愛のルビコン
愛というのは、薄闇の中に灯る蝋燭の焔という命の揺らめきをじっと息を殺して眺め入るようなものだ。溺れ浸って、思わず知らず興奮し、息を弾ませた果てだろうと、蝋燭の焔を吹き消してはならないのだろう。
そう、じっと、焔の燃える様を眺め、蝋燭の燃え尽きていくのを看取る。
それは、まるで自分の命が静謐なる闇の中で密やかに滾っているようでもある。熱く静かに、静かに熱く、命は燃え、息が弾む。白き肌というメビウスの輪のある面に沿って指をそっと滑らせていく、付かず離れず。
すると、いつしかまるで違う世界にいる自分に気が付く。見慣れないはずの、初めての世界。なのに慕わしく懐かしい世界。愛撫という沈黙の営みを通じて、人は自分の世界を広げ深めていくのだろう。何も殊更に声を上げる必要などないのだ。
気が付けば蝋燭の火も落ちている。命を燃やし尽くして、無様な姿を晒している。けれど、冷たい闇の海の底にあって、己の涸れた心に真珠にも似た小さな命が生まれていることに気付く。蝋燭の焔の生まれ変わり?
愛とは蝋燭のようなもの。我が身を燃やし灰になってでも誰かのために生きること。
……でも、叶うなら煌きのままで生きつづけたい。
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