ルイス・ウェインの猫(その1)
郷里に出戻りして、生活のスペースを確保する意味もあり、本や雑誌を含めて家の中の不用な諸々をドンドン廃棄している。
一応、東京から持ち帰った荷物は整理までには至らないものの、とりあえず廊下の隅っこやら納屋などに蔵置はできた。
→ Louis Wain "Ginger Cat" - c,1932, Crayon, 9 x 7 ins (画像は、「Henry Boxer Gallery presents Louis Wain」より)
となると、片っ端から捨てていた古い本だが、段々捨てるのが惜しくなる。
古い本の山が崩れていってしまうと、はて、引越し荷物の収納も暫定的ながら済んでいるのに、これ以上なにゆえ捨てる必要がある…などと思えてきたのである。
尤も、生来の無精な性分が表に出てきて、片付け作業が面倒になってきたってのが、大きいのかもしれない。
古本の束を見る。背表紙など目に入る。
おやっ、この本、懐かしい! とか、この本は古いけどそんなに汚れてないじゃないか…とか。
そうして廃棄の憂き目に遭わなかった本は、箱入りの本が多い。
← Louis Wain "Untitled" - c.1933, watercolour & bodycolour, 7.5 x 5 ins (画像は、「Henry Boxer Gallery presents Louis Wain」より)
箱は汚いが、箱から出してみると、存外、手に取るのを躊躇うほどには汚くない。
それに、案の定だったが、我が町近辺の図書館事情の貧困さ。
台所事情が火の車で、当分、本は買えそうにない。
本を原則として買わない生活が、この四月で五年目に突入するのも避けられそうにない。
箱入りでなくても、見かけ上、汚くないと感じる本は、手元に残しておくことに決めた。
郷里にあった本や雑誌の大半は既に捨てたが、それでも数百冊は余命を留めた。
→ Louis Wain "Blue Cat" - c.1932, pastel & crayon, 8.5 x 6.5 ins (画像は、「Henry Boxer Gallery presents Louis Wain」より)
そんな本の一冊に徳田良仁著の『芸術を創造する力―イメージのダイナミックス』(紀伊国屋書店)がある。「1986-04-15出版」の本。
多分、刊行直後に買ったはず。
「著名な精神医学者であり,また画家でもある著者が,多数の芸術作品を題材に,作品の背後にある人間精神のドラマを,いきいきと再現する。アイデンティティの模索から,ファンタジーとエロスの世界まで,作家の精神世界を描く 」と謳われている。
今となっては、入手困難な本のようだし、せっかくなので(?)目次を転記しておく:
1 アイデンティティの模索(自己イメージの追求―エドヴァルト・ムンク;アイデンティティの模索―エゴン・シーレ;イメージの変容―フランシス・ベーコン)
2 創造性における時間と空間(時間のイメージ表現;空間のイメージ表現;時間と空間の総合表現)
3 ファンタジーと人間(夢のイメージと創造力;吸血鬼ファンタジー;不安と恐怖のイメージ;死のイメージ)
4 エロティシズムの表現(エロスの周辺―欲動と昇華;ポルノグラフィーと芸術性;性的倒錯のイメージ表現;サディズムとマゾヒズム―欲望の弁証法)
5 もうひとつの世界(幻想的リアリズム―エルンスト・フックス;夢幻世界の彷徨者―アルフレート・クビーン;狂気の天才画家―リチャード・ダッド;神の眼の支配する王国建設―アントニオ・ガウディ;超現実と現実のはざまで―サルバドール・ダリ)

← Louis Wain 「Realistic cat」 (画像は、「Catland the art of Louis Wain」より) 1880年の絵らしい。「This is an early Wain painting, perhaps even from the 1880s. It clearly demonstrates that his non-realistic style was based originally on realistic studies of the feline form.」「ルイス・ウェインさんの描く猫の変遷」を見よ!
扱われている作家のいずれも学生の頃から関心を抱いていた面々で、書店で本書を手にしたら買わずには居られなかった(今だったら、関心はあっても、躊躇っただろう)。
作家の加賀 乙彦との共著(『芸術と狂気』 )もある方だが、最近の動向は分からない。
「日本芸術療法学会」の名誉会長(医療法人社団青雲会北野台病院)としての名を見出す。
正直、この本の存在を今回、古本の整理作業の最中に偶然目にするまでスッカリ忘れていた。
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