鰭崎英朋…今こそ大正ロマン!
「「夢幻の美“鏡花本の世界”~泉鏡花と三人の画家」:カイエ」なる頁で、鰭崎英朋(ひれざきえいほう)という名の画家に幽霊画のあることを知った。
文中に掲げてある絵はどれも魅力的だが、特に、鰭崎英朋の『蚊帳の前の幽霊』 明治39年 絹本着色)が気に入ったのである。
← 鰭崎英朋 『蚊帳の前の幽霊』(明治39年 絹本着色) (画像は、「「夢幻の美“鏡花本の世界”~泉鏡花と三人の画家」:カイエ」より。)
上掲の頁には、ほかにも目を惹く絵が載っている。
せっかくなので、ちょっとだけネット情報を収集してメモしてみることにした。
鰭崎英朋は(明治の人だが)、竹久夢二や鏑木清方、高畠華宵らと並び、大正ロマンを髣髴とさせる美人画(挿画)を描いた一人。
「どこか耽美で妖艶で都会的な洗練された美意識がもたらされた時代」を象徴する一人で、「美人画・新聞紙上の相撲絵・大衆雑誌や小説の挿絵・口絵などで活躍し、一世を風靡した」人でもある。
→ 鰭崎英朋『続風流線』口絵 (画像は、「Yahoo!オークション - 木版画、鰭崎英朋の最高傑作、『続風流線』口絵」より。) この絵(画像)については、「「夢幻の美“鏡花本の世界”~泉鏡花と三人の画家」:カイエ」なる頁でもっと美麗なものを見ることができる。下記参照。余談だが、水死というと、ハムレット…というより、ジョン・エヴァレット・ミレーの『オフィーリア』を連想せずには居られない。このモチーフは、当時の(日本での)流行だったのかもしれない。
「「夢幻の美“鏡花本の世界”~泉鏡花と三人の画家」:カイエ」には、以下の貴重な指摘が載っている:
鰭崎英朋の挿絵というと、まずこの『続風流線』の口絵が思い出される。鏡花の特集を組む雑誌にはたいてい載っており、笠原伸夫『評伝泉鏡花』の表紙などにも使われている。一度見ると忘れられない、強烈な印象の絵である。番組では触れていなかったのだが、この小説の前編にあたる『風流線』の口絵は、英朋ではなく、鏑木清方が描いている。口絵を描く画家が、同じ小説の前後編で違うのは少し不思議な感じがする。しかし、それはある意味、とても贅沢なことであろう。
← 鰭崎英朋・鏑木清方合作「泉鏡花『婦系図』前篇口絵」(一九〇八〈明治41〉年二月、春陽堂刊行) (画像は、「日本近代文学研究室」より。) 以前にも紹介したが、「「婦系図」口絵下絵」にても、鏑木清方・鰭崎英朋の画(合作)を見ることができる。
多分、いろんな形で彼の作品(挿絵)は目にしていると思うが、もう少し彼のことを知りたい。
「鰭崎 英朋 - 全国名前辞典」によると:
1881. 8.25(明治14)
1910(明治43)
◇挿絵画家。本名は太郎、別号は晋司・絢堂。東京浅草生れ。
1901(明治34)鈴木清方・山中古洞らと烏合会を結成。
明治後期、挿絵家として活躍。
→ 「鰭崎英朋展」 (画像は、「菱川師宣記念館 鰭崎英朋展」より。)
鰭崎英朋のプロフィールについては、「菱川師宣記念館 鰭崎英朋展」なる頁がやや詳しい。
ここでは一部だけ転記させてもらうが、全文を読んでも一分を要しないし、鰭崎英朋の人となりを知るに、とても参考になる:
(前略)幼い頃より母方の祖父母に育てられた英朋は、祖母の故郷である千葉県鋸南町大六を、第二の故郷とも考え、慕っていました。17歳で浮世絵師・右田年英に入門し、同世代の鏑木清方らと腕を競い、美人画家として名をはせました。しかし、英朋は生涯、雑誌や小説、新聞などの挿絵画家としての道を歩みました。当時の大衆は、英朋の描く連載小説の挿絵や新聞紙上の相撲絵などに一喜一憂したのです。(後略)
← 「松本品子著『挿絵画家英朋 鰭崎英朋伝』 ( スカイドア) (画像は、「挿絵画家英朋 鰭崎英朋伝 - 松本品子-著 - Yahoo!ブックス」より。)
「挿絵:鰭崎英朋、菊池寛『眞珠夫人』 - 装丁家・大貫伸樹の造本装丁探検隊」なる頁では、挿絵が鰭崎英朋の「菊池寛『真珠夫人 1』(「東京日日新聞」大正9年6月9日)」という当時の新聞記事画像をみることできる!
(菊池寛『眞珠夫人』については、拙稿「真珠夫人…「妾」はどう読む?」など参照してほしい。)
「松本品子著『挿絵画家英朋 鰭崎英朋伝』 ( スカイドア)という格好の本がある。
内容紹介には、「人気が出、飽きられ、忘れられた。しかし、挿絵画家にとって毎日が展覧会だった。明治挿絵魂今蘇る」とある。
→ 「花咲爺 /鰭崎英朋/画 千葉幹夫/文・構成 [本] 」(講談社)
鰭崎英朋は明治の人。でも、大正ロマンに繋がる世界を切り拓いた人でもあると思う。
「大正ロマン - Wikipedia」によると、大正ロマン(大正浪漫)とは、「大正時代の雰囲気を伝える思潮や文化事象を指して呼ぶことばで」、「明治と昭和にはさまれ15年と短いながらも、国内外が激動の時代であった」大正に咲いた社会・文化現象のようだ。
確かに蘇りつつあるのではなかろうか。
あるいはロマンを蘇らせるべき時期なのではなかろうか。
← 『日本の相撲』 (画像は、「ベースボール・マガジン社 商品販売サイト ~ BBM@BOOKCART」より。) 内容紹介によると、「哲学者・谷川徹三が相撲の特殊性を歴史とともに語った貴重な書と、鰭崎英朋が描く四十八手画に元年寄・笠置山勝一が的確な解説を加えた名著を合わせて復刊」だという。
現代も、世界が激動していることを僻遠の地にあっても実感する。
日替わりするお坊ちゃま首相たちの面々。明らかに大変貌する世界の潮流に乗り切れずにいる。翻弄されている。保守層は、自分たちの既得権を保とうと必死なのだろう。
日本(のみならず世界)の社会が二極化しつつある。
あるいは二極化して生き延びようと懸命なのでもあろう。
持てるものたちが躍起であるように、持てないものたちだって知恵を絞って今を生きないといけない。
持てるものもであっても、安泰では決してないのである。
ロマンなんて言葉、殺伐とした世の中にあって、敬遠されがちだけれど、こうした時代だからこそ、ロマンや夢を抱き続けるって、逆に凄いことだろうと思える。
時代から浮いてしまい、取り残されてしまう覚悟が要るだろうけど。
でも、夢とロマンなくして何の人生かと思うのだ。
参照:
「花咲爺 - livedoor BOOKS 絵本・児童書 絵本 日本の名作・昔ばなし絵本」
「鰭崎英朋と鏑木清方展」
「書体への誘い17~英朋」
「東書文庫-東書文庫通信-教科書今昔 さし絵の作者は?」
「叡智の禁書図書館<情報と書評> 「百物語怪談会」泉 鏡花 (著)、東 雅夫 (編纂) 筑摩書房」
「夷狄の繰言 辻惟雄の奇想な仕事集」
「武州御嶽山滝行(神楽殿)【和田フォト】」(「深山跋渉の図」画像が載っている。)
「古書の森日記 by Hisako2008年06月 」
「誌上のユートピア・うらわ美術館 つづきその6 - あべまつ行脚」
「森井書店・初版本の世界」
「全生庵の幽霊画:naoの本棚」
「谷中の全生庵で幽霊画展が」
「ハムレットとスミレとオフィーリアと」
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コメント
明治・大正ロマン~昭和ロマン・平成ロマンなど間違っても言わないなぁ。だからこそ、今必要だと思いますね。清方記念館は隣町にあります。行ったことあります。出来てすぐに。昔の挿絵には、それこそロマンが詰まっていますね。鎌倉文学館へはよく行きましたがうっとりと眺めてました。もう、あんなにいい時代は金輪際、来ないような気がするけれども、諦めずにロマンを追いかけていきたいです。
投稿: ピッピ | 2008/10/03 14:32
ピッピさん
竹久夢二や鏑木清方、高畠華宵とか、穏やかで耽美的で艶冶(えんや)で流麗で棘がない。
鰭崎英朋は明治の人だけど、大正ロマンの雰囲気が濃厚。
現代にあってロマンなんて時代錯誤だろうけど、だからこそあってほしいと思うね。
投稿: やいっち | 2008/10/03 19:43
やいっちさん、こんばんは
TBありがとうございました。
大正時代は、或る意味日本文化のピークの一つだったかもしれませんね。確かに、現在はテクノロジー的には数段進んでいますが、精神文化的には後退しているような気がします。仰るとおり、殺伐とした時代にこそロマンが必要だと思います。
鰭崎英朋の作品は印刷でしか見たことがないので、機会があったら実物を見たいものです。
投稿: lapis | 2008/10/04 20:02
知らないだけで、実に魅力的な作品がたくさんあることを再認識させられます。時代が生み出す、大きな流れを背景にその時代故の作風などもあるんだろうなあ~と思いました。
さりげなく見過ごしている作品が、たくさんありそうな気がしてきます。本当に!
これからは、もっと意識してみたいと思いました(笑顔)。
TB有り難うございました。
投稿: alice-room | 2008/10/05 15:56
lapisさん
TBだけして失礼しました。
TBしたlapisさんの記事は、いつか関連の記事を書こうとずっとお気に入りに温存していて、やっと間に合わせの記事だけど書けました。
実際、あのブログ記事からいろんなものを教えてもらい刺激になりましたよ。
派生する記事は未だ書けそうだけど、とりあえず鰭崎英朋のこと。
幽霊画、怖くもあるけれど、どこかアンニュイでもあり、やはり大正ロマンの香りが漂っている。
大正ロマン…。時代は不穏な空気が漂い始めている。
ある意味、ロマンってのは、時代が危うい時にこそ、咲き誇るのかも。
そういう意味で、現代もロマンの花の咲く時期にあるのではと思うのです。
投稿: やいっち | 2008/10/05 19:41
alice-room さん
TBさせてもらいました。
ありがとう!
小生、知らないことが一杯。
鰭崎英朋の世界も、今回の記事を書いたことを契機にそれなりに楽しみました。
いつか、本物を観ないとね。
大正ロマン、時代が暗転していくその予感が背景にあるのではと思います。
一時的には大正文化が咲いたけど、婀娜花だったかのように、暗黒の昭和に突入していく。
ロマンや夢は、泥沼に咲くハスの花のようなものなのかな。
投稿: やいっち | 2008/10/05 19:46
大正ロマンといえば、遊行さんが会員に
なっている弥生美術館と竹久夢二美術館に
如くはないですね。
今の展示は夢二とバレエリュスとか!
ところで、遊行さんとお会いしたけど、こちらの貧相さがいやになるほど豊満な方。
おそらく弥一さんがサンバにみせられる理由の
ひとつもそこいらにあるのかと推測しています、失礼千万ながら。
投稿: Oki | 2008/10/07 22:33
Oki さん
そう、小生は肝心の美術館に足を運んでいない(ままに帰郷してしまった)。
やはり、行ける時に行っておくものですね。
今、「弥生美術館・竹久夢二美術館」で催されているのは下記ですね:
「竹久夢二 舞台芸術の世界 展Ⅱ
~上方歌舞伎からバレエ・リュスまで~」
http://www.yayoi-yumeji-museum.jp/
夢二がそんな世界にも関心を抱いていたなんて、初耳でした。
大正文化(人)の奥の深さを感じます。
「バレエ・リュス 踊る歓び、生きる歓び」なんて映画が昨年、あったようです。
なるほど、「バレエ・リュス(Ballets Russes)は、ロシア出身の芸術プロデューサー、セルゲイ・ディアギレフ(1872年 - 1929年)が主宰したバレエ団」!
バレエといえば、日本を代表するバレエダンサーの一人として海外でも高い評価を受ける草刈民代さん(43)が来春引退することになったというニュースが昨日、飛び込んできたっけ。
テレビのニュースで引退会見をチラッと見た。
凄い美人。43歳だったとは。
怪我などに悩まされていたとか:
「バレリーナの草刈民代さん引退へ 来春に引退公演」
http://www.asahi.com/culture/update/1003/TKY200810030082.html
一度はステージで踊る姿を見たかったなって、思います。
それにしても、Okiさん、交流の輪を広げておられますね。
遊行さんのサイトは折々、覗いているけど、敷居が高くて、まだ、コメントできないでいる(内気なやいっちです)!
投稿: やいっち | 2008/10/08 02:36