『旅する遺伝子』で人類の歴史を旅する
スペンサ-・ウェルズ著の『旅する遺伝子』(上原 直子【訳】 英治出版 (2008/10/27 出版))を読んだ。
副題は、「ジェノグラフィック・プロジェクトで人類の足跡をたどる」とある。
著者のスペンサ-・ウェルズは、「ナショナルジオグラフィック協会の協会付き研究者であり、ジェノグラフィック・プロジェクトの指揮を執る」という方。
← スペンサ-・ウェルズ著『旅する遺伝子』(上原 直子【訳】 英治出版 (2008/10/27 出版))
「「ジェノグラフィック・プロジェクト」とは」、「世界各地の数十万人から採取したDNAサンプルを分析し、いつ、どのように人類がアフリカから地球全体に広がっていったかを解明する国際研究プロジェクト」である。
本書はその成果の(ほんの)一端ではあるが、「現代に生きる5人のDNAから明かされたのは、5万年をかけた人類の驚くべき移動の秘密」(歴史)を語ってくれている。
小生、この手の本に目がない!
日本(人)に焦点を合わせたこの手の本は読んだことがあるが(本稿末尾の関連拙稿参照)、実際には、研究は欧米のほうが成果的に進んでいる。
「「旅する遺伝子」(スペンサー・ウェルズ) - モコモコ雲を探しに♪」にて、本書から引用されているように、「データが相対的に限られているにもかかわらず、世界的に分布する遺伝子パターンについてはかなりのことが分かってきている。ヨーロッパの集団がとりわけ秩序よく整理されているのは、ほとんどの遺伝学者がヨーロッパ人の子孫だったという単純な理由から」なのである。
それでも、本書はとても読みやすく理解しやすいので、日本からではなく、世界(といっても、欧米だが)という広がりで、アフリカに端を発する現生人類の移動の歴史を展望できて、読んでいて楽しい。
楽しい以上に、遺伝子(ヒトゲノム)の追跡という手法でここまで流れが分かる(本書は、一万件前後のサンプルに基づいて構成されているというが、それでもまだまだデータ的に偏っていると、研究者自身が強調しているのだとしても)というのは、驚きでもある。
(但し、筆者の東アジア(日本)についての認識は、やや難点があるようだ。日本人だから気になるわけだが。ま、欧米偏重の研究だという、一定の留保を置いて読む分には、本書の性格からして、瑕疵とまでは言えないだろう。)
そうそう、本書で初めて知ったのだが、「多様な背景をもつアメリカ人の趣味は、ガーデニングについで家系調べだそう」だ!
言われてみれば、多民族(移民)国家アメリカであれば、なるほどそれも分かるというもの。
さらに、興味深いことに、本書の末尾に書いてあるが、「一般人がこのプロジェクトに参加することも可能で、専用キットを購入してDNAサンプルを送れば自分のルーツを知ることができます。主目的はこの寄付による、先住民の研究」だという。
但し、「旅する遺伝子 スペンサー・ウェルズ - 壊れかけたメモリーの外部記憶」(← この頁は本書の理解にとても参考になる)によると、「巻末に$99.95とあったけれど、今調べたら$126.50に値上がりしていました」とのこと。
関連拙稿:
「崎谷 満著『DNAでたどる日本人10万年の旅』!」
「「日本人になった祖先たち」の周辺」
「『ここまでわかってきた日本人の起源』をどう読むか」
(09/10/22 作)
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