ニール・シュービン著『ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト』を堪能
ニール・シュービン(著)の『ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト』 (垂水 雄二(訳) 早川書房)を読んだ。
副題は、「最新科学が明らかにする人体進化35億年の旅」。
← ニール・シュービン(著)の『ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト 最新科学が明らかにする人体進化35億年の旅』 (垂水 雄二(訳) 早川書房)
小生はこの手の本が大好き。
図書館で物色していて、背の題名を見て手に取り、しっかりした内容の本だし、パラパラ捲ってみて、読んで面白そうと直感し、即、借りた。
直感に外れはなかった。
忙しい最中で、大部の本でもないのに、読了するのに一週間以上を要してしまったが、その分、楽しめたとも感じている。
出版社側の謳い文句に、「ヒトの進化を知るには魚に訊け!? 水生生物の陸への移行上のミッシングリンク、ティクターリクの化石を発見した解剖学者が、最新科学の成果を駆使して綴る極上の科学読み物」とあるが、看板に偽りはなかった。
著者は「ティクターリクの化石を発見した解剖学者」というが、小生には全く初耳の人物。
が、欧米の科学物を書く多くの学者の例に違わず、ずぶの素人も楽しめる読み物になっている。
せっかくなので、出版社の宣伝をもう少し、転記しておく。読んで、同感できたので安心して転記できる:
私たちヒトの、生物としての歴史を知りたければ、魚に訊くのがいちばんだ。なぜって、わたしたちの体のなかには「内なる魚」がいるのだから……「魚が海から陸に上がっていったという学説にとって重要な、ミッシングリンクの発見である」と世界を沸かせた、ひじがあって腕立て伏せのできる魚、ティクターリクの化石を発見した著者が、古生物学から進化発達生物学(エボデボ)、ゲノムサイエンス、解剖学にいたるまでの成果を縦横に駆使し、生命進化の謎を探究する営みのスリリングかつ意外性に満ちた面白さを明かす、極上のポピュラー・サイエンス。
「ティクターリクの化石を発見した解剖学者」のシュービンが、自らの研究体験、発掘体験に基づいて書いているので、臨場感もたっぷり。
「訳者あとがき」で垂水雄二も書いているが、まず、目指す化石の発掘の候補地に目星をつける。
このノウハウも面白いが、大変なのはその先:
候補地が決まったからといって、すぐにお目当てのの化石が見つかるほど世の中は甘くはない。足かけ六年にわたる悪戦苦闘のすえに、幸運にも恵まれて、ついに彼らは、望み通りの化石を発見する。のちにティクターリクと名づけられたこの化石こそ、まさに進化論の正しさを証明する決定的な証拠である。理論にもとづいて発見されるべき場所を予測し、そこに実際に化石を見つけたのだ。これを進化論の勝利と呼ばずして、なんとしよう。
(中略)失敗から教訓を学びつつプロの学者として成長していく過程がリアルに描かれている。とりわけ、フィールドにおいて、他の人間がつぎつぎと化石を発見するのに、自分には何も見えないという苦悶の時期を送ったのち、ある日突然、向こうから飛び込んでくるかのように見えはじめた喜びの記述は含蓄がある。こうした体験は、化石の発掘だけでなく、野外で自然を相手にするすべての研究者に通じるもので、自然史研究を目指す若い人々にとって、有益な教訓となるだろう。自然はただぼうーっと眺めているだけでは、その真髄をけっして見せてはくれないのだ。
ほかに、生活習慣病のこと、腰痛のこと、睡眠時無呼吸症や窒息のこと、驚いたのは「しゃっくり」のメカニズムとオタマジャクシ(の水の飲み方)との関連を記述したくだりなど、興味津々の話題が一杯。
あるいは、本書では最後に少し触れられているだけだが、ミトコンドリア病など微生物の研究がヒトの理解に直結していること。
実際、近年のノーベル生理医学賞では、(素人には今更に思えるような)ショウジョウバエの研究で、あるいは、線虫お研究で、さらに酵母菌とウニの解析で、人類の遺伝学と健康に重大な発展をもたらした人々に贈られたのである。
「酵母、ハエ、ゴカイ、そしてそう、魚類についてなされたこうした発見は、私たちの体がどういう仕組みで働いているのかについて、私たちが苦しむ病気の多くについて、そして、私たちがより長く健康な生活を送れるようにする道具をいかにして考案するかについて、語ってくれるのである」(p.261)
参考:
「【書評】ニール・シュービン:ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト―最新科学が明らかにする人体進化35億年の旅【ブックレビューサイト・ブックジャパン】」
関連拙稿:
「エボデボ革命!」
「フォーティ『生命40億年全史』(1)」
(09/08/25 作)
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