ブルース・シューム著『「標準模型」の宇宙』を読む?
出版社の内容紹介によると、「ゲージ理論に基づく素粒子の「標準模型」は自然界の三つの基本的な力(電磁気力、弱い核力、強い核力)の働きかたを解き明かすもので、現代物理学の真髄であり金字塔とされている。本書は本邦初のゲージ理論と標準模型のやさしい入門書である」とあるが、どこがやさしいんじゃ! と愚痴の一つも吐きたくなる。
それでも、意地で読み通した。
本書の「訳者あとがき」にもあるが、「むずかしい概念だからといって逃げることをせず」、「リー群やゲージ理論など」も、数式を使わずにだが、尻込みせずに説明をしてくれている。
「代償として、本書は非専門家向けとしつつも、楽に読みすすめられるほど簡単な内容ではない」! と訳者さんも指摘されている。
(あくまで一般人向けに限られるが)数式を使わない現代物理の啓蒙書を読み漁ってきた小生だが、その中でも、かなり難解な部類に入ると思う。
その代わり、読了したという(自己)満足感…達成感はそれなりにある。
「「標準模型」の宇宙」といった題名だけあって、今、流行のスーパーストリング理論には一切、言及していない(あとがきにも何ら、解説がない)。
徹底して「標準模型」の宇宙を示すことに傾注されている。
本書を読んで(日本人として)嬉しかったのは、「標準模型は20世紀後半に世界中のたくさんの物理学者たちが力を合わせてつくり上げたもので、人類の最高の知的業績のひとつと呼ぶにふさわしい。ノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎、小柴昌俊、益川敏英、小林誠がその発展にどのように貢献したかということも本書で語られている」という点。
本書(原書)が書かれたのは2004年というから、当然、この中の誰もノーベル賞は受賞されていない。
著者のブルース・シュームの説明で、南部陽一郎さんの着想の傑出ぶり、独創性を改めて実感させられもした。
今、CERNにある加速器LHCが稼動しつつあり、電弱理論で予測されているヒッグス粒子が、間もなく捕らえられるかもしれない(あるいは、間違っていることが実証されるかもしれない)。
まさに実験による検証が進行している、そうした臨場感を味わえる、研究・実験の最前線の息吹に触れられるというだけでも、本書を読む醍醐味だと思う。
最後の「未知の世界へ―この先にあるもの」という章で、基礎研究の齎す実りの如何に豊かかを筆者が力説してたのが印象的だった(html…wwwも、素粒子研究のデータの共有のためのツールだったことなどは、有名な話だ)。
とにかく、「訳者あとがき」にもあるが、「わかりやすさを優先させて表面を軽くなどった入門書に物足りなさを感じている人にも」、本書は相当な咬み応えを感じさせるはずである!
(09/10/20 作)
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