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2008/01/14

マットペインティング "どこにもない" 世界を描く

 最近(なのかどうか)、日本でも「マットペインティング(matte painting)」をやっている人は増えているようだ。
 例えば、上杉裕世氏が「アメリカ合衆国で活躍する日本人のマットペインター」として有名だ。
 あるいは、井手 広法氏の名をあげる人も少なからずいるだろう:
CAD CENTER CORPORATION イベント ワークショップ 『 "どこにもない" 世界を描く 』

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→ d'artiste Character Modeling (画像は、「Ballistic Publishing Shop」より)

「マットペインティング(matte painting)」とは、辞書には、下記のように説明されている:

つや消し処理の意
映画の特殊処理技法の一。部分的に造られたセットで撮影した像と、そのセットに連続するよう描かれた絵の合成

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← d'artiste Character Modeling (画像は、「Ballistic Publishing Shop」より)

 ハリウッド映画で、SFX的な映画の背景にしばしば使われている。用語は知らなくとも、あまり映画を観ない人でも、知らず知らずのうちに目にしている。
 本ブログでも、既に例えば先般紹介したベルグクヴィストなどは(手法的には)その一人のようである:
「furiae」…ベルグクヴィストの周辺(前篇)
「furiae」…ベルグクヴィストの周辺(後篇)

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→ d'artiste Character Modeling 2 (画像は、「Ballistic Publishing Shop」より)

 映画、特にアメリカ映画などに興味のある人には、雑誌やパンフレットなどで手法や実例も含め、早くから説明がされてきたから、知っている人には常識に属する話だろうか。

マットペイント - Wikipedia」によると、冒頭に以下のように説明されている:

マットペイント(matte paint)はSFXのひとつで、映像を合成する時に描かれた背景を用いる技術のこと。または、その描かれた背景。

マットペイントを描く人間をマットペインターと呼ぶ。有名なマットペインターにはピーター・エレンショウ、ハリソン・エレンショウ、マイケル・パングラジオ、上杉裕世らがいる。


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← d'artiste Character Modeling 2 (画像は、「Ballistic Publishing Shop」より)

「マットペイントを描く人間をマットペインターと呼ぶ」! 分かりやすい。

「もともとは油絵具やアクリル、パステル、フェルトペンなど、あらゆる画材を使用して描く、手描きの絵として発展した」というが、思えば、絵画は古来よりありとあらゆる方法が試され手法そのものの創造がまた絵画を変化させその世界を豊かにしてきた。
 その最先端の一つの在り方なのだろうか。

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→ d'artiste Concept Art (画像は、「Ballistic Publishing Shop」より)

 マットペイントにも、大きく二つの方法があり、「現場でキャメラ前に絵や写真を修整したものをかざして撮影する方法(グラスショット)と、実写撮影後にスタジオに持ち帰って作画しながら完成度を上げていく方法がある」という。

 描画方法の項に以下の記述がある:

日本以外の国でポピュラーな画材はリキテックスなどのアクリル絵具に空や雲などのグラデーションの表現には乾燥の遅い油絵具、部分的な柔らかい表現にはパステル、シャープなラインを引く場合にはフェルトペンなども使用し、殆どの場合、色を落ち着かせる(特にアクリル絵具は乾くと色が浅くなってしまう)ために透明なアクリルラッカーを使って仕上げる。

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← d'artiste Concept Art (画像は、「Ballistic Publishing Shop」より)

 古来の手法(画材)を駆使して、とにかくリアルな描画を試みているようだ。
 CGを多用しているのかと思ったら、案外と伝統的な方法も重宝されているらしい。
 筆はともかく、エアブラシの多用という先入観は、的外れなのかもしれない。

 にもかかわらず、やはり、近年はCGの利用が花盛りと思うべきなのだろう。

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→ d'artiste Matte Painting (画像は、「Ballistic Publishing Shop」より)

「CGにおけるマットペイント」という項には以下の記述が見られる:

1990年代以降パソコンの導入が著しく、Adobe Photoshopなどのツールを使用して写真を加工して描かれることが多い。アナログの時代と違ってカメラの視点が3次元的に移動したりすることが可能になっており、それは2Dの平面に描かれていた当時と違い、数枚の絵を3次元空間上に配置してCGのカメラで移動することにより非常にリアルで立体的なショットが得られる。

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← d'artiste Matte Painting (画像は、「Ballistic Publishing Shop」より)

 こうした手法で生み出された画面というのは、最初のうちは物珍しさもあり、時に想像を超えた時空間が表現されているようで、圧倒的な迫力などを感じることもあったが、慣れてくると段々、何処かしら作り物めいた感じ、合成感に辟易することもないではなかった(少なくとも小生は)。
 つまり、あまりに細密なまでにリアルであるかのようで、逆に居心地が悪いような感、むず痒いような感じを覚えたりすることがあるのだ。
 居場所がない感じ。単に、旧弊な感覚の持主にはそうした近未来感覚の世界には付いていけないということに過ぎないのか。

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→ d'artiste Matte Painting (画像は、「Ballistic Publishing Shop」より)

 それでも、気が付くと、こうした手法を駆使する人たちも技術を、腕をあげて来ている。「マッチムーブ技術が完成の域に達した現在、視点が移動する実写にもマットペイントを施すことが出来、ますます表現に幅が出てきている」というのだから、そのうち、もう、こうした技術を使われていることに気づかなくなるほどに洗練されてきつつあるのかもしれない。

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← d'artiste Matte Painting (画像は、「Ballistic Publishing Shop」より) この画像こそが、小生をしてマットペインティングのミニ特集を組ませる気にさせたもの。本ブログで風景画(家)をあれこれ採り上げてきたが、例えば、ハドソンリバー派のF・E・チャーチの風景画などと見比べてみると、幾許かの感懐や感想が湧いてくるのでは。

 そのときこそ、一定の完成を見たというべきなのか。それとも、さらにその先があるのか(先ということで何を意味するかも含めて、アーティストの創造パワーは逞しいし貪欲なはずで、小生などの想像の及ばないものがあるに違いない)。

 冒頭に、「日本でも「matte painting」をやっている人は増えているようだ」と書いている。

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→ d'artiste Matte Painting (画像は、「Ballistic Publishing Shop」より)

「マットペイント」という手法(ジャンル)ということではないかもしれないが、実際に携わっている人のブログも幾つか見つけることが出来た:
「趣味で3DCGやってます。最近はmodoというソフトにムチュー」という「229blog
Zenryok blog
「XSI, ZBrush, Blender, After Effects, Web designなどなど」という「CGrad Project Blog
「マットペインティングって素晴らしい」という「Pushupweb.com
「Ballistic Publishing の全ての本を扱っている国内唯一のショップです」という「Ballistic Publishing Shop

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← d'artiste Matte Painting (画像は、「Ballistic Publishing Shop」より)

 マットペイントに限らずCGなど、もっと製作現場に即した、実際的な話も知りたいという人は:
Alias Community エースコンバット5におけるMaya活用例
 以下では、「ピクサー・アニメーション・スタジオのマット・ペインター(背景画ペインター)ポール・トポロス氏」の話を読むことが出来る:
ピクサーのマット・ペインターが語る、ピクサー流制作プロセス
 作る過程を現在進行形で:
Tutorial: "Making of Chaos" by Alain Descamps
「「コンピュータグラフィックス」を調べたい!そんな時はCGの基礎用語」:
CGの基礎用語

                            (07/12/14作)

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