『ここまでわかってきた日本人の起源』をどう読むか
大部の本を読んでいるときは、箸休めではないが、やや軽めの本を持ちたくなる。
無論、中味が薄いとか安直というのではなく、手に持つに簡便という意味で、内容的には小生の関心の壺に嵌まるもの。
新刊本のコーナーにあったので、別に誰とも競争しているわけじゃないのに、我先にと手を出し、即、借りることに決めた。
← 『ここまでわかってきた日本人の起源』(産経新聞生命ビッグバン取材班【著】 産経新聞出版)
その本とは、『ここまでわかってきた日本人の起源』(産経新聞生命ビッグバン取材班【著】 産経新聞出版)で、この五月に出版されたもの。
「DNA分析、日本人が持つ特有の体格や体質、遺跡などから見えてきたことを徹底解説。産経新聞上で好評連載の「試行日本人解剖」を完全収録」といった内容の本で、小生は、つい最近も、崎谷 満【著】の『DNAでたどる日本人10万年の旅―多様なヒト・言語・文化はどこから来たのか?』((京都)昭和堂 (2008/01/20 出版))を読了し(簡単な感想文を書い)たばかり。
本書でも、この『DNAでたどる日本人10万年の旅』が参照されていた。
DNA(遺伝子)分析という強力な科学的手法が近年、脚光を浴び、盛んに使われてきたことで、日本人の歴史に留まらず、人類史、生命史も他の科学と相俟って新たな展開を見せている。
名うての日本人は単一民族と謳う連中にとっても、さすがに無視できず、北方系と南方系の融合(可能な限り、融合としたがる傾向があるようだ)という捉え方に軸足を移さざるを得ないようだ。
ただし、その際も、産経さんのこの本では、実際は、『DNAでたどる日本人10万年の旅』にも見られるように、日本は世界でも珍しいほどに、いろんな背景・由来・出自を持つ、多様な民族の集まりなのだが、その色彩を極力、薄め、アイヌや琉球(沖縄)はともかく、日本本土は、濃淡はあっても、大体、融合してしまっているという印象を与えたがる傾向が見られる気がする。
産経さんの「【書評】『ここまでわかってきた 日本人の起源』 - MSN産経ニュース」の書評を読んでみよう。
「浮かび上がったのは、4万年前の後期旧石器時代以降、大陸あるいは南方から、さまざまなルートで、さまざまな遺伝子を持つ人々が渡来し、混血しながら形づくられた日本民族の姿。日本列島は多彩な集団の「吹きだまり」だった」と、ここまではいい。
さすがにこういった見解まではギリギリ譲らざるをえないのだろう。
それどころか、「日本列島は多彩な集団の「吹きだまり」だった」という見解には、大いに前向きの評価をしたいし、そこにこそ、日本の良さがあるとさえ、思っている。
世界が輸送手段の高度化で、狭くなり、ある意味、世界が狭くなって、多様な民族・部族・国が犇く状況がますます強まる中、多様多彩な文化や民族が日本では何ゆえに共存できているか、その分析と解明がもっともっと求められるところだと思うのである。
← 崎谷 満【著】の『DNAでたどる日本人10万年の旅―多様なヒト・言語・文化はどこから来たのか?』((京都)昭和堂 (2008/01/20 出版))
が、その先がさすがに産経さんと思わせる。
「そんな日本人になぜ、単一的とも称される民族性が生まれ、独自の文化が築かれたのか。体質や文化にみる「日本人らしさ」にまで科学的研究からアプローチした本書には、そのヒントもちりばめられている」だって。
えっ、そうなの?
けれど、実際、本書は、可能な限り、さすがに単一民族とは強弁しないものの、「単一的とも称される民族性が生まれ」たのだなどと、一定の方向へ議論を誘導したい誘惑(というより、彼らの意思・思惑・願望)がみえみえなのである。
同じような根拠があっても、本書『日本人の起源』と『DNAでたどる日本人10万年の旅』とは、結論や導き出す、アイデアや教訓はまるで違う。
『DNAでたどる日本人10万年の旅』の著者の崎谷 満氏は、「有史以前からのヒト集団の住む列島に大陸の政変などがあって、北から半島から南の海から、次々にヒト集団がやってきても、既存の集団を圧倒し去るのではなく、多少は玉突き的に先行集団が僻地へ追いやられることはあっても、なんとか共存を果たしてきたという事実が読み取れるという」のだ!
その対比(結論や日本のヒト理解の違い)を見るだけのためでも、両方の本を読み比べてみるのも、一興ではなかろうか。
決して、邪道な本の読み方ではなく、案外と示唆に富む読書になりそうである。
関連拙稿:
「崎谷 満著『DNAでたどる日本人10万年の旅』!」
(09/08/28 作)
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