ジョゼフ・ライト…科学・技術をも照らす月の光(前篇)
← Joseph Wright of Derby 『Rydal Waterfall, dated 1795』 oil on canvas, 572 x 762mm) (画像は、「Derby Museum and Art Gallery」より) このサイトは本稿をほぼ全て書き終えてから発見した。ひと目見て気に入ってしまった。ジョゼフ・ライト作品画像については(も)、一番、充実している。拙稿「森の中のフリードリヒ」の末尾に掲げたフリードリッヒの『昔の英雄たちの墓碑』と比べてみるのも面白いかも。
「「天体の図像学」の周辺」や「天体を風景画の中に」に続き、藤田治彦著の『天体の図像学』(八坂書房)を読んでその存在を知った画家をミニ特集する。
今回は、ジョゼフ・ライト(Joseph Wright of Derby (1734-1797))である。
→ ライト、ジョセフ Joseph Wright of Derby 『太陽の代わりにランプを置き、オーラリについての講義をする哲学者 A Philosopher giving that lecture on the Orrery, in which a lamp is put in place of the sun.』(1766, Oil on canvas, 147.3x203.2cm, Derby Museums&Art Gallery ダービー美術館) (画像は、「アート at ドリアン ジョセフ・ライト」より)
『太陽の代わりにランプを置き、オーラリについての講義をする哲学者』なる画にある「「オーラリ(Orrery)」というのは太陽系儀のことで、その制作のパトロンとなった第四代オーラリ伯爵の名からそ呼ばれるようになった、渾天儀の一種であ」り、観測機械というより、当時にあっては教育装置の役割を果たしていたようだ(藤田治彦著『天体の図像学』より)
ジョゼフ・ライトについては、(少なくともネット上では日本語での)上方は乏しい(あるかもしれないが見つけられなかった)。
「アート at ドリアン ジョセフ・ライト」によると:
Joseph Wright of Derby (1734-1797) イギリス ロマン主義
1734年、イングランド中部ダービーに生まれた。
1751年、17歳でロンドンに出て、肖像画家として評判を得た。
1760年代、キャンドルライト画という、新しい分野の絵画に取り組む。
← ジョゼフ・ライト 『Experiment on a Bird in the Airpump(空気ポンプの実験) 』(1768年 ナショナル・ギャラリー、ロンドン) (画像は、「WebMuseum Wright, Joseph」より) 画像の中で少女が目を塞いでいる。それはボイルによる空気ポンプの実験で、ポンプの中の空気が抜かれ、中にいた小鳥(ヒバリ)が(窒息して)死んでしまったのを目の当たりにしたからである。さらに、マウスを使って同じ実験が繰り返された。「ボイルは実験をするとき見学者を歓迎していたが、しだいに不都合を感じるようになった。「美しい女性」が鳥が窒息しそうになる姿におののき、すぐ空気を戻してやるべきだと主張したため、実験を中止しなければならなくなったこともある。このあと彼は、物議をかもしそうな実験は夜に行なうようになった。」(『大気の海』より)。この絵画は夜? それとも室内? まあ、劇的な効果を意図しているため、敢えて夜(あるいは不自然だが、暗い室内で?)の実験風景にしているのだろう…か?
→ ガブリエル・ウォーカー/著『大気の海 なぜ風は吹き、生命が地球に満ちたのか』(渡会圭子/訳 早川書房) 読みやすい。科学好き、でも数式は苦手な方…つまり小生のようなものも気軽に読める。
藤田治彦著『天体の図像学』によると:
この場を照らす光源は、白濁した液体を入れた大きなグラスの陰に置かれている蝋燭かランプで、この作品も蝋燭画のひとつなのである。(中略)人工の光が、気圧低減が生物に及ぼす影響の実験とそれを可能にした空気ポンプという近代科学と近代技術の世界を照らし出している。画面中唯一の自然の光ともいえる月の光は窓の外で灰色の雲に隠されようとしている。(後略)
← 藤田治彦著『天体の図像学』(八坂書房) 普通の絵画関係の本では扱われることの少ない絵画作品多数に出会えた。
キャンドルライト画という言葉に反応するわけではないが、絵の一見しての印象だけからすると、絵画にも素養のない小生、ついジョルジュ・ド・ラ・トゥールのことを思い浮かべてしまう。
が、「ラ・トゥールの名は18世紀には忘れられ、彼の作品はスペインの画家の作品だと思われていた時期もあった。ラ・トゥールの存在が再認識され始めたのは20世紀初頭であり」、ジョゼフ・ライトがラ・トゥールの影響を受けたということはなさそうである。
尤も、ラ・トゥールはカラヴァッジョの影響を受けていると思われており、ジョゼフ・ライトもカラヴァッジョ(のオランダにおける信奉者ら)の影響を多少なりとも受けていたようで、幾分なりとも手法や画風に似たものを感じるのは見当違いではなさそうである。
藤田治彦著『天体の図像学』によると:
(前略)このようにランプや蝋燭など、唯一の人工照明に照らされた夜の光景を描いた絵画を「キャンドルライト・ピクチャーズ」蝋燭画と呼び、ライトはその名手と目されるようになる。ライトは、イングランド中部のダービーに生まれ、ロンドンでトマス・ハドソンに学んで帰郷し、肖像画家として出発した。しかし、次第に、科学実験や産業労働といった新たな対象を、人工の光の下で描くようになった。いわば近代科学や近代産業のはじまりを、あるいは「近代」そのものをテーマに描き続けた画家である。
→ ジョゼフ・ライト 『The Alchemist in Search of the Philosophers Stone (賢者の石を求める錬金術師) 』(1771年 ダービー美術館) (画像は、「WebMuseum Wright, Joseph」より)
藤田治彦著『天体の図像学』によると:
ライト自身によれば、ここに描かれているのは、「占星術師たちに倣い、実験の成功を祈祷する」錬金術師だが、「燐の発見」の瞬間であり、この絵が描かれる九十五年前の、近代化学の発展の基礎となる極めて重要な出来事の絵画化であった。(中略)ガラス器の光は、ゴシック建築の窓の外の満月をもかき消すほどに明るく輝いている。《空気ポンプの実験》同様、近代の科学の光であり、《オーラリについての講義》とあわせて考えるならば、自然の太陽の光に代わる、近代の人工の光を描いた、とりわけ《賢者の石を求める錬金術師》の場合は、近代の光、近代科学の誕生を描いた作品であると解釈することが可能だろう。
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