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2009/12/09

マルケス著『生きて、語り伝える』を読んだ

 G・ガルシア=マルケス/著『生きて、語り伝える』(旦敬介/訳 新潮社)を読んだ。

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← G・ガルシア=マルケス/著『生きて、語り伝える』(旦敬介/訳 新潮社)

 ガルシア=マルケスでこれまで読んだものというと、G・ガルシア=マルケス著『百年の孤独』(鼓 直訳、新潮社)と『わが悲しき娼婦たちの思い出』(木村榮一訳、新潮社)との二冊だけ。
 但し、『百年の孤独』は二度も読んだ。

 一度目は随分と以前に若さに任せて読み倒したもの。
 が、密林の深みに迷い込んでしまって味読も何も、ただ中央突破したという印象しか残っていない。 
 それこそ、メルヴィルの『白鯨』ムージルの『特性のない男』など、力任せに読んで、ただ、読了したという征服感もどきだけしか読後感にないような本は何冊もある。

 しかし、以前、読んで楽しめなかったという悔しさと、それでも読了はしたという経験とは、それなりに活きて、四半世紀ほども置いて二度目の挑戦をした時には、深く強く感銘を受けたのだった。
『白鯨』が世界文学の筆頭の一冊だというのも、心底、納得できた。
百年の孤独』も、四半世紀置いての二度目のトライでは最初から楽しめた。
 ジャングルの深みと不可視の闇を、人間の度し難さと重ね合わせ、じっくり読み込むことができた。

わが悲しき娼婦たちの思い出』は、「作者七十七歳にして川端の『眠れる美女』に想を得た今世紀の小説第一作」という謳い文句に惹かれて予約し、読んだのだが、娼婦達との関わりや哀感などは、文学的着想や隠微さはともかく、川端よりマルケスのほうがずっと経験豊富で且つ日常的な次元からのもので、興味深いものだった。

 そんな娼婦体験も含め、本書『生きて、語り伝える』(旦敬介/訳 新潮社)はマルケスの文学的土壌や背景を堪能することができた。

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→ G・ガルシア=マルケス/著『わが悲しき娼婦たちの思い出』(木村榮一訳、新潮社)


 図書館の新入荷本コーナーに居並ぶ本の一冊が本書だったのだが、即座に手にとった。
 この本が出るという情報は掴んでいなかったので、帰宅して本書を手に取ってみるまで、本書はマルケスの新しい小説だと気付かなかった次第。
 そう、本書は、「祖父母とその一族が生きぬいた、文字通り魔術的な現実。無二の仲間たちに誘われた、文学という沃野。ジャーナリストとして身をもって対峙した、母国コロンビアの怖るべき内政紛乱……。作家の魂に、あの驚嘆の作品群を胚胎させる動因となった、人々と出来事の記憶の数々を、老境を迎えてさらに瑞々しく、縦横無尽に語る自伝」という、自伝なのだった。
 小説でないことにちょっと失望しかけたが、冒頭の一文を読んだだけで彼の世界へ引きずり込まれていった。
 さすがにマルケスという筆力を実感させる。

 コロンビアという国柄。
 戦いに明け暮れる日々。内紛。国民の数パーセントが争いで死んでしまったという。
 マルケスがそういったコロンビアの現実に「ジャーナリストとして身をもって対峙した」ことを小生は初めて知ったのである。

 忙しいというか、慌しい日々の中、一日に読めるのは、それこそ数十頁。一気に読めるほどの面白さなのに、二週間という借り出しの期限では読めず、延長してやっと読了。
 文学作品の世界に浸りきれない我が日常に一抹の寂しさを感じる。

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← G・ガルシア=マルケス著『百年の孤独』(鼓 直訳、新潮社)

 とはいっても、途切れ途切れの読書であっても、一旦、本書を手に取れば、そこにはマルケスの世界がある。
 コロンビアという国に生まれ育ち、若い頃に英語も含め、まともに勉学の基礎を習得し切れなかったというびっくりするような事実も知れる。
 英語を学べなかったことは随分と損をしたと彼自身、本書で述懐している。
 また母語のスペルもよく間違えてしまって、それをタイプミスと編集者にかばってもらっていると苦笑い気味に書いていたりする。

 さて、「生きて、語り伝える 書評 本よみうり堂 YOMIURI ONLINE(読売新聞)」によると、「本書を読むと、マルケスの幼少期という土壌がどれほど豊穣(ほうじょう)だったかがよくわかる」し、「大学生のとき首都ボゴタで目撃した大統領候補暗殺事件と直後の民衆蜂起についての詳細な回想は、ラテンアメリカ現代史の重要な証言ともなってい」たりするのだが、やはり、何と言っても、どんな境遇にあっても、「マルケスについて離れなかったのは、いかに書くかという問題だった」こと、その執念をマルケスならではの筆力・表現力を以て感じさせられる、そのことが本書の一番の収穫なのだと思う。


マルケス関連拙稿:
百年の風流夢譚に愉悦せん

                             (09/12/09 作)

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