ティム・ワイナー著『CIA秘録 下』の周辺
ティム・ワイナー著『CIA秘録 下』(藤田博司・山田侑平・佐藤信行・訳 文藝春秋)を読んだ。
ティム・ワイナー著の『CIA秘録 上』(藤田博司・山田侑平・佐藤信行・訳 文藝春秋)を読んでの感想文は既に過日、アップしてある。
← ティム・ワイナー著『CIA秘録 下』(藤田博司・山田侑平・佐藤信行・訳 文藝春秋)
大よその紹介は既に済ませたし、こういった本は、要約してもつまらない。
とにかく、エピソードと事実(記録文書や関係者へのインタビュー)に満ちている。
エピソードの多くは失敗か悔恨に満ちたもので、時に愚劣極まりないと、怒りの念さえ覚えることもある。
トップに立つ人間の定見のなさや気まぐれに、組織(や国家)がいかに左右されてしまうものなのかを思い知らされる。
CIAの活動で成功した事例もあるわけだし、仮に本当に成功し(てい)た場合、その影響が現在にも及んでいる場合、過去の工作が公表されるものなのか、小生には分からない。
そんな中でも、日本への工作は、日本は世界の優等生とブッシュ前大統領も称えるほどに成功したし、現在も成功しつつある(ように思える)。
これだけの日本での成功は、占領政策が事前に十分に練られていたからでもあるのかもしれないが、むしろ、戦後、保守系の政治からが、占領軍という虎の衣を借りて、自らの信念を貫いたという面があるのかもしれない。
無論、戦犯だった出自が、お尻に火がついた状況でもあり、徹頭徹尾、日米同盟(…というより、占領政策のあからさまな形態から、さりげない形態への変態を遂げつつ、アメリカの軍事拠点国家たる在り方)を選ぶしか選択肢はなかったのでもあろうか。
戦犯というと、児玉誉士夫、笹川良一、岸信介や、巨人軍を作った読売新聞社の社主だった正力松太郎、小佐野賢治などなど錚錚たる(?)人物群像である。
岸や正力などは、A級戦犯にされかけたのを、アメリカに媚を売ることで復権を果たしたわけだ(本人にしてみたら、信念からと強弁するのだろうが)。
どれほどの秘密をアメリカ(政府/軍)に握られているのか、興味津々である。
尤も、特に正力については、一頃話題になった、「CIAが極秘に正力を支援する作戦の全貌が記録されていた!日本へのテレビ導入はアメリカの外交、軍事、政治、情報における世界戦略のパーツの一つだったのである」といった内容の、有馬 哲夫 (著) 『日本テレビとCIA 発掘された「正力ファイル」 』(新潮社)辺りを読めば大よそのことが分かるかもしれない。
→ 有馬 哲夫 (著) 『日本テレビとCIA 発掘された「正力ファイル」』(新潮社) 出版社の内容紹介によると、「アメリカ国立公文書館に眠っていた474ページにも及ぶ秘密ファイル。「暗号名ポダム=正力松太郎」が担わされた役割とは何か。日本に「反共の防波堤」としてのテレビ放送網を作るために暗躍するCIA、ジャパン・ロビー、諜報関係者……日本は本当に独立したのか。それともいまだにアメリカの心理的占領下にあるのか――」といった本。
小生など、読売新聞は報道機関と呼称していいのか甚だ疑問である。
特に政治面などの記述は、与党自民党の広報誌かプロパガンダ紙なのではとしか思えない内容である。
実際、我が富山も例外ではなく(というよりも、正力は富山の出身なので、典型と言っていいかもしれない)、読売新聞の影響…さらには、日本テレビの影響、野球は巨人で、対戦相手にいろんな球団があるに過ぎないという印象など、アメリカの対日工作が読売や日テレテレビ網の刷り込み工作の露骨な成功結果(!)を実感させられるところである。
何故にこうなってしまったかについては、例えば、下記にて一端を知ることができよう(日テレテレビ網のテレビ網という名称の謎を含め):
「きまぐれな日々 「防災の日」に思う ~ 読売新聞を右に大きく傾けた正力松太郎と渡邉恒雄」
故J・F・ケネディ大統領暗殺事件についても、CIAによるキューバのカストロ暗殺との絡みがあって、あまりに愚劣な歴史の裏舞台に呆れ果てる…が、弟のロバート・ケネディの暗躍もあって、面白いことこの上ない(面白がっていてはいけないのだろうが)。
ある番組(「ディスカバリーチャンネルの “陰謀の歴史” 」)では、「JFKや弟のロバートがキューバのフィデル・カストロの暗殺計画においてCIAとマフィアを利用したが、最終的にはマフィア撲滅というマフィアからみると手のひらを返すような裏切り行為を仕組んだため、JFKはマフィアに暗殺されたと結論付けている」(「kikumasa紀行 JFK暗殺の謎 ~ 『CIA秘録』」)という。
真相が全て明らかになったわけではないのだろうが、徐々に事実(の一端)が漏れ出てきているのは事実のようだ。
対イラク戦争にしても、アフガンの泥沼にしても、旧ソ連の失敗もあるが、CIAの負の遺産を自業自得というべきか、天に唾した唾を今、アメリカだけじゃない、多くの国々が背負っていると知る。
ベトナム戦争(へのCIAの関与)の愚についても、これでもかというおぞましい事実のオンパレードである。
本書は本文も面白いが、上下巻で950頁ほどの分量のうち、5分の1ほどを占める、厖大な「著者によるソースノート」がまた、なかなか面白いし、秘話に満ちている。
このソースノートを眺めるだけでも、取材(インタビューも含め)の徹底振りが窺えるわけである。
但し、本書を通読された多くの方(日本人)が感じることのようだが、日本を扱った章が(日本版に特別に増やされたにしても)2章だけというのも、CIAの対日工作を知りたい向きには、物足りない印象は否めない。
(09/05/10 作)
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