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2009/06/22

武澤秀一著『マンダラの謎を解く』から日本を想う

 武澤秀一著の『マンダラの謎を解く』(講談社現代新書)を読んだ。
 詳しくは、「マンダラの謎を解く 三次元からのアプローチ」で、これは建築家として活動されているという同氏ならではの、建築面や空間への着眼と無縁ではないようだ。

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→ 武澤秀一著『マンダラの謎を解く 三次元からのアプローチ』(講談社現代新書)

 出版社の「内容紹介」によると、「絵だけがマンダラではない。豊饒な空間認識はインドと中国の宇宙論の出会いから生まれた。石窟寺院の分析から空海の構想まで、建築家が読み解いたコスモロジーの壮大な展開と変容」といった本。
 絵(平面画)のマンダラしか知らない小生には、新鮮な展望を与えてくれる本だった。

 マンダラについては、「前田常作:曼陀羅画に壺中天!」や「三途の川と賽の河原と」などで若干、触れている。
立川流つまるところは火と水と」も日本において曼陀羅というと、真言密教であり、空海ということで、無縁ではない拙稿かもしれない。

 しかし、いずれにしても、マンダラを立体(構造物)として淵源を遡るという発想など、小生には微塵もなかったと思う。
 むしろ、平面に描かれているマンダラ画を前にして空想(妄想、瞑想)の中で、立体を、あるいは宇宙を真理を悠久を思い描くものだと思っているだけだった。
 
 まあ、立体というと、せいぜい、立川流で局部的にもっこりするくらいが関の山だった。

 本書については、目次を覗いてもらうのが参考になるだろう:

はじめに マンダラとの出会い
第1章 インドにて
第2章 マンダラの「中国的」変容
第3章 密教マンダラ図絵の誕生
第4章 伽藍マンダラの「日本的」変転
第5章 羅列あるいは中心の不在
おわりに 闇のなかの“立体スゴロク”

 インドの石窟寺院は、エローラ石窟群やアジャンター石窟群などが有名で、既に世界遺産に加わっている。
 中でも、アジャンター石窟群の中の、第19石窟は、筆者が3次元マンダラそのものではないかと思わされたもの。
 画像は、下記がいい:
インド・アジャンタの第19石窟-2 - タイに魅せられてロングステイ


 本書についての書評や感想文では、散見した中では、下記が一番、簡潔で的を射たものだと感じた:
続・竹林の愚人 マンダラの謎を解く

 本書での主張のポイントは幾つかあるが、「絵のマンダラ以前に3次元空間のマンダラがあって、そこから絵のマンダラが生まれたという」点、「石窟から胎蔵マンダラ、塔から金剛界マンダラが生まれたという」点が特に印象に残った。

「絵のマンダラ以前に3次元空間のマンダラ」とは、「バラモン教の儀式をおこなうために造られた土壇」であり、舎利を収める塔であり、石窟であり、やがては、雲岡(うんこう)石窟(5~6世紀)が成り、日本の留学僧を通じ、日本に深い影響を与える。
 その過程で、仏陀の教えが日本風へと、ドンドン変化していくわけである。

 本書での主張のポイントで印象に残ったことであと一つだけ、挙げておく。
 それは、日本では仏像が講堂に安置するという都合上もあって、立体的にではなく、横並びに配置されたという点。
 その典型が、「蓮華王院 三十三間堂」だという。

 日本では仏像の横並びは、珍しくはない配置・光景になっているが、実はまさしく日本的な現象なのだと再認識させられた。

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→ 崎谷 満【著】の『DNAでたどる日本人10万年の旅―多様なヒト・言語・文化はどこから来たのか?』((京都)昭和堂 (2008/01/20 出版))

 今、崎谷 満【著】の『DNAでたどる日本人10万年の旅―多様なヒト・言語・文化はどこから来たのか?』((京都)昭和堂 (2008/01/20 出版))を読んでいるのだが、これも新鮮な視点を与えてくれる本で、日本列島におけるDNA多様性さを縷々説いてくれている。
「日本列島における多様なヒト集団の共存」「出アフリカ三大グループが日本列島へ移動」し、そのどれもが時に日本的に特殊化しつつも、現存・共存していること、「日本列島における言語の多様な姿」「日本列島における多様な民族・文化の共存」などなど、Y染色体DNAの分析を通じての最新の研究成果の報告がなされている。
 単一民族など、とんでもないわけである。

 日本は、地理的な環境や、温暖な気候、海山ともに食料の確保が比較的容易だったこともあり(左記については、著者の推論もあるが)、上記したように、多様なヒト集団が共存し、多様な言語さえ共存・現存しているという。
 有史以前からのヒト集団の住む列島に大陸の政変などがあって、北から半島から南の海から、次々にヒト集団がやってきても、既存の集団を圧倒し去るのではなく、多少は玉突き的に先行集団が僻地へ追いやられることはあっても、なんとか共存を果たしてきたという事実が読み取れるという。

 仏像が日本では、何らかの中心を巡って配置されるのではなく、横並びに配置され、見る側に平行なのは、日本の土壌や歴史などが相関していると、小生なりに直感された(正しいと主張するつもりはないが)。

                             (09/06/18 作)

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コメント

やいっちさん、はじめまして。お邪魔させてください。

この『マンダラの謎を解く』という本は、ただのマンダラ本じゃないですね。
読んでみて、わたしは画期的(!)、革命的(?)なマンダラ本と思いました。

この著者、今まで知りませんでしたけど、凄い人なんじゃあないでしょうか?

ところで股間もっこりが立体マンダラとは、これまた楽しい発想で、パソコンの前で思わず笑ってしまいました。確かにそこは宇宙の“中心”だと思います。

投稿: 空の青 | 2009/06/23 19:34

空の青さん

コメント、ありがとう。

マンダラを立体(の造形物)から淵源を辿っていくなんて、発想は独創的だしユニークです。

やや、無理筋な展開もあるように感じられますが、一つの説として参考になると思われます。

…もっこりは、なかなか思い通りにならず、厄介なキカンボウですね。
ただ、そこが宇宙の中心と感じさせてしまう脳髄の痺れも、なかなかのもの。
だからこそ、宗教的瞑想の深みも奥が知れないのかなと思ってしまいます。

投稿: やいっち | 2009/06/23 20:06

やいっちさん、早速にお返事を頂き有難うございます。

>「石窟から胎蔵マンダラ、塔から金剛界マンダラが生まれたという」点が特に印象に残った。

とお書きになられていますが、著者の武澤秀一さんが『空海 塔のコスモロジー』(春秋社)を出されたのはご存知ですか?
塔をめぐる立体マンダラ論で、これもユニーク。なかなかに読ませます。
身体論が語られますので、この本もやいっちさん向きかと…

投稿: 空の青 | 2009/06/23 21:57

空の青さん

再度のコメント、ありがとうございます。

武澤秀一さんが『空海 塔のコスモロジー』(春秋社)を出されていることは、本稿を書く際に(というか、『マンダラの謎を解く』にも書いてある)分かっておりました。

空海という巨魁をめぐっての著書のようですから、一層、手ごわい内容かな。

やはり、この本も併せて読まないと、著者の考えの全体像は見えてこないってことなのでしょうか。

投稿: やいっち | 2009/06/24 01:07

やいっちさん、おはようございます。

>空海という巨魁をめぐっての著書のようですから、一層、手ごわい内容かな。

いえいえ、『マンダラの謎を解く』より、むしろ『空海 塔のコスモロジー』のほうが入り易いとさえ、いえます。インド・中国から入り空海に至る内容ですが、空海を相手にこれほど平易でわかりやすい本は珍しいと思います。

>やはり、この本も併せて読まないと、著者の考えの全体像は見えてこないってことなのでしょうか。

さらに理解が深まるってことなのではないでしょうか。
『マンダラ~』が理論編とすれば、『空海 塔コス~』が体験編という感じでしょうか…

投稿: 空の青 | 2009/06/24 08:37

空の青さん

刺激となるコメント、ありがとうございます。
なんとか、読んでみたく思います。

投稿: やいっち | 2009/06/25 00:09

やいっちさん

新たな書評記事のアップを楽しみにしていますよ~

投稿: 空の青 | 2009/07/02 20:21

空の青さん

書評というか感想文は次々に書いています。
関心を持つジャンルはいろいろあるので、気を長~く持って、見守ってくださると嬉しいです。

投稿: やいっち | 2009/07/02 21:04

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