大仏次郎著『幻燈』から木村荘八の挿絵へ
偶然にしても、あまりにタイムリーなので、大作に取りかかる前に、まず小品で大仏の世界に馴染んでおこうと(実は、まだ一冊も読んだことがない)、『幻燈』を借りることにした。
無論、特設コーナー(平場)でパラパラ捲り、隣りの閲読コーナーの椅子に腰掛けて頁を捲ってみた、その上で借りようと決めたのは言うまでもない。
→ 大佛 次郎 (著)『霧笛』(大佛次郎セレクション 村上 光彦 (編集), 木村 荘八 (イラスト) 未知谷)
岡本綺堂を読んだのは、捕り物帳の元祖たる作品をまず手にしたかったこともあるが、江戸や明治や大正の時代の風情にちょっと触れてみたかったから(「岡本綺堂『半七捕物帳』がマイブーム」参照)。
大仏次郎の本を読もうと思うのも、面白そうだからということもあるが、明治の世相や情景に親しんでみたいと思ったから。
出版社の説明によると、「横浜外国人居留地の英語学校に通う助太郎、元幕臣の子息という行先の不安の中に東京の新聞社頭取ブラックに出逢い、御一新後の新しい時代に自らの道を見出す。若い世代の息吹-。」といったもので、実際、内容も、急変する明治維新直後の社会に置いてけ堀を喰らう武士と、時代の潮流に敢えて飛び込んでいく若い世代、その周囲の女性たちと、名作かどうかは分からないが、佳品だった。
読後感の爽やかさ。
この作品で大仏次郎に対する心証を決めていいかどうか、保留だが、いい作家だと感じた。
本書に好感を抱くには、木村荘八の挿絵が預かって大きかったということも銘記しておきたい。
← 以下、本書『幻燈』から木村荘八の手になる挿画をデジカメで撮影しアップ。なので、必ずしも本の中での雰囲気を出せているとは限らない。
大仏次郎については、いつかまた触れる機会があるだろう。
ここでは、木村荘八の周辺を若干、メモしておく(予め断っておくが、木村荘八は、随筆など多方面で活躍している。ここでは挿絵画家としての側面に触れてみるだけである)。
木村 荘八(きむら しょうはち 1893年8月21日 - 1958年11月18日)については、「木村荘八 - Wikipedia」も便利。
小生など、必ずしも読書好きではなかった。むしろ、漫画の本メインの日々を過ごした。
そのうち、写真や絵の掲げてある図鑑風な本に手を伸ばすようになり、やがては活字だけの本へと一人立ち(?)していくわけだが、その間、父の蔵書などから古い文学書を引っ張り出して拾い読みなどしたりしたが、その際も、折々に挟まれている挿画が楽しみだった。
あるいは、本末転倒なのかもしれないが、挿画を説明してくれる本文を探してみたり、挿画で本文の理解を補ったり、逆に本文で挿画への思い入れや空想の熱を高めたりするのだった。
時には、どうやっても、何度読んでも、本文と挿画とがマッチせず、苛立ってみたりもした(画家の自由度など考えもしなかったのだ)!
本を読む楽しみは、特に小説の場合、文章から風景や人物像を自分なりに描き出す(意図的か、それとも、思わず知らずのうちに形成されるのか)こともあろう。
着物や髪型、靴(履物)、建物、道路の具合、風景など、小生の乏しい想像力では描ききれないものを、挿画が助けてくれる。
時に挿画の描像が小説の世界を逆に変な色合いに染めてしまうこともあろう。
でも、そんな誤解・誤読も含め、挿画のある小説を楽しむわけである。
この木村荘八の手になる挿画にも、いろんな小説などでお世話になっている。
昔は、挿画を所謂絵画作品より下風に見るようなところが自分にはあったように思う。
散々、お世話になっておきながら、サッと描くタッチに軽さを嗅ぎ取ってしまっていたのかもしれない。
しかし、特に時代小説で世態風俗を思い描く際に、相当に影響されていたのは否めないはずだ。
挿画関連拙稿:
「蕗谷虹児…花嫁人形幻想」
「竹中英太郎…懐かしき妖美の世界」
「鰭崎英朋…今こそ大正ロマン!」
「Pete Revonkorpi 童話の世界はそこにある!」
(09/07/22 作)
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