竹中英太郎…懐かしき妖美の世界
探偵小説と推理小説との間に違いはあるのだろうか。それぞれの名称の使われた時代(それに伴う時代背景)の違いということくらいはすぐに思い浮かぶが、しかし、ただ思うのは探偵小説(当然、推理小説)の諸作品を印象付けるのに挿画や装丁、表紙の絵なども影響に大きく預かっているとは言えるだろう。
← 竹中英太郎・画 『探偵趣味』7 表紙/昭和6年 (画像は、「弥生美術館・竹久夢二美術館 生誕百年記念 竹中英太郎と妖しの挿し絵展 ~エロティシズムとグロテスク ・・・闇にきらめく妖美の世界~」より)
小説を読みながら想像を時に妄想を逞しくしたものだが、特に少年向けに編集された探偵小説を読んだころなど、文章と同じくらい、時にはそれ以上に挿画に刺激されたものだった。
頁を捲ると何かの挿画が目に飛び込んでくる。
と、その絵に描かれる場面は一体どんなものかと、絵を説明してくれる記述を逸る心ももどかしく探したりしたものである。
高校三年の頃から大学生になった頃に掛けて初めて埴谷雄高の小説「死霊」を読んだものだったが、どの程度その世界を理解できたか怪しいものだが、ただ一読して直ちに懐かしさの念を覚えたことは事実である。
ああこの雰囲気って江戸川乱歩か誰かの探偵小説の世界に相通ずるものがあると感じたものだった。
→ 竹中英太郎画『鬼火』 (画像は、「夷狄の繰言 竹中英太郎と妖しの挿絵展」より。この頁には、「竹中英太郎と妖しの挿絵展」の話もあって興味深い。)
父の書棚にあった探偵小説かサスペンスものか、むしろ冒険ものだったのか、訳も分からず読んでいた(眺めていた)本の層画は、萩山春雄か平野 光一か梁川剛一だったか、それとも牧秀人だったのか。
「江戸川乱歩・夢野久作・横溝正史らの怪奇・幻想的探偵小説を妖しく煌く挿し絵で彩り、その絵は昭和エロ・グロ・ナンセンスという時代に生き、時代を呼吸する人々に熱烈に受け入れられ」(「弥生美術館・竹久夢二美術館」より)たという竹中英太郎も探偵小説の挿絵画家としてその名を逸してはならない人物である。
← 竹中英太郎による江戸川乱歩『陰獣』挿画 (画像は、「テロリストから画家になった竹中英太郎。:Chinchiko Papalog」より。「竹中英太郎は、1923年(大正12)の関東大震災で大杉栄と伊藤野枝、そしてわずか6歳の橘宗一が憲兵隊に虐殺Click!されたのを知ると、当時暮らしていた熊本で激昂する。口の中を噛み切り、出血するほどの怒りだったようだ。竹中は、大杉たちを殺した権力へ報復するために、要人暗殺を決意し懐中に匕首を呑んで、同年の12月に東京へとやってくる。落ち着き先は、熊本出身者が集まって住んでいた、下落合の「熊本村」だった」ということで、下落合時代の竹中英太郎が詳しい。小生の東京での最初の住処が西落合だったこともあり、興味津々の頁である。)
「竹中英太郎 - Wikipedia」によると、「1906年(明治39年)12月18日 - 1988年4月8日)は、福岡県生まれの挿絵画家」で、「横溝正史が編集長をしていた当時の「新青年」にて、江戸川乱歩「陰獣」の挿絵を担当した。その後、「新青年」を中心に活躍。傑作の呼び声の高い横溝正史「鬼火」の挿絵のほか、甲賀三郎、大下宇陀児、夢野久作らの小説に作品を発表した。息子は評論家の竹中労」とか。
「竹中英太郎 - Wikipedia」には、マレーネ・ディートリッヒが来日した際のエピソードも書いてある。
→ 竹中英太郎・画 「あやかしの鱗粉」 (画像は、「弥生美術館・竹久夢二美術館 生誕百年記念 竹中英太郎と妖しの挿し絵展 ~エロティシズムとグロテスク ・・・闇にきらめく妖美の世界~」より)
「竹中英太郎コレクション」なる頁には、「竹中英太郎コレクションその2」共々で画像がたくさん載っていて嬉しい。
ここでは参照しきれなかったが、「Hugo Strikes Back! 夢野久作と吾が父・英太郎」は一読を勧める。
参考:
「松本清張『顔・白い闇』」
「チャンドラー『プレイバック』」
(08/04/19作)
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コメント
弥生美術館に竹中英太郎の展覧会観にいきましたよ!
それから母のもとへ行ったのですが、その帰り立川で展覧会図録と購入したCDを入れた袋をどこかに置き忘れたことが判明!
多摩都市モノレールの事務所へ行ってみたりしたのですが結局見つからなかったー。
ああ、図録三千円もしたのにー。
最近は行ける展覧会の数が限られているので招待券のある展覧会ばかりですが、珍しくお金払って観た展覧会だったのにー。
投稿: oki | 2008/04/25 23:32
okiさん
弥生美術館に竹中英太郎の展覧会観に行ったとは、さすがというかなんというか。
竹中英太郎の展覧会なんて、富山じゃありえないし、羨ましい。
図録もCDも惜しい!
几帳だと思うし、図録だけでも戻って欲しいね。
投稿: やいっち | 2008/04/26 09:46