レーダーマンからエミー・ネーターへ
昨年、「ノーベル賞を得た小林誠教授、益川敏英教授の成果は「対称性の破れ」の説明に成功したこと。それがなければビッグバンの直後に、物質と反物質の接触があって、すべては光となって、消滅するはずだった」(「祝!ノーベル賞、理論物理学の世界を覗く:日経ビジネスオンライン」より)…。
→ レオン・レーダーマン/クリストファー・ヒル著『対称性―レーダーマンが語る量子から宇宙まで』(小林 茂樹【訳】 白揚社)
というわけでもないが、レオン・レーダーマン/クリストファー・ヒル著の『対称性―レーダーマンが語る量子から宇宙まで』(小林 茂樹【訳】 白揚社)を読んだ。
原書名は、『SYMMETRY AND THE BEAUTIFUL UNIVERSE』である。
もう少し転記すると、「ちょっとした対称性の破れがあって、いくつかの物質が残った。この対称性の破れのおかげで、宇宙には銀河系ができ、太陽系ができ、地球が生まれた。 私たちが夜空に見る現在の宇宙の姿が出来上がったのは、すべて、ビッグバンの直後の対称性の破れのおかげだった。対称性の破れとは一体なんだろう」!
こういうテーマの本は、読むのに骨が折れると分かりつつも、つい手が出る。
著者の一人、レオン・レーダーマンは、「ボトムクォークの発見で知られる。1988年にミューニュートリノの発見によるレプトンの二重構造の実証でノーベル物理学賞受賞」といった方。
物理学者を大きく大別すると、理論畑の人と実験畑の人がいる(極めて大雑把だが)。
小生、筆者のレオン・レーダーマンはてっきり実験畑の方で、マイケル・グリーンらとは違う視角からの本なのかなと思っていた。
物理学(素粒子論)で、実験畑の人の本というと、印象に鮮やかなのは、ガリー・トーブス (著)の 『ノーベル賞を獲った男 カルロ・ルビアと素粒子物理学の最前線』(高橋 真理子/溝江 昌吾訳 朝日新聞社)だ。
読んだのは、バブルの絶頂期で、あと一年もしないうちに破裂する運命にあった頃だった。
小生の勤めた会社の近くにあったジュリアナが全盛だったし、スティーブン・ホーキングの宇宙論の本が持て囃された時期でもあった。
この本は、「アルプスのふもと、周囲4マイルの巨大加速器で昼夜研究を続ける科学者たち―彼らを率いて新粒子を発見しノーベル賞を獲る男カルロ・ルビア。物質の成り立ちや宇宙の起源を探る物理学は、今や、実験装置の建設や熾烈な発見レースなど地球規模での競争と駆け引きの舞台になった。現代物理学の先頭を爆走するルビアの姿を通じ、巨大科学の内部を照らし出す迫真のドキュメント」といった内容だが、迫真のドキュメントという文言は、まさしくその通りだった。
巨大科学(施設)を運営するには、知能は勿論だが、桁外れの政治力・交渉術、指導力が必要なのだということをまざまざと思い知らされた。
そんなこともあって、この『対称性』という本でも、実験科学の立場から、現代の量子論や宇宙論が語られるのかと、勝手に思っていた。
読んでみたら、まるで違った。
← イアン・スチュアート著『もっとも美しい対称性』(水谷淳 訳 日経BP書店) 「万感胸に…読書拾遺」参照。
「会誌Vol.64(2009)「新著紹介」より 小松原 健 〈KEK素核研〉」での紹介を参考にさせてもらうと、「米国シカゴのフェルミ国立加速器研究所(フェルミラボ)で活躍している素粒子実験家のLeon M. Lederman (1922-)と理論家のChristopher T. Hill (1951-)が著した」もので、両者の共著なのだ。
内容はというと、「一般の読者に向けて注意深く丁寧に書かれた現代物理学の入門書であるとともに,女性数学者のエミー・ネーター Emmy Noether (1882-1935)の功績の顕彰と,高等学校や大学初年での物理教育の改善を意図して書かれた本でもある」。
物理学にも思いっきり疎い小生だが、曲がりなりにも啓蒙書の類いは数学・物理学などを読み漁ってきた。
けれど、女性数学者のエミー・ネーターを銘記させられるのは、本書で初めてだったと思う。
そう、「本書はほとんどネーターの定理の本である」のだ!
「対称性―レーダーマンが語る量子から宇宙まで - 情報考学 Passion For The Future」によると:
ネーターの定理とは「物理法則の何か一つの連続的対称性があれば、それにともなって一つの保存則が存在するはずである。何か一つの保存則があれば、それにともなって一つの連続的対称性が存在するはずである。」というものだ。対称性があるところには必ず保存則があり、保存則があるということは対称性があることを意味する。
ほとんど…いや、まったく、理解不能だが、イメージだけは妄想のように膨らんでしまう。
エミー・ネーターは、「エミー・ネーター - Wikipedia」によると:
著名な数学教授のマックス・ネーターの娘としてドイツのエルランゲンで生れた。女性に大学への入学は認められていない時代であったがネーターは聴講を許された。パウル・ゴータンのもとで1907年に学位を取ると、その才能は評判になった。ヒルベルトに招かれて、1915年にゲッチンゲン大学へ移り、当時、女性には教授になる資格は与えられなかったにも拘らず、ヒルベルトの努力で特別に教授となった。ゲッチンゲン大学でネーターの定理を証明した。
→ エミー・ネーター (画像は、「エミー・ネーター - Wikipedia」より) 数学史上に登場する女性というと、小生もソーニャ・コバレフスカヤのことは聞き及んでいたが、エミー・ネーターのことは、(恐らく)本書で初めて存在を知ったと思う。「数学史上に登場する女性」が参考になる。本書の筆者の一人レーダーマンは、素粒子実験の大家で、一九八八年にノーベル賞を受賞している。彼は性差別に対する強い批判の持主で、本書でも彼女を扱うにしても人物像を含め力の篭った記述となっている。
アインシュタインが一般相対性理論に辿り着いて間もない頃、アインシュタインのある意味決定論的な(古典的な)重力理論と確率論の極地である量子論という、水と油より相容れない両者を幸福な婚姻に導くやもしれない、ネーターの定理という対称性(保存則)の定理を証明していたわけである。
対称性に関する本というと、昨年、イアン・スチュアート (著)の『もっとも美しい対称性』(水谷 淳 訳 日経BP社)を読んだものだった。
こちらは、より一般向けのようで、『対称性』は、特に後半になるほどに相当な予備知識や数学的センスが必要のようだ。
あれ? 肝腎の対称性とは、そして自発的対称性の破れとは?
そして、それらが何ゆえに物質の重さにつながるのか?
ここから先は、小生の出る幕では毛頭ない!
竹内薫さんによると、「素粒子物理学は、いわば文学のようなもの。想像をたくましくして、その世界を味わうしか、理解する術はないようだ」ってことになる。
「【竹内薫の科学・時事放談】自発的対称性の破れ (1-2ページ) - MSN産経ニュース」や、さらには、「ふしぎな対称性」などを参照してほしい。
(09/04/26 作)
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