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2009/12/14

ヒラマン・P・ファーガソン 数学を彫刻する

 問いが立てられてから解決まで四百年を要した、ケプラー予想が1998年、ミシガン大学の数学者トマス・ヘールズによって、コンピューターを大々的に利用する方法でだが、証明が成し遂げられた。

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← Helaman Ferguson「Figureight Knot Complement」 (画像は、「helaman ferguson sculpture」より。以下、同様)

 その過程でのドラマやエピソードを綴ったジョージ・G・スピーロ/著『ケプラー予想  四百年の難問が解けるまで』(青木薫/訳 新潮社)について、感想文めいた日記を既に書いている:
スピーロ著『ケプラー予想  四百年の難問が解けるまで』を読む

 そのトマス・ヘールズの偉業を助けた数学者にサミュエル・リーハイ・ファーガソンなる人物が居る。
 その人物も優れた方なのだが、ここでは、彼の父親であるヒラマン・P・ファーガソンを紹介する。

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→ Helaman Ferguson「Eine Kleine Link Musik, 6"」 (画像は、「helaman ferguson sculpture」より)


 なかなか興味深い人物なので、『ケプラー予想  四百年の難問が解けるまで』のスピンアウト的な雑稿として、人物紹介を兼ね、このメモを残しておきたい。

 といっても(少なくとも日本語での)ネット上では、彼に付いての情報は小生には見つけられなかった。
 誰かご存知の方が居たら、教えてくだされば幸いである(但し、「ファーガソン」という名前だけでなら、それなりに情報は浮上してくる。ほとんどが別人(血縁があるのかどうかは不明だが)のようだ)。
 多分、本稿で紹介する作品画像を見たら、知っている、何処かで見たことがあると思われる方も少なから
ず居るのではなかろうか。
 小生も作品をネットか画集か書籍の中で見たことがあるような気がする(←自信がない)。
 

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← Helaman Ferguson「Natural Number Bridge」 (画像は、「helaman ferguson sculpture」より)

 ここでは、メモというより、上掲書からの引用(転記)の形で同氏を、特にアーティストの側面に焦点を合わせて紹介を試みる。

 ファーガソンは、二つの得意領域を結びつけ、そのどちらでも優れた仕事をするという稀に見る幸運に恵まれた人物である。ファーガソンは恵まれない子ども時代を送った。裏庭で洗濯物を干していた母親が雷に打たれて死亡し、父親は第二次世界大戦で兵隊に取られたため少年と妹は祖母に引き取られた。しかしこの老婆が子どもたちにコーヒーを飲ませているところを親戚が見て驚き、二人を遠い親戚の養子にすることにした。ファーガソンは養父となったアイルランド人の石工の弟子となって修業し、その後絵画と彫刻を学んだ。だが、どれほど情熱にあふれた芸術家でも、それで食べていけるとはかぎらない。そこでファーガソンは数学も学ぶことにした。一九七一年、ファーガソンはシアトルのワシントン大学で博士号を取得し、その後ブリガムヤング大学で十七年にわたり教鞭を執った。彼は計算数論の分野でも研究を行い、有名なPSLQアルゴリズムは彼の仕事のひとつである。このアルゴリズムでは、πの計算をするときに、n-1桁目を計算することなくn桁目を求めることができる。PSLQはこのほかにも数学や物理学にとって有用な使い道があり、ある専門誌はこのアルゴリズムを、二十世紀に発明された優れたアルゴリズムの上位十位に挙げている。
 これほどの仕事を成し遂げれば一人の男の人生としては十分だと思われるかもしれない。しかしそんな基準はファーガソンにはあてはまらない。彼は何よりもまず彫刻家なのだ。彼は、数学的なアイディアに触発されて制作をする。芸術的な美しさと数学的なエレガンスとをあわせもつその作品は、世界各地で展示されている。ファーガソンは緻密な数学態概念を巧みに三次元芸術に移し替えることにより、数学の美しさに物理的表現を与えているのだ。
(『ケプラー予想  四百年の難問が解けるまで』より抜粋)

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→ Helaman Ferguson「texas snowflake 13th eigenfunction」 (画像は、「helaman ferguson sculpture」より)


 このであるヒラマン・P・ファーガソンは、ギネスブックにも彼の記録が載っているジョグリング(ジョギングをしながらジャグリングをすること)や、そのジョグリングで怪我をしてからは、ワグリング(ウォーキングとジャグリング)をつづけたことでも有名。
 もしかして、テレビの面白映像で見たことがあったような(←これまた自信がない)。

                            (09/12/14 作)

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コメント

こんにちは。

一番下の写真「texas snowflake 13th eigenfunction」は、コッホ雪片でしょうか?

「フラクタル・オブジェ」の立体化といったところですかね。

投稿: Usher | 2009/12/17 23:31

Usherさん

コッホ雪片!
ジェイムズ・グリック著の『カオス』などでマンデルブローなど、興味深い世界に出会いましたね。

ヒラマン・P・ファーガソンのこれらの彫刻作品(画像)は、立体ですし、もっと特殊な数式の抽象的なイメージを具体化したものなのでしょうね。

数学者が高度な数式を駆使する際、脳裏でどんなイメージを思い描いているのか、想像を絶します。

投稿: やいっち | 2009/12/20 18:13

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