解釈を施されて、社会の混迷を表現するタームのように使われたりした、そんな社会世相をも本書では描かれている。

 まあ、そんなことより、小生は望みどおり、ハイゼンベルクの活躍ぶりをその人間性を含めて知ることができて、まずは満足であった。

                             (10/01/17 作)

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