ニック・レーン著『ミトコンドリアが進化を決めた』に絶句
高校時代、生物の授業で、細胞(など)について勉強した。
何処まで理解したかは別儀として、ただ肉眼では見極められない微細な世界で生きる細胞という存在、生き物への畏敬の念だけは抱かされた。
← ニック・レーン著『ミトコンドリアが進化を決めた POWER, SEX, SUICIDE』(訳者斉藤隆央 解説田中雅嗣 みすず書房)
真核細胞の細胞壁や細胞膜の中の、液胞やミトコンドリアや小胞体、葉緑体、ゴルジ体などの器官に驚異の感を覚えるばかりだった。
細胞が、単細胞の原生生物になり、やがて多細胞の原生生物になり…。
人間の体は60兆もの細胞で成る…。
あるいは、 ATP(アデノシン三リン酸)の働きでエネルギーを発生させる、このことで生命活動が可能になる…。
エネルギー代謝とミトコンドリアの関係。
酸素呼吸の場。
ニック・レーン著の『ミトコンドリアが進化を決めた POWER, SEX, SUICIDE』(訳者斉藤隆央 解説田中雅嗣 みすず書房)を読んだ。
期限内では読みきれず、三週間を要してようやく読了。
が、じっくり付き合うに値する、読み応えのある本という読後感を強く抱かされた。
生物関係の本は折々読んできたが、これほど本格的な本は初めてである。
生物というと、遺伝子至上主義とも言うべき論調があったりするが、生き物を構成する基本的な単位である細胞を知らずして、進化について生命について何を語っても物足りなく思わせられる。
その細胞にしても、原核細胞もあれば真核細胞もある。
(多細胞の)生物を構成するのは真核細胞。
一方、地球環境に誕生してからほぼ一貫して個々の形で生きることを守り通した細胞たち(一部は、ラン藻などを形成している)。
その細胞と真核細胞(生物)を分けるのは、「ミトコンドリアや小胞体、葉緑体、ゴルジ体などの器官」だが、一番は、「核」の存在に象徴される。
しかし、本書を読んで小生が初めて知らされたのは、そもそも「われわれヒトを含むすべての真核生物の誕生を可能にしたのは、ミトコンドリアの内部共生という進化史上の特異事象だった」という事実。
ミトコンドリアの誕生こそが生物の多様性に不可欠だったという指摘。
→ 真核生物の構造。 (画像は、「ミトコンドリア - Wikipedia」より)
以下、本書の裏表紙に載っている、内容紹介を読んでみよう:
生命進化を「操る」したたかなミトコンドリアの論理を手がかりとして、生命の起源から人類の現在までの40億年を語り切ってしまうダイナミックな科学書。われわれヒトを含むすべての真核生物の誕生を可能にしたのは、ミトコンドリアの内部共生という進化史上の特異事象だった。以来、多細胞化や、複雑な形態など生物の際立った特徴が、寄生生物体ミトコンドリアとその宿主である細胞の、ほかに類例のない進化戦略の結果として生じてきたといえる。
さらに著者は周到な議論によって、生命の起源、性の起源、老化の原因、人類の起源など、進化の主要な問題にミトコンドリアが果たす決定的な役割を明らかにする。
どのように進化したか(How)だけでなく、あえて進化のなぜ(Why)を問い、それに答えようとする大胆不敵な語り口は読み応え抜群。ミトコンドリアは地上で最も繁栄している生物体となり、いまこの瞬間もわれわれの生命とその死を支配している。ミトコンドリアを知らずして生命は語れない。
正直、小生にはレベルの高すぎる本だが、だからといって敬遠する必要はない。
日本語の題名が小生には、ちょっと安っぽく感じられる。が、内容は本格派である。
ちょうど2年前に訳が出たものだが、定番の書に変わりはない。
食らいついて読むだけの甲斐が間違いなくある。
なお、新聞の書評としては、「ミトコンドリアが進化を決めた 書評 本よみうり堂 YOMIURI ONLINE(読売新聞)」が一番、簡潔・的確で且つ読む気にさせてくれるものだろう。
(09/12/20 記)
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