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2009/07/14

佐々木譲著『警官の紋章』は読んだけれど

 この一週間、ややハードな本と平行して、寛ぎというか、たまには小生には違った系統の本をと、岡本綺堂の『半七捕物帳』(光文社文庫)を、そして、ついには(?)佐々木譲著の『警官の紋章』を読んだ。

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→ 佐々木譲/〔著〕『警官の紋章』(角川春樹事務所 発行年月:2008年12月)

『半七捕物帳』は、(一)(二)と読んで、面白く、止められなくなり、(三)から(六)までを予約したが、最初に来たのは(五)と(六)のほう。
 別に続き物ではないので、とにかく、手に入ったものから読むということで、(五)と(六)を読み、今、予約していた本が来たということで、(三)を読み出したところ。
 この作品は、江戸末期(から明治の初め頃)の江戸の風俗が描かれていて、地名や坂の名前などが、東京在住30年で離京した小生にはとても懐かしいという感じを強く抱かせられる。


 小生にも馴染みの町名が随所で出てきて、やや遠いご先祖様の活躍ぶりを描かれているようでもある。
赤坂に住んでいるもと岡っ引の半七老人の江戸時代の武勇伝を、若い新聞記者が聞き出すという形で話が進」むのだが、その形式がまたとてもいい。
 自分がどこかご近所の隠居爺さんの昔話を、それもただならぬ話を伺っているようで、親近感が湧いてしまうのである。

「半七捕物帳の誕生の由来は、(中略)、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズと「江戸名所図会」を合わせたものをつくったらどうだろうというもの」だったようだが、推理ものという感覚ではあまり読まなかった。
(『江戸名所図会』については、拙稿「長谷川雪旦の『江戸名所図会』」を参照願いたい。)

 その要素が少ないとか、つまらないというのではなく、むしろ、人間半七が目明しの勘と読みとで事件の真相(全体像)や犯人の人間像を掴み取る、その人間的洞察の強靭さにより惹かれるのである。
 無論、ミステリーの要素あり、サスペンスの要素あり、怪談調の語り口ありと、とにかく読者を惹きつける工夫・仕掛けが豊富にある。

 とりあえず、『半七捕物帳』の全六巻は読了させるつもりだが、その後は、思案する。


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← 『半七の見た江戸/岡本綺堂』(今井金吾 編集 河出書房新社) 拙稿「長谷川雪旦の『江戸名所図会』」の中で書いたが、『江戸名所図会』と『鬼平犯科帳』(池波正太郎著)との関係も有名だが、岡本綺堂との関係も深かったのだ。小生は本書は未読だが、食指が動く。

 さて、小生にとっては異色の作家ということで、佐々木譲/〔著〕の『警官の紋章』(角川春樹事務所)を読んだ。
 図書館に予約したのは、本年の二月末。
 それが待つこと四ヶ月あまりで、ようやく手にすることが出来たのだった。
 待ち疲れ。
 待つほどの本だったのか。
 多分、新聞の書評で褒められていたこと、さらには、最近の刑事モノドラマで、新機軸のものがドンドン出てきて、しかも、なかなか見応えがあったりするので、では、そんなドラマの原作を書いているのは誰かと、とりあえず書評を頼りに手を出してみた次第。
 ドラマが面白いといっても、新しい作家がいいのか、脚本がいいのか、演出がいいのか、役者がいいのか、音楽がいいのか、分析はしていない。
 場面の切り替えしなど、アメリカの刑事モノドラマや映画の影響を多分に受けていると感じたりする。
 
 こういった作品として結末などを書くのは控える。
 書きたいとも思わない。

 出版社の説明によると、「北海道警察は、洞爺湖サミットのための特別警備結団式を一週間後に控えていた。そのさなか、勤務中の警官が拳銃を所持したまま失踪。津久井卓は、その警官の追跡を命じられた。一方、過去の覚醒剤密輸入おとり捜査に疑惑を抱き、一人捜査を続ける佐伯宏一。そして結団式に出席する大臣の担当SPとなった小島百合。それぞれがお互いの任務のために、式典会場に向かうのだが…」といったところ。

 警官の紋章に対する忠誠心と組織に対する忠誠心との相克、現場の刑事たちの友情、さらには、現場の警察官(刑事)と警察官僚との戦いという、あまりに有り触れた構図。
 著者には、官僚に対するコンプレックスがあるのか、官僚の人間性を描こうという意識はまるでないように感じられた。
 ひたすら薄っぺらなのである。
 実際の官僚がどうなのか、小生は知らない。
 だから、著者の官僚像が的を射ているのかどうか、判断する根拠もない。
 ただ、紋切り型の官僚像から少しも食み出すものがないので、ああ、碌でもない官僚を懲らしめましたね、これで日本も良くなるでしょう、といった安手の刑事ドラマのエンディングを髣髴とさせ、途中の段々ドラマの絶頂に至る、それなりのワクワク感が帳消しになってしまう。

 官僚を悪役にするにしても、それならそれなりにもっと辛らつな描写がないと、そんな安っぽい官僚一人、出世競争から脱落させたところで、何がどうなるの、自己満足だけじゃない?って感が否めないのである。


 作家の佐々木 譲(ササキ ジョウ)は、『武揚伝』で新田次郎賞受賞といった方だが、新田次郎というと、小生は、彼が原作の映画『劒岳 点の記』を観てきたばかり(小説は、ずっと昔、『強力伝』や『八甲田山死の彷徨 』など何冊かまとめて読んだ)。
『武揚伝』は読んでいないので何とも言えないが、『警官の紋章』だったら、この賞はありえないと感じた。

                            (09/06/29 作)

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コメント

┐( ̄ヘ ̄)┌ フゥゥ~
『警官の紋章』について、偉そうに批評するなら、金出して買ってから文句を言いましょう。図書館もこんな本を買うな。

投稿: 田村 徹 | 2010/05/17 20:29

田村 徹さん

何をどうやって手にし、どう読もうと自由だと思います。
自分で選んでも(評判で)、時に外れもある。
仕方ないですね。

投稿: やいっち | 2010/05/31 16:48

やいっち様
例えば、一つの町の公立図書館に何冊この同じ本があるのだろう。本屋にいけば、山積みされている本が。図書館の役割はそうでないはずだ。

投稿: 田村 徹 | 2010/07/02 17:36

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