『新撰病乃雙紙』から
→ 立川昭二著『生と死の美術館』(岩波書店) 目次などは、「moreinfo」にて。
立川昭二著の『生と死の美術館』(岩波書店)を添えてある絵画画像を眺めつつ読んでいて、本書のテーマならではだが、今度は『新撰病乃雙紙(しんせんやまいのそうし)』なる存在を知った。
← 畑で収穫したカボチャ。小ぶりのものが二十個ほど。大半は知り合いに提供し、残ったこの五つは、色艶もいいので、玄関に飾った。ハロウィンってわけではないのだが。来訪された方は、こんなものが鎮座していて、さぞかしびっくりされるだろう。
この「双紙」は、「嘉永三年(一八五〇)幕府の医学館助教の大膳亮道が大阪の画工福崎一寶に描かせた一服の絵巻」で、「ここには、この舌の腫物の女をはじめ、脱肛痔の男、広節頭条虫症の男、蟯虫症の娘、子宮脱の女、老人性失禁症の男など、さまざまな病人の姿が巧みな筆致と鮮やかな色彩で描かれている」という。
→ 「舌の腫物の女」 本書によると、「詞書(ことばがき)には、舌の下が腫れて痛くなり、耐えられなくなったので、「あしき血をとりたれば、やうくいえたりけれ」とある。病名は「痰包」と呼んでいたが、舌下にガマ腫ができた患者である。今日の治療なら摘出術であるが、この時代は針や鎌状のメスで再三切開して内容物を排出させた」とある。痛い! でも、歯だって麻酔なしで居合い術の極意(?)で引っこ抜くんだから、これくらいは大したことない?
そういえば、小生は(多分)立川昭二の本で幾つかの絵を眺めたことがあった…ことを絵を見ているうちに思い出した!
「あの平安末期(一二世紀後半)に作られた「病草紙」に倣い、暗く痛ましく、醜く汚らわしい病気を、ひたすらリアルに、ときに誇張的にあるいは揶揄的に、ときには好色的に猟奇的な雰囲気すらただよわせ、病気というものの本態と病人をとりまく哀歓を、確かな構図と美しい配色、そして軽妙な筆力で描き出している」とも書いてある。
ここまで称揚されていると、もう、我慢がならない。
← 睾丸が腫れている?
本書では、「舌の腫物の女」の絵が載っているだけだが、できれば、もう少し、絵(画像)を見てみたいではないか。
本家本元の「病草紙」も未だ特集したことがないってのに(多分)、この「新・病草紙」の絵の数々を見たいってのは、「好色的に猟奇的な雰囲気すらただよわせ」って文言に惹かれた、だなんて内緒である! そもそも病気がテーマなのだ、関心を抱く奴も病気の気味がないと…ってのは、開き直りか ? !
→ 親指がウナギになってしまった鰻屋さんだって。こんなの、ありえね~。
ネットで画像が見出せるか分からないが、一つや二つは見ることが叶うのではないか、そんな淡いかもしれない期待の念を以てネットの世界を渉猟。
ヒントである「大膳亮道」の名で検索してみたら、まずは、過去に何度となくお世話になった「新撰病草紙-armchair aquarium [アームチェア・アクアリウム]」なるサイトが浮上してきた。
さすがのサイトである!
← 老人性失禁症の男?
教えられるままに、「新 撰 病 草 子 (写 本)」へゴー。
そこには下記のような説明が見出される。内容の重複を厭わず転記する:
平安・鎌倉期に描かれた「疾の草紙」にならって江戸時代に作られた病草紙。嘉永3年(1850)、江戸の大膳亮好庵(道敦)が折ふしに書きとどめてきた奇病・異常のうち十六種を選び一巻としたもの。詞書は稲垣正信が書き、画は福崎一宝の作である。(図録日本医事文化史料集成 第1巻より)
-東北大学附属図書館医学分館所蔵-
→ 一体、どんな病気なのか。
さて、肝心の「flowers」に飛ぶ(何故、頁の名称が「flowers」なのだろうか?)。
病気の花が咲いているから?
確かに美醜や匂いに辟易するのを問わないのなら、多彩な花々に見える…かもしれない。
← 広節頭条虫症の男?
本書によると、「江戸の民衆は、病気になると、どうしたか」として、以下のように説明されている:
軽い病気なら、まず身近に得られる売薬や民間薬を用いたが、江戸も後期になると医者も多くなり、医者にかかることがふつうになってきた。しかし、今日のように病院に行くのではなく、自宅に病臥して医者の往診を受けるのがふつうであった。
但し、「往診の場合も、歩いて来る徒歩(かち)医者なら薬代だけですむが、駕籠でやって来る乗物医者にかかると、駕籠賃つまり車代をしっかり取られる」のである。
→ 蟯虫症の娘? 大きな画像で見ると、お尻の穴の周辺に小さな白っぽい虫がウヨウヨしている!「Flowers」を見ると分かるはず。
せっかくなので、本書に紹介されている川柳を載せておく:
医者の門、四五軒起きるほど叩き流行医(はやりい)のさめぬ着物を又着替え
医者出世、藪から棒の四枚肩
← 子宮脱の女か。
三つ目の句は、やや分かりづらいかもしれない。
「四枚肩とは四人でかつぐ駕籠のこと。「四枚肩の医者」ということばがあったが、いまならさしずめ高級車に乗る "名医" 。こんな流行医者の往診をたのもうものなら、目の玉の飛び出るような往診料を取られた」という。
尤も、患者も薬代を患家の匙加減で払ったり、時には「芋」などの品物で払うこともあったとか。
→ 脱肛痔の男?
「病草紙」あるいは「病草紙」
「新撰病草紙-armchair aquarium [アームチェア・アクアリウム]」
「歌う必然と前衛短歌の時代 2 - ♪おみそしるパーティー♪」
「【珍書:其の5 『病草紙』】 - 旧「珍」の煮こごり倉庫」
「立川昭二著『江戸病草紙』」
「名品紹介 病草紙」
本稿は、「末期を描く…ターミナルケアの原点?」の姉妹篇である。
(08/10/06作)
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