浅草サンバカーニバルから(6)…『真珠の女』に会う!
カーニバルは終わった。その結果も見届けた。
雨が降り頻っている。
行く宛ても何をする予定も何もない。
自由な時間。
← 土曜日(30日)の夜、宿泊したカプセルホテル。部屋の光景はこんな風。小生の心のように殺風景。
そろそろ八時頃だったろうか。
とりあえず、食事だ。
浅草を離れきれず、浅草界隈をリュックを背に傘を差して宛てもなく歩き続けた。
どの店も一杯。…というより、自分が入る気になる店がない。
バカみたいにあてどなく歩いているうちに、何処かの角でカプセルホテルを見つけた。
へえー、あんなところにカプセルホテルが。
仕事で何度となく通りかかっているけれど、全く気付いていない。
部屋の空きがあるのかどうか分からないが、今夜の宿泊はそこに自然と決めていた。
でも、その前に飯。
ホテルの対面の裏通りに中華料理屋を発見。
客がいないのが不安だが、出前のバイクが帰ってきたところを見ると、そこそこは期待できると思う。
とにかく、雨と汗とで体中がビッショリ。
それに、カーニバルが終わったあとも、解体作業の手伝い、浅草界隈を放浪と、体は疲れきっている。
食事もだが、体を休めたい。
→ 浅草で衣裳姿の我がチーム・リベルダージ(G.R.E.S.LIBERDADE)のダンサーを撮れたのは三枚だけ。そのうちの一人。撮らせてくれてありがとう! パレードの直後で疲れきっているのに。羽根にフワフワ感がないのは、パレード直前の豪雨のため。他の二枚は小生の不手際で画質が悪く、掲載は断念。
カウンター席が数人分、テーブル席が数席の小さな町のラーメン屋さん。
テーブル席に付く。
置くには14型のテレビがあり、NHKの歌番組が放映されている。
懐メロ。「第40回 思い出のメロディー」という番組。
岡本敦郎や五木ひろし、島倉千代子らの歌を視聴した。
他にも、石川さゆり,安西マリア,内田明里,神楽坂浮子,研ナオコ,小柳ルミ子,坂本冬美,ジェロらが出演していたようだ。司会かもしれないが氷川きよしも出ていた。松坂慶子が司会。
岡本敦郎というと、「あこがれの郵便馬車」や「高原列車は行く」などが有名だが、小生が聴いたのは「白い花の咲く頃」(作詩 寺尾智沙 作曲 田村しげる)だった。
もう今年で84歳となる。往年の「抜群の伸びのある美声と正統派の歌唱」というわけにはいかないが、胸にジンと来てしまった。
一番だけ、歌詞を示しておく:
「白い花の咲く頃」白い花が 咲いてた
ふるさとの 遠い夢の日
さよならと 言ったら
黙ってうつむいてた お下げ髪
悲しかった あの時の
あの白い花だよ
食べたのは、チャーシュー麺とチャーハン。
ごく有り触れたメニュー。
けれど、日頃、父母と一緒の食事内容の小生には、気侭な外食、どうってことのないメニューが嬉しいのだ。
そもそも、この半年、腹いっぱい食べたことがないような気がする。
若い人向きのメニューも献立からは外している。一人で外食も侭ならない。
こういう食事を一人暮らしの頃はやっていたんだなって、変なところで懐かしみを覚えたものである。
← 上野の東京都美術館で「フェルメール展~光の天才画家とデルフトの巨匠たち~」を見る。
食事を終え外に出ると、まだ雨が降っている。
冷たい雨。
会いたい人が東京にはいる。でも、ただの一人とも会わない。
尤も、敬愛する方たちに全く会えなかったわけではない。
控え室や浅草寺駐車場でも挨拶できたし、パレードが終了し、役目を終えた山車(アプリアーラ)を浅草寺の駐車場に戻す際の慌しい中、敬愛する方たちの写真も撮れたし。
(東京(浅草)へ向う二日前だったか、小生が以前、勤めていたタクシー会社から電話があった。浅草寺の境内でコンタクトを取ってみたら、別に特に用事はなくて、近況伺いと、よかったらもう一度、こちらで働いてみないかという誘いが所長からあった。丁重にお断りしたけれど。)
→ 同じく上野は国立西洋美術館にて「コロー 光と追憶の変奏曲」を見る。『真珠の女』との出会い。
そうはいっても、ベリーダンサーで憧れの人がいるのだが、肝心のショーは見ることが叶わなかった。
予定がまるで分からないから、どうすることもなかった。
ショーの予定が分かっていたら、ショーを見るため、浅草サンバカーニバル前に既に上京していたはずなのだ。
疲れきった体を引きずるようにして、先ほど目にしたカプセルホテルへ。
狭いながらも浴室もある個室もあるのだが、カプセルのほうを選んだ。
カプセルホテルなんて泊ったことがあるかどうか、記憶に定かではない。
寝台車に毛の生えたような空間。
ビジネス客が宿泊費を少しでも安くするため選ぶようなホテル。
まあ、カプセルホテル内のことはさておくとしよう。
九時半頃に宿泊して、一時間もしないうちに本を片手に寝入ったので特筆すべきことは何もない。
翌朝。
なんの予定のない一日が始まった。
何をする? 何を見る?
← 国立西洋美術館の門内、入口前にはオーギュスト・ロダンの作品『地獄の門』が鎮座している。
田舎への土産物を上野駅で買った。
何ゆえ上野駅?
東京駅で東京名物の「ひよこ」や「雷おこし」などを買おうと思っていたら、上野駅の構内の売店に売っている!
ならば何も東京駅へ行く必要がない。
では、何ゆえ上野駅?
アイデアの浮ばない小生、久しぶりに上野・不忍池界隈を歩きつつ美術館に行こうと思ったのだ。
(その前に、上野に向う前に浅草で伝法院界隈でウロウロしていたのだが、これは略す。)
東京で見ることのできる展覧会がたくさんある。渋谷でのミレー(ジョン・エヴァレット・ミレーの『オフィーリア』に会える!)とか、六本木とか、東京駅近辺でも幾つも美術館がある。
そんな中、上野の美術館が思い浮かんだのは、フェルメールやコロー展をやっていることもあるが、仙台から上京した78年の四月に最初に行った美術館が上野にある国立西洋美術館だったことが大きい気がする。
まるで小生を歓迎してくれるかのように、フリードリッヒ展を開催してくれていたのだ。
それほど混まない館内を、ゆっくり散策するように好きなフリードリッヒの作品を見て回った。
タイミングが良かったのだろうが、実に心地いい観覧だった。
(フリードリッヒについては、拙稿「森の中のフリードリヒ」や「フリードリッヒ…雲海の最中の旅を我は行く」を参照。)
コロー展のポスターが、さすがに上野駅や浅草から上野に向う電車の中にも貼ってある。
「コロー 光と追憶の変奏曲」である。
ポスターには、フランスの画家カミーユ・コロー(1796-1875)の代表作『真珠の女』が。
やはり、この絵に惹かれて足が西洋美術館に自然と向ったのだと思う。
→ 所謂ロダンの『考える人』をクローズアップ。小生も少しは考えないと…。
それでも、上野では、東京都美術館にてかのフェルメール展をやっている。
「フェルメール展~光の天才画家とデルフトの巨匠たち~」である。
フェルメールの代表作は見れずとも、フェルメールの数少ない作品の幾つかを見ることが叶うのだ。
見逃してはならない。
フェルメールについては機会を別に設け、改めて何かしら書きたい。
ただ、デルフトの眺望や、特にオランダの土地柄について、モンドリアンに触れる形での拙稿のあることはメモしておく:
「モンドリアン(追記2:世界を干拓する描写)」
「モンドリアン(追記1:世界を干拓する描写)」
「ピエト・モンドリアン(前篇)」
「ピエト・モンドリアン(承前)」
「ピエト・モンドリアン(後篇:抽象性に宇宙を見る)」
コロー展も印象深いものだったが、やはり、『真珠の女』が圧巻だった。
ポスターで好印象を抱いていたのだが、実物に圧倒された。
ああ、この作品に会うために上野に来たんだと思った。
余談だが、フェルメール展を見終わった後、二時間ほども上野公園の一角で佇んでいた。読書(バルザックの『あら皮』)しつつ、緑を愛でつつ、蚊に悩まされつつ、無為な時間を過ごしていた。
何の意味もない、でも、何故か忘れられないひと時となった。
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コメント
高尚な芸術よりもカプセルホテルの写真が気になりました。分からないのは窓です。私が思っていたのは、入口だけが開いている空間で、そこを閉めれば隔離されると。
まさか窓からでは入りすると思われないので、何処に続いているのでしょう?寝台車のように戸外ですか?
トイレ・シャワーは共同ですよね。
投稿: pfaelzerwein | 2008/09/08 15:00
pfaelzerwein さん
窓、入った当初は開くのかなと思ったけど、やはり閉め切り。
窓から逃げられないように!
入口は寝台車と同じ、アコーディオンカーテンです。
そこから通路へ。小生の部屋(カプセル)は二階(上段)なので、スチールパイプの階段を伝って下りる。
なかなかしんどい階段だった。
トイレ・シャワーは共同です。
驚いたのは(今時、驚くほうが時代錯誤なのか)、一階の休憩所には軽食コーナー(自動販売機)と共に、インターネットコーナーがあって、パソコンを使えるようになっていたこと。
大きなホテルなどでは利用した経験があるけど、カプセルホテルにも設置されているとは、意外でした。
さすがに書き込みはしなかったけど、ちょっとだけネットサーフィンしました。
投稿: やいっち | 2008/09/08 18:25
そうですか~もう半年になりますか。
久々の東京を楽しんでおられる様子に
タマには日常を離れないとね~~と
思いました。「がんばる」だけでは
続きませんもんね♪必要な時間です。
投稿: ちゃり | 2008/09/08 18:54
ちゃりさん
そう、浅草へ行った日が、離京してちょうど半年になる。
もう少し前に上京したかったんだけど、ままならなくて。
富山にはベリーもサンバのショーもやってない。
富山で非日常的な楽しみをどのように、あるいはどこで見つけるか、ちょっと悩んでます。
静かで住むだけならいいんだけどね。
まだ、人間が枯れてないから、侘び寂びの境に入るのは早すぎるし。
どうしたものか。
投稿: やいっち | 2008/09/09 02:46