蕗谷虹児…花嫁人形幻想
「鰭崎英朋…今こそ大正ロマン!」なる稿を書いたこともあってか、せっかくなので関係する人物を採り上げてみたくなった。
今回は、もしかして忘れられているやもしれない蕗谷虹児(ふきや こうじ)に注目してみる。
→ 「花嫁」 (画像は、「蕗谷虹児記念館|イベント情報」より。)
蕗谷 虹児(ふきや こうじ、1898年(明治31年)12月2日 - 1979年(昭和54年)5月6日)は画家。詩人。
蕗谷 虹児(ふきや こうじ)という名前でピンと来ない人も、「花嫁人形」(蕗谷虹児作詞・杉山はせを作曲)なる曲の歌詞やメロディを聴くと、ああ、あの曲を作詞した人なのかと気付かされるかもしれない。
歌詞の一部を転記する:
金襴緞子(きんらんどんす)の 帯しめながら
花嫁御寮は なぜ泣くのだろ文金島田に 髪(かみ)結(ゆ)いながら
花嫁御寮は なぜ泣くのだろ
泣いているのは嫁いでいく花嫁なのか、後ろ姿を見送る少年の蕗谷虹児なのか。
美しい母を少年の日に亡くした蕗谷虹児の画業をじっくり眺めてみたい。
← 『花嫁人形 蕗谷虹児詩画集』(国書刊行会) (画像は、「松岡正剛の千夜千冊『花嫁人形』蕗谷虹児」より。) 「花嫁人形」(蕗谷虹児作詞・杉山はせを作曲)
蕗谷虹児(1898-1979)は竹久夢二の紹介により少女雑誌に絵や詩を発表し、そのモダンな作風が読者の熱狂的な支持を得て、一躍人気スターとなりました。シャープな線によるペン画や、数々の雑誌を飾った華やかな表紙や口絵、明るくみずみずしい色彩に溢れた絵本の挿絵は多くの人に愛されてきました。童謡「花嫁人形」の作詩者としてもよく知られています。画家、イラストレーター、詩人、グラフィック・デザイナーなど、一人何役もこなす多才なアーティストでした。

→ 『詩画集「花嫁人形」表紙』【復刻版。原本は1935年】 (画像は、「花嫁人形」より。) <童謡>の「花嫁人形」は、「雑誌「令女界」1924年2月号に掲載。予定していた原稿が間に合わなくなって、急遽作詞したと伝えられる。間に合わなかった原稿は、西条八十の詩であるとも、与謝野晶子の短歌十首であるともいわれている」とか。詳しくは、例えば、「間に合わなかった原稿のこと~「花嫁人形」をめぐる裏ばなし~」など参照。
三傳。かつて新潟新発田で蕗谷家が営んでいた廻船問屋の屋号である。が、三傳は没落し、明治31年(1898)に蕗谷虹児が生まれたころには街の小さな活版屋になっていた。
(中略)
母親の実家は「有馬湯」という湯屋で、明治末期にはまだ賑わいをもっていた。そこから蕗谷傳松のところに嫁いできた母のエツは病弱だったようで、酒呑みの父の家計がまわらなくなると、姉の嫁ぎ先の髪結いを手伝ったりしていたのだが、虹児ほか3人の男を育てながら、虹児が12歳のときに先立ってしまう。
27歳の若さである。きれいなままだった。母が27歳のまま死んでしまうことがどのようなことをもたらすのか、ぼくにはとうてい推り知れないが、蕗谷虹児にとっての少女の母型がすべて、この「嫁いできて自分を生んで死んでいった美しいお母さん」にあったことは確実である。

← 蕗谷虹児/著『蕗谷虹児 らんぷの本 思い出の名作絵本』(河出書房新社) 「少女たちの夢をはぐくんだ抒情の画家。「令女界」などの雑誌挿絵、詩、絵本…一世を風靡した才能の全貌」だというが、少女向きの絵なのだろうか。…でも、男の子より成熟が早く夢見がちな少女は、蕗谷虹児の絵(本)などを通じて、同い年の少年を差し置いて大人の世界を垣間見ていたのだろう。
母親の死により家族は離散。新潟市の印刷会社に丁稚奉公、絵の勉強をしながら夜学に通う。1912年(大正元年)貧しいながらも恵まれた絵の才能が新潟市長の目にとまり、日本画家の尾竹竹坡(おたけちくは)の弟子になるよう勧められ、14歳で上京(この尾竹竹坡の姪が『青鞜』の尾竹紅吉である)。内弟子として竹坡のもとで日本画を約5年学ぶが、父親の仕事の関係で樺太へ渡る事になり、それを機に放浪画家の生活を送る。

→ 『蕗谷虹児 増補改訂版』(津村 節子/磯辺 勝/蕗谷 龍生/小西 珠緒/中村 圭子 著 蕗谷 虹児 絵 河出書房新社) 「高畠華宵、竹久夢二と並ぶ人気挿絵画家であり、作詞家でもある虹児の、詩情と才能の全貌を辿る1冊。新発見資料、初公開」だとか。
大正9年、虹児は竹久夢二を訪ねた。これが決定的だった。すぐに「少女画報」主筆の水谷まさるを紹介され、これがきっかけで蕗谷虹児の挿画家としての活躍が始まっていく。虹児の雅号もこのときに生まれる。
のちにライバルになるかもしれない虹児の才能を気前よくメディアに紹介した竹久夢二を、虹児はその後、生涯にわたって「夢二先生」として尊敬しつづけたという。

← 『蕗谷虹児』(「別冊太陽 愛の抒情画集」平凡社)
既に何度となく紹介そして参照させてもらった立川昭二著『生と死の美術館』(岩波書店)にて蕗谷虹児の「胡蝶の夢」という恍惚としたエロチックでもある絵と共に、「睡蓮と胡蝶の妖しくも悲しい物語り」を描いた彼の詩が載っている:
「睡蓮の夢」――若き胡蝶は
悲愁の死骸となりて、
睡蓮の、花弁近くに
漂い着きたり、
「胡蝶の夢」という絵を眺めつつこの詩を読むと一層味わいが深まるのだが、ネットでは見つけられなかった(「Treasure-hunting「蕗谷虹児」」参照)。
但し、「蕗谷虹児記念館|オリジナルグッズ」にて、蕗谷虹児のオリジナルグッズの画像という形で、他の多数のポストカードなどの画像と併せ、「胡蝶の夢」も大きな画像で見ることができる(醸造酒のラベルにも使われている)。
→ 『蕗谷虹児の世界 ベトエイユの風景』(蕗谷龍生編 彌生書房) 「「花嫁人形」などの代表作のほかに、巴里のサロン・ドートンヌ入選作品や魯迅編集「蕗谷虹児画選」を収め、大正・昭和の挿絵画家として一世を風靡した蕗谷虹児の美と抒情の世界へいざなう」という本。この本の中に、「睡蓮の夢」というお話が載っている。
参考:
「蕗谷虹児記念館」(Official Site)
「松岡正剛の千夜千冊『花嫁人形』蕗谷虹児」(貴重な画像が多数、載っている。)
「蕗谷虹児の世界-大正時代の流行画家の生涯」(美男子・蕗谷虹児の写真が載っている! 蕗谷虹児の絵を本の頁を撮影した画像で何枚か見ることができる。)
「花嫁人形の歌碑|蕗谷虹児の世界」
「蕗谷虹児 花嫁人形 - 僕の感性」
「しいちゃんの ☆ゆっくりでもいいじゃん☆ 蕗谷虹児記念館を訪ねる」
「間に合わなかった原稿のこと~「花嫁人形」をめぐる裏ばなし~」(やはり、裏話は面白い!)
「蕗谷虹児の美人画【元祖クールビューティ】|PREMIER JOUR プルミエ ジュール」(「【蕗谷虹児 愛の抒情画集】平凡社(私物)より、引用転載」した画像が幾つか見ることができる。)
↑ [展覧会場でいただいたスタンプラリーカードの裏面【日本むすめ「幻想五景」より、黒船】 (画像は、「おれのほそ道 蕗谷虹児展」より。)
参考:
「Treasure-hunting「蕗谷虹児」」(「蕗谷虹児の雑誌の付録」といった貴重な画像を見ることができる。)
「蕗谷虹児詩画集「睡蓮の夢」桜坂劇場 Artist Shop Pana & ふくら舎」
「おれのほそ道 蕗谷虹児展」
「Hugo Strikes Back! 蕗谷虹児 ロマンの世界」
関連拙稿:
「鰭崎英朋…今こそ大正ロマン!」
(08/10/09作)
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