フィリップ・モーリッツ 滅びの世界をユーモラスに?
フィリップ・モーリッツ(Philippe Mohlitz,1941-)の絵や名を初めて目にしたのは、「artshore 芸術海岸 フィリップ・モーリッツの風景」なる頁を覗いた時ではなかったか。
(念のために断っておくが、18世紀の文筆家のカール・フィリップ・モーリッツではない。フィリップモリス(Philip Morris)でもない!)
→ 松浦寿輝著『そこでゆっくりと死んでいきたい気持をそそる場所』(新潮社) 本書にはフィリップ・モーリッツの銅版画が装丁も含め使われているが、それらは著者自身の所有になるものだという。
と思ったら、その以前にフィリップ・モーリッツの世界には、「artshore 芸術海岸 フィリップ・モーリッツの風景」でも(コメント欄も含め)紹介・言及されている。松浦寿輝の短編集『そこでゆっくりと死んでいきたい気持をそそる場所』(新潮社)の「目次や扉にあしらわれていて」、松浦寿輝ファンなら既に少しは馴染みになっているはずである。
← フィリップ・モーリッツ「Fuite en Egypte」(Engraving, 1967) (画像は、「Artists Philippe Mohlitz」より) バベルの塔の成れの果てだろうか…? しかもカリカチュア的に描かれている?
「artshore 芸術海岸 フィリップ・モーリッツの風景」によると:
モーリッツはフランスのボルドー(Bordeau)に生まれ、地元のアトリエで銅版画を学びました。ロドルフ・ブレダン(Rodolphe Bresdin,1822-85)やオディロン・ルドン(Odilon Redon,1840-1916)の影響、あるいはミラノに生まれプラハの宮廷画家となった16世紀の絵師ジュゼッペ・アルチンボルド(Giuseppe Arcimboldo,1527-93)、ときには20世紀のハンス・ベルメール(Hans Bellmer,1902-75)の影をそこに見ることもできます。彫刻刀の一種であるビュラン(burin)を自在に使いこなし、銅版画としては最も古い手法であるエングレーヴィング(engraving)により画面を構築。当時の主流であった反技巧主義の対極をゆき、精緻な画面をつくりあげた版画家は、いまなお故郷ボルドーに暮らすと聞きます。

→ フィリップ・モーリッツ「Artiste et amateurs」(Etching & engraving, 1970) (画像は、「Artists Philippe Mohlitz」より) 見た瞬間は納棺の光景かと思った! 思案投げ首で作品作りに勤しんでいるのか…。でも、完成する前に作り手の寿命が尽き果てそう ? !
ちなみに、短編集『そこでゆっくりと死んでいきたい気持をそそる場所』の副題は、「独り身の男に降りかかるのは、苦い蜜か、甘い毒か?」だって。
ずっと独り身を通してきた小生には身につまされる世界があった ? !
「Artists Philippe Mohlitz」でモーリッツについていろいろ知ることができるし、作品の数々を見ることができる。
← フィリップ・モーリッツ「Héros attaqué」(Engraving & drypoint, 1972) (画像は、「Artists Philippe Mohlitz」より) 中世の騎士、それとも戦国武将の甲冑を身に纏った西欧の人? いや、もしかしたらデューラーがやはり彫刻刀(ビュラン)で描いた、かの名作「騎士と死と悪魔」の中の騎士が登場する場所をつい間違えちゃったのかもしれない? ガリヴァー旅行記のリリパット国に迷い込んで途方に暮れ、なすがままに朽ち果てていく……??
「NOSTALGIA」なるサイトには小生好みの作家が何人も特集されていて嬉しくなる。この数年、更新されていないようで惜しい。
その中の「世紀末幻想画家 フィリップ・モーリッツ」には、フィリップ・モーリッツの紹介や画像も載っているし、「フィリップ・モーリッツ 関連資料」という項目は、彼をより深く知ろうという人には非常な助けになるだろう。
→ フィリップ・モーリッツ「La Poursuite continue」(Engraving, 1972) (画像は、「Artists Philippe Mohlitz」より) ラマンチャの貴婦人?
この頁の紹介は簡潔だか的を射ている。「artshore 芸術海岸 フィリップ・モーリッツの風景」と併せ読むと、もう小生には口を挟む余地などない:
そこにあるのは未来なのかそれとも過去なのか。
懐かしさは過去に対して感じるものです。 フィリップ・モーリッツの描く不思議かつ幻想的な世界は遠い過去のようにもみえます。近い未来にもみえます。巨大な昆虫や奇妙な動物が現れるシーンは童話の世界に踏み込んでしまったような感じであり、また、退廃した都市や乗り物が登場するシーンはSFの世界に入り込んだような錯覚を起こします。その雰囲気が異なった二つの世界はパラレルに存在しているのではなく違和感なく同居しているようです。まるで夢の世界をのぞいているようと表現したほうがいいのかもしれません。。

← フィリップ・モーリッツ「バリケード」(ビュラン(burin) 1971) (画像は、「世紀末幻想画家 フィリップ・モーリッツ」より) 退嬰的で滅びの美学もなくはないのだけど、何処かユーモラスでもあり、また人間味に溢れていて、一度見たら忘れられなくなる、そんな魅力が一杯の作品の数々。
(08/05/23作 08/06/01加筆)
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