ミチオ・カク、エミー・ネーターを語る
ミチオ・カク著の『サイエンス・インポッシブル―SF世界は実現可能か』(斉藤 隆央【訳】 日本放送出版協会 (2008/10/25 出版))を読んで、「ミチオ・カク著『サイエンス・インポッシブル』はSFを超える!」なんて、感想文にもならない雑文を書いた。
← レオン・レーダーマン/クリストファー・ヒル著『対称性―レーダーマンが語る量子から宇宙まで』(小林 茂樹【訳】 白揚社) 本書は、ほとんどエミー・ネーター(の功績)について語る本だと言って過言じゃないかも。
今回は、ややスピンアウト的な形で、傑出した女性数学者のエミー・ネーターについての記事を書いておきたい。
女性数学者ということもあってか、(専門家は評価しているのだろうが)物理学の通史の中でも、敢えて言及する専門の書き手(男性)は少ない。
エミー・ネーターについては、既に拙稿「レーダーマンからエミー・ネーターへ」で、若干のことを紹介している。
ここでは、上掲書においてミチオ・カクが紹介するエミー・ネーターを転記(抜粋)の形で示したい。
傑出した物理学者が数学者のエミー・ネーターを如何に高く評価しているか、そのことを通じて、彼女の偉業を改めて確かめておきたいのである。
→ ミチオ・カク著『サイエンス・インポッシブル―SF世界は実現可能か』(斉藤 隆央【訳】 日本放送出版協会 (2008/10/25 出版))
大学院生だったある日、ついにエネルギー保存則の真の起源を知った私は、ただもうあ然とした。(一九一八年に数学者のエミー・ネーターによって発見された)物理学の基本原理のひとつは、「系が対称性をもつなら、結果的にそれは保存則になる」というものである。宇宙の法則が時間の推移に対して不変なら、なんと結果的に系のエネルギーは保存されることになる。さらに、どの方向へ移動しても物理法則が不変なら、どの方向の運動量も保存される。また回転に対して物理法則が不変なら、角運動量が保存される。
これを知って頭がくらくらした。観測可能な宇宙の辺縁、何十億光年もの距離にある銀河から届いた星の光を調べると、そのスペクトルは、地球で見られる光のスペクトルとそっくりなのがわかる。地球や太陽の誕生より数十億年前に放射された残光のなかに、今日地球で見つかる水素、ヘリウム、炭素、ネオンなどのスペクトルとまぎれもなく同じ「指紋」が見られるのである。言い換えると、物理の基本法則は、何十億年も前から同じままで、宇宙の辺縁まで行っても変わらない。
そこで私は、少なくともネーターの定理によれば、エネルギー保存則は永遠ではないにしても数十億年はもちこたえるにちがいないのを悟った。われわれの知るかぎり、物理学の基本法則はどれも時間とともに変わっておらず、だからエネルギーは保存されるのである。
ネーターの定理が現代物理学に与えた影響は計り知れない。物理学者が新しい理論を打ち立てるときには、取り組む対象が宇宙の起源であれ、クォークなどの原子未満の粒子の相互作用であれ、あるいは反物質であれ、まずその系が従う対称性から考えはじめる。じっさい対称性は、いまや新理論を打ち立てる際の基本的な指針として知られている。かつて対称性は、理論の副産物と考えられていた――魅力的だが結局のところ無意味な特性で、面白いけれども本質的ではないというわけだった。現在では、対称性がどんな理論をも決定づける本質的な特性だとわかっている。新しい理論を打ち立てるとき、われわれ物理学者はまず対称性から出発し、それからその対称性に肉づけするように理論を組み上げるのである。
残念だが、エミー・ネーターは、前のボルツマンと同様、自分を認めてもらうために必死に戦わなければならなかった。女性数学者として、一流の機関で正式な地位に就くことを、性別を理由に拒否されたのだ。ネーターの師である大数学者ダーフィト・ヒルベルトは、彼女に教職のポストが与えられないことに苛立ってこう叫んだ。「ここは大学か、それとも浴場か?」 (p.360-1)
(09/07/16 作)
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