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2007/01/27

愛のファンタジア(リベルダージ新年会番外編)

[画像は全て、Charlie K.さんの「Charlie K's Photo & Text」からのものです。サンバエスコーラ・リベルダージ(G.R.E.S.LIBERDADE)主催による「2007年リベルダージ New Year Party」の模様を写したものです。「2007 Liberdade New Year Party」にて全ての画像を見ることができます。地の文と画像とは別物と思ってください。なお、本編は「花小金井パレード番外編:地上の熱帯魚たち」の姉妹編です。]

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 言葉というのは、受肉された心なのではなかろうか。
 それとも、肉体としての心の悲鳴であり歓喜であり溜め息、それが言葉なのではないか。
 言葉が受肉した心であることの証左は、言葉が肉体から発せられるということだけではなく、言葉が常に誰かに向って発せられていることでも分かる。
 言葉とは交歓なのである。
 言葉とは交わりそのものなのだ。
 ……そして人は自らの無力を知る。
 何ゆえの無力なのか。

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 それは愛する心を身の内に覚えるが故の無力感なのである。
 そこに人がいる。愛する人がいる。
 そこ、すぐそこにいる!
 なのに、自分は何もできない。

 可能なのは肉体を震わせること。世界は愛に満ちていることをひたすらに己の肉体で示すこと。
 ここに一個の愛があることを分かって欲しい!

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 愛と愛とが孤独なままであってはいけないことを痛切に感じている誰かがいることを分かって欲しい。
 生きて、命があって、心臓がドキドキしている。
 愛の血が脈打っている。
 髪の毛の一本一本が生の悦びに撓っている。
 伏せられた、あるいは開かれた目の輝き。
 肉体は、ただそこにあって息衝いているだけで、もう、エロスである。
 何故なら、交接を願わない肉体など論理矛盾だからだ。
(以上、前口上「愛のファンタジア」序章)

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 ……むしろ、時に体をしなやかにくねらせるダンスを眺めながら、アフリカの乾いた草原を豹かライオンのような猫族の猛獣が、特に獲物を狙うでもなく、ただ足音も立てずにのし歩く、その様を想ってみたりしただけだ。白っぽい土煙。吹き抜ける熱い風。何処か血生臭かったりする大気。容赦なく照り付ける太陽。影と日向との輪郭が、匕首よりも鋭い大地。
 肉体。人間は、どうしても、モノを想う。思わざるを得ない。言葉にしたくてならない。言葉にならないことは、言葉に縋りつくようにして表現する奴ほど、痛く骨身に感じている。でも、分かりたい、明晰にこうだ! と思いたい、過ぎ行く時を束の間でもいい、我が手に握りたい、零れ落ちる砂よりつれない時という奴に一瞬でもいいから自分が生きた証しを刻み付けたい、そんな儚い衝動に駆られてしまう。

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 でも、肉体は、肉体なのだ。肉体は、我が大地なのである。未開のジャングルより遥かに深いジャングルであり、遥かに見晴るかす草原なのであり、どんなに歩き回り駆け回っても、そのほんの一部を掠めることしか出来ないだろう宇宙なのである。
 肉体は闇なのだと思う。その闇に恐怖するから人は言葉を発しつづけるのかもしれない。闇から逃れようと、光明を求め、灯りが見出せないなら我が身を抉っても、脳髄を宇宙と摩擦させても一瞬の閃光を放とうとする。
 踊るとは、そんな悪足掻きをする小生のような人間への、ある種の救いのメッセージのようにも思える。肉体は闇でもなければ、ただの枷でもなく、生ける宇宙の喜びの表現が、まさに我が身において、我が肉体において、我が肉体そのもので以って可能なのだということの、無言の、しかし雄弁で且つ美しくエロチックでもあるメッセージなのだ。

(「裸足のダンス」より)

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  音が聞こえる。俺だけの音が聞こえてくる。
 新雪の道を歩く、ザクッとという歯切れのいい音。何処かの軒先を抜けて駆ける風の鳴る響き。不意に、バサッとふんわりした地響きを感じて、震源を辿ると、木立が揺れている。そう、重く圧し掛かった雪が落ちて、杉の木が束の間ののびをしている。粉雪が濛々と湧き立って、俺の頬をもひんやりとさせる。そして、遠い列車の唸り声。あるいは、犬の遠吠え。
 そのどの音とも違う。俺の耳の中だけで鳴り響く音なのだ。誰にも聞こえるはずのない、啜り泣きのような悲しい無音の叫び。しくしくと誰かが泣いている。

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 俺は振り返りはしない。その声が影も形もない誰かの呼びかけだと知っているから。遠い日の、深い水の底からの、星の彼方からの、地の底からの、俺の心の臓からの、あの人の喉笛からの、既に意味を失った姿亡き鳴動。
 俺は、冥土の旅に立った人を思う。俺が旅立たせたのだ。俺が旅立つ門出を祝ってやったのだ。それとも呪ってやったと言うべきか。喉笛からの鮮血。地吹雪を朱に染めた情念。

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 俺は、その手応えと、その断末魔の愉悦の悶えとを餌にして今日まで生きてきた。夜毎に現れる肉と心とを失った魂の切っ先が、今度は俺の喉笛を狙う。なんという悦楽。なんという報恩。
 ああ、なのに、あの肉を裂くザクッザクッという感触が薄れてしまった。あの人の俺に残した唯一の形見だったはずなのに、俺の心の手から洩れ零れてしまった。痩せ衰えてしまったのだ。あまりに賞味し嘗め尽くし過ぎたのか。
 欲しい! 俺が生きるための杖を。俺は肉を欲する。血の熱さと滴りを。腸の蠢きを。俺が生きる支えはそれだけなのだ。あの日、もがくあいつの足がバタバタとし、やがてピンと伸びきって、赤い脂塗れの白い体が山の峠の脇道の雪に沈み込んでいった。

(「朱に染まる日」より)

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 この世界は広いって、つくづく感じることがある。
 別に地球儀を見て、改めて気付いたってわけじゃない。
 ただ、自分がこの世界の中にポツンと放り出されている。自分があまりにちっぽけで、世界どころか、自分の周囲さえ、ろくに見通すことができないことを、何故か不意に実感してしまったのだ。
 きっと自分の心があまりに窮屈で、それに臆病なものだから、井戸の中にいて、四角く限られた天を眺めやることに慣れ過ぎたんだろうと思う。
 けれど、もっと大きな切っ掛けは、世界の遠く離れた世界にあの人が行ってしまったってことだ。ほんのついこの間までは、自分の目の前にいたし、昨日、会い、今日も会ったのに、明日は、決して会えないことに気づいた瞬間、私は、ふいに世界が広すぎるってことに、初めて気付かされたんだ。

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 世界が、たとえ真っ昼間であってさえも、時には真っ暗闇に陥ることのあることを、私は、知ってしまった。あの人の残像が、あまりに鮮やかに脳裏に浮かぶ。あの人の面影が、今、目の前にある陽だまりよりも目を滲ませる。
 世界でたった一人の人、かけがえのない人、そんな人を失った瞬間、世界はまるで馴染みのない、余所余所しい世界へと変貌してしまった。道行く人が、みんな用事がある。それも、少なくとも自分には関係のない用件を抱えて急いでいるように見える。みんな誰かに会いに行く。けれど、間違っても、この私じゃないことは、表情を見れば分かる。

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 世界は伸び広がったんだ、あの日を境に。ますます広がっていって、昨日の自分さえ、他人と思われたりするようになる。私とは、今の、茫漠たる掴み所のない靄。昨日も明日もない。吐き出したいほどの孤独感。
 だけど、その清冽な感覚は、自分をさえ満たしてくれない。私とは空白。
 世界でたった一人の人を見失って、私は自分をも手放したんだ。
 どこまでも拡張していく宇宙。いつまで経っても拡大するだけの宇宙。

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 ある日、ふと、あの人の影が私の心をかすめていった。手を差し出したら触れられると、思った。勇気を出して手を出したよ。
 でも、あの人は、いなかった。ねじれの位置であの人は、見知らぬ誰かに微笑みかけるだけなんだ。もう一度、冗談でもいいから私に微笑みかけてほしい。
 けれど、交差する二つの直線は、もう、決して交わることはない。世界は三次元。否、四次元。否、もしかしたらそれ以上の次元が輻湊している。私は、白い闇の海の底で、海の上の大気を思う。もう、歩きたくない。歩けば歩くほど、あの人から遠ざかるのだから。
 けれど、生きているということは、歩くってことなのだ。
 だから、私は歩く。ひたすら遠くへ。ただ歩くために。

(「私は歩く人」より)

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 この世には無数の魂がある。飢えた魂、乾いた魂、道に迷った魂、呆然とした魂。広すぎる世界の遠い何処かに、否、何処もかしこにも、魂は立ち尽くしている。
 南に泣いている人あれば、私は己の無力をも顧みず、その傍に立ち、一緒に泣いてみたいと思う。ただ、泣くことしか出来ないけれど。
 北に喜びに噎せる人がいるなら、私は、その悦びに関わりがないと知っているけれど、一緒に喜びたい。ただ、喜びたいだけなのだ。

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 情を重ねるということ。無関係な者同士ではあるけれど、でも、一切のしがらみがなければ、心底からの垂直な思いで以って、情を重ねあうことができるはずだ。して、いいはずだ。
 闇は夜だけの占有物ではない。昼間だって闇に満ちている。白い闇が、常に私とあなたの周りを取り巻いている。それどころか、渦巻くような白い闇は、私を、あなたを、とてつもない深みへ引っ張り込もうとしている。常に口を開けて、私たちの落ち込んでくることを待っているのだ。
 けれど、私があなたを、それとも、あなたが私を抱きしめている間は、白い闇は姿を消す。情の火照りだけが白い闇を吹き飛ばしてくれる。

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 闇の底には、無数の魂のむくろたちが蠢いている。抱きしめることも、抱きしめられることも拒否した者達の魂だ。蜿蜒と続くむくろの原。
 でも、そこかしこに、むっくりと立つ者がいないではない。涸れた魂、疲れた魂ではあるけれど、それでも立とうとする魂が、あるのだ。

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 私は、闇の中でうめいている。うめくことしかできない。何も見えないでいる。無数のモノどもに囲まれているけれど、空っぽの世界の中で、セラミックの壁に爪を立てている。何か、一筋の傷を壁につけたいと思っている。氷の壁にガリガリやりたいと思っている。

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 声を上げること。今、自分にできることはそれだけ。
 きっといつかはあなたを抱きしめられると信じて、私は白い闇に爪を立てるのだ。

(「あなたを抱きしめたい…白い闇の中で」より)

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 せめて足元だけでも暖めたいと思う。祈ることはできなくても、手をかざして、手を重ねて、ホッとした感覚だけでも与えたい。自分に与えることができないなら、せめて、何処の誰とも知れない誰かに、ここに明かりがあると告げたい。
 ここに道に迷う愚かな旅人がいると告げたい。もしかしたら一緒に歩けるかもしれないのだから。祈ることはできなくても、道に迷う不安な心のあることだけは、どうにも拭い得ない。

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 だとしたら、きっと、ここではない何処かにいるだろう、誰かに、ここにも迷う人がいると告げることは、決して意味のないことではないのではないかと思う。
 出会うことは叶わなくても、ある思いが在ることを、蝋燭の焔のようにか細く燈る灯りに過ぎないかもしれないけれども、ここに絶え絶えの、風前の灯火の在ることせめて誰かに告げたい。

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 何か知れない何かがある。それは、迷ってやまない、不安に慄く心だ。それだけが確かなのだ。そして、今の自分には、それだけでも、十分なのだと思う。
(「在るということの不思議、そして祈り」より)

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……顔を歪ませてでも、とにかく舌を伸ばして乾いた心と体のために水を得ようとする。目を皿にして何か救いの徴候がないかと必死の形相になる。髪を逆立て、神経を尖らす。
 捜しているもの、求めているものは、ユートピアなのかもしれない。恩寵の到来なのかもしれない。

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 この世の誰にも打ち明けることのありえない、自分でも笑ってしまいそうなほどに滑稽な、でも、切実な光の煌きへの渇望なのかもしれない。そんなことがありえないと、自分が一番よく分かっている。そんなことがありえるくらいなら、そもそも、自分が苦しんだり悩んだり虐められたり追い詰められたりするはずがなかったのだから。

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 神も仏も信じない。それは生煮えの世界なのだ。現に燃えている、我が家が、我が身が燃え盛っているというのに、いつの日かの恩寵などお笑い種ではないか。
 闇の世界に放り出されて生きてきた以上、闇の中で目を凝らして生きる余地を捜し、真昼のさなかに夢を見る。その人の目は、この世の誰彼を見詰めている。けれど、その人の目は、誰彼を刺し貫いて、彼方の闇を凝視している。何故なら自分がこの世に生きていないことを知っているからだ。

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 そして心底からの願いはただ一つ、自分を救って欲しかったというありえなかった夢だということを知っているからだ。そうした夢が叶うのは虚の世界でしかありえないのだ。だから、この世を見詰めつつ、その実、白昼夢を見るのである。
(「夜 の 詩 想」より)

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