『鳥獣人物戯画絵巻』を覗き見る
ひょんなことで「鳥獣戯画」のことが話題の俎上に上った。
鳥羽僧正覚猷(とばそうじょう かくゆう)の作、と伝えられる、正しくは『鳥獣人物戯画絵巻』である。
→ 『鳥獣人物戯画巻断簡』(ちょうじゅうじんぶつぎがかんだんかん 紙本墨画 縦30.6 横83.3 平安時代) (画像は、「東京国立博物館 館蔵品詳細」より)
せっかくなので、メモしておく。
「鳥獣戯画」は覚猷の作と伝えられ、『宇治拾遺物語』でもおなじみの覚猷は漫画の祖とも呼称されるが(「鳥獣戯画|日本文化いろは事典」参照)、彼が作者であることを「示す資料はなく、むしろ鳥羽僧正の筆が加わっているかどうかも確かめがたい」という。
但し、覚猷の名に帰せられている人物が誰であろうが、以下のようには言えそうである:
覚猷の画は、ユーモアと風刺精神に富んでおり、戯画と呼ばれる。遺言の逸話が示すように、覚猷自身、笑いのセンスに長けた人物のようであり、『宇治拾遺物語』にも覚猷のいたずら好きで無邪気な人柄が描かれている。また、覚猷は仏教界の要職を歴任しながら、当時の仏教界と政治のあり方に批判的な眼を持っていたともされている。

← 「サントリー美術館 鳥獣戯画がやってきた!」展ポスター 見逃した! その頃は東京に居たのに!
いずれにしても、『鳥獣人物戯画絵巻』の持つ意義に変わりはない:
各巻の画風の違いから、複数の作者によって書かれたとする説があり、制作年代は12世紀~13世紀(平安時代末期~鎌倉時代初期)とみられることから、作者も制作年代も異なる別個の作品の寄せ集めで、いわば戯画の集大成といえる。おそらく歴史上無名の僧侶などが、動物などに例えながら世相を憂い、ときには微笑ましく風刺したものであろう。
この絵に付いても、「EPSON~美の巨人たち~ 伝鳥羽僧正「鳥獣戯画」」(「美の巨人たち」)の記事が面白い。
というか、この絵巻に纏わる災難が語られている。
→ 伝鳥羽僧正「鳥獣戯画」(高山寺)
特筆すべきは、『鳥獣人物戯画巻』は甲乙平定の4巻あるのだが、各巻で内容が違うこと(作者も違うのではと言われる理由のひとつでもある)。
「鳥獣戯画」(ホームページ:「地球旅行研究所」)によると:
第1巻(甲巻)では猿・鬼・蛙・狐・雑子・猫など合計103匹が登場して,いずれも擬人化され,溪流に沐浴したり,賭弓をしたり,袈裟を着た猿,鹿を引く兎,逃げるもの,追跡するもの,倒れた蛙をほかの動物が囲んで眺めたり,蛙の田楽踊り,兎と蛙の相撲,蛙に投げ飛ばされる兎,蛙を壇上に祭り,猿・兎・狐が袈裟を着て読経し,まわりに動物の会葬者が見守り,最後に猿が兎・蛙からおきよめを戴く場面で終わっており,いわゆる「鳥獣戯画(巻)」と呼ばれる最もポピュラーな巻である。
第2巻(乙巻)はほかの巻のように戯画ではなく,動物生態図で説話の筋はない。すなわち野馬に始まり,牛・鷹・犬・鶏・鷲・水犀・麒麟・豹・山羊・虎・獅子・竜・象・獏など空想的なものも含めて総計69匹の鳥獣を描いている。一名「鳥獣写生巻」ともいわれている。
![]()
← 「鳥獣戯画甲巻」 (画像は、「鳥獣戯画甲巻・全画像」より)
第3巻(丙巻)は人間が登場して,前半は囲碁・双六・将棋・耳引き・首引き・睨み合い・褌引き・闘鶏・闘犬の9場面を描き,いずれも賭けごとのようである。後半は第1巻とテーマがやや似ていて,猿・兎・狐などが人まねをして遊ぶところを描いている。一名「人物鳥獣戯画巻」とも呼ばれる。
最後の第4巻はテーマとしては第3巻の前半部にやや近いもので,人間社会のことを描いている。すなわち法力競べ・流鏑馬(やぶさめ)・法要・球投げなど僧侶・俗人達の勝負事や行事のさまである。一名「人物戯画巻」ともいう。

→ 「鳥獣人物戯画絵巻 丁巻」 (画像は、「四谷建築 鳥獣人物戯画絵巻」より) 「甲乙丙丁という4つの巻に分かれており、甲巻は兎と猿、乙巻は牛馬、丙では人が多く登場し、丁巻では人のみとなる。筆使いも甲から丁に進むに従い、だんだん乱暴になっていく。丁巻での絵はまるでマジックで描いたかの如くである」…。なるほど、こうしたタッチの作品を見ると、作者が違うのではという説が説得力を持つわけだ。
いつもながら思うのは、リアルに描くのも難しかろうが、逆にこのように人物などを風刺的にあるいはユーモラスにデフォルメする描き手のセンスの見事さ。
デフォルメすることの意味も含め考えさせられることが多い気がする。
(08/05/19作)
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コメント
初めまして。
フィリップ・モーリッツでトラバありがとうございました。
これからすこしずつ、貴Blogの過去記事を
拝読させていただこうと思います。
京都国立博物館「大絵巻展」の『鳥獣人物戯画』
を見たときの想像以上の絵のすばらしさを
思い出しました。
投稿: Hermit | 2008/06/03 07:58
Hermitさん
四ヶ月近く前の記事にトラバしましたね。
失礼しました。
恥ずかしながら、そして口惜しいことに小生は未だ実物の『鳥獣人物戯画』を見たことがないのです。
羨ましい!
「京都国立博物館「大絵巻展」の『鳥獣人物戯画』を見たときの想像以上の絵のすばらしさ」というものを小生もこの目で体験したいものです。
投稿: やいっち | 2008/06/03 23:55
鳥獣戯画の新発見! 表裏はがしてつないで絵巻物 京都国立博物館( MSN産経ニュース):
http://sankei.jp.msn.com/region/news/110215/kyt11021520450011-n1.htm
国宝絵巻「鳥獣人物戯画」(高山寺蔵)について、京都国立博物館は15日、絵巻4巻のうち1巻が、絵を両面に描いた紙を2枚にはいだ上で改めて仕立て直していたことが分かったと発表した。保存修理に伴う調査で画面の墨の跡を照合した結果判明したもの。
(中略)
紙の両面に絵が描かれていたと分かったのは、鳥獣戯画の甲、乙、丙、丁の4巻のうち、人間、動物の遊びをそれぞれ描いた丙巻(全長約11メートル)。
(以下、略)
(以上、ニュースより転記)
投稿: やいっち | 2011/02/20 09:59