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2009/01/24

ロバート・フック ミクログラフィア以前

 ある本を読んでいて、ロバート・フック著の『ミクログラフィア : 微小世界図説』(板倉聖宣, 永田英治訳 : 仮説社 , 1984)という本があることを知った。
 というより、題名だけは科学(史)好きの小生、知らないわけではなかったが、まさに題名くらいしか知らなかった。

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← ロバート・フック著『ミクログラフィア図版集 微小世界図説』(永田 英治/板倉 聖宣:訳 仮説社) 本書は、「フックの著作,『MICROGRAPHIA』(1665年)に収められた驚異的な精密図版123点を,原寸大で復刻したもの」だとか。小生は本書は未見。

 いや、少なくとももう十年以上も昔になるが、中島 秀人著の『ロバート・フック ニュートンに消された男』(朝日選書 )が刊行された直後に入手し読んだ時点で、題名以上の情報を得ていたはずなのである。
 …悲しくもこの朝日選書の本の内容も、大半は忘れてしまっているようだ。

 そうはいっても、畏敬するオリヴァー・サックスがその著『タングステンおじさん―化学と過ごした私の少年時代』(斉藤 隆央【訳】 早川書房)の中で激賞しているとなれば、興味が湧かないはずがない。
 まだ、肝心の本(訳書)は手に取っていないのだが、とりあえず大よそのことを調べておきたい。

 一体、どういった性格の本なのか。

「ミクログラフィア(Micrographia)」は、一般に「顕微鏡図譜」と訳されているようで、例えば、「ミクログラフィア」でネット検索しても、いきなり「顕微鏡図譜 - Wikipedia」といった項目が浮上するばかりである。
 しかも、扱いは(不当なほどに)簡単であって、下記の説明があるばかりで、あとは図譜が示されているだけである:

ロバート・フックが1665年に発刊。フックが作った顕微鏡を用いて、ノミ,シラミなどの昆虫、コルク,黴,苔などの植物、針の先や剃刀といった無機物まで、さまざまな物を顕微鏡で見たスケッチ計70点を掲載する。

 実際、このような訳であっては、「この本を「顕微鏡で観察したことを記録した本」と理解」というか誤解されるのも無理はないわけである。
「これは生物学の本」であり、顕微鏡で観察された微生物たちの図像が豊富に載っている本、というわけである。

Fleahooke

→ ノミの拡大図。『顕微鏡図譜』より。(画像は、「顕微鏡図譜 - Wikipedia」より。)

 既に若干、参照しているが、以下、ロバート・フック著の『ミクログラフィア : 微小世界図説』(板倉聖宣, 永田英治訳 : 仮説社 , 1984)を訳された当事者の弁も載っている下記を主に参照する:
ロバート・フック「ミクログラフィア 微小世界図説」(1665) から
この頁で、本書の訳文も一部読める。)

ロバート・フック「ミクログラフィア 微小世界図説」(1665) から」の中の「訳者はしがき」によると、「この『ミクログラフィア』でも生物分野よりも物理や化学の分野のほうに注目すべき内容がたくさん盛り込まれているので」あって、「体系的に,顕微鏡では見えないような微小世界を含めて,私たちのまわりの全ての自然物・自然現象が取り上げられている」というのである。
「顕微鏡では見えないような微小世界を含めて」という点がミソだろうか。
 だからこそ、「この本の訳名(副題)も『顕微鏡図説』とせずに『微小世界図説』とした」というのだ。

 訳者の一人(板倉聖宣)は、「ある時イギリスの物理学者ブラッグBraggの書いた本の中に,フックの分子運動についての見事な論証がのっているのを見て驚きました。そして,「フックはどこでそんな議論を展開しているのだろう」と探しまわって,ついに『ミクログラフィア』にたどりつ」いたという。

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← 「ハエ」 (画像は、「顕微鏡図譜 - Wikipedia」より。)

 小生は、上掲のオリヴァー・サックス著『タングステンおじさん―化学と過ごした私の少年時代』などから、但し本の題名だけに至りついたのだ。
『タングステンおじさん』は、今回で通算四回目の通読となるから、ずっと題名のみから先に進んでいない、足踏みしたままという体たらく。
 実際には科学史などの啓蒙書や上掲の『ロバート・フック ニュートンに消された男』などを通じて何年も前に「ミクログラフィア」か「顕微鏡図譜」の」いずれかの題名を目にしていたはずなのだが。

 まあ、小生らしいといえば、その通りである。

 せっかくなので、オリヴァー・サックスが上掲書の中でロバート・フック著の『ミクログラフィア』をどのように紹介しているか、メモしておきたい:

 フックもまた、機械にかくわる才能と数学の能力によって、科学に精魂を傾け、驚くべき発明をした。フックが事細かに記した大部の日誌や日記は、彼の休みない思考活動のみならず、一七世紀の科学全般の思想的傾向をも、最高にありありと伝えている。著書『ミクログラフィア』でフックは、みずから製作した複合顕微鏡とともに、昆虫などの生き物の、それまで知られていなかった複雑な構造を描いた絵を紹介した(そのなかには、巨大なシラミが舟棹のように太い人間の髪の毛に付いている有名な絵もあった)。彼はまた、ハエの羽ばたきの振動数を音の高さから推定し、さらに初めて化石を絶滅した動物の遺骸や跡形だと説明した。風力計や温度計、湿度計、気圧計の設計図も示した。ときとしてフックは、ボイルをも上回る大胆な考えを提示し、燃焼は「内在する物質が空気と混じり合って起きる」と言った。彼は、燃焼を「われわれの肺のなかで失われるあの空気に備わった性質」と見なしたのである。このように、空気中に有限の量だけ存在する物質が燃焼や呼吸に必要で消費されるという考えは、ボイルが提唱した「火の粒子」の仮説より、気体が化学的な活性を示すという概念にずっと近い。 (p.141)

 思えば、小生が中学生の頃、ほんの一時期だが科学者、特に物理学者に成りたかった。
 なんといっても、当時、アインシュタインやニュートンが小生の中の英雄だったのである。
 アルバート・シュバイツアーや野口英世やエジソンやより、ずっとずっと。
 ニュートンの万有引力の呪縛は相当なもので、既出の中島 秀人著の『ロバート・フック ニュートンに消された男』を読んでさえも、理屈の上ではフックは凄い、もっといろんな科学者らが科学の発展に貢献しているんだと分かってはいても、ニュートン神話の後光は自分の中で依然として光り輝いていた。

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→ 「月」 画像は、「顕微鏡図譜 - Wikipedia」より。)

 さて、肝心のロバート・フック著の『ミクログラフィア : 微小世界図説』(板倉聖宣, 永田英治訳 : 仮説社 , 1984)を読んでいないままに先走っても仕方がない。
 最後に、「ロバート・フック「ミクログラフィア 微小世界図説」(1665) から」からフックの言葉を少し、抜粋して示す。
 望遠鏡さらには顕微鏡という画期的な光学器械の発明で全く新しい相貌が開示されつつあった当時の興奮や期待を少しでも実感してみたいのである:

 光学器械の発明によって,あらゆる種類の有用な知識に,莫大な利益がもたらされたのは近年のことであります。望遠鏡が使用されるようになったので,「遠くにあるために私たちの視界に入らない」というようなものはなくなりました。また,顕微鏡が用いられるようになったので,「小さすぎるために私たちの探究から逃れる」といったものもなくなりました。そこで,目に見える世界が新たに見いだされ理解されるようになったのです。そのため、天空も開かれて,莫大な数の新しい星,新しい運動,新しい生成物が,天空に現れました。それは,古代の天文学者たちがまったく知らなかったものです。また,光学器械によって,私たちの足もとに横たわる大地も,私たちにまったく新しいことを示しました。そして今や,私たちは,物質の一つひとつの小さな粒子の中にも,これまで全宇宙の中に数えることができたのと同じくらいの多様な創造物を見ることができるのです。

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