海部陽介著『人類がたどってきた道』(続)
海部陽介著『人類がたどってきた道 “文化の多様化”の起源を探る』(NHKブックス No.1028)を先週末、読了した。
本書については、読みかけの段階で、触発されるあれこれがあり、既に書評風エッセイを書いている。
その中で、邪馬台国の所在候補地の謎と絡め、「もう一度、「日本人はるかな旅展」の新人(ホモ・サピエンス)が太平洋を北と南のルートを経て世界へ雄飛した様子を眺めほしい。」と書いている。
南のルートについて、ポリネシアに焦点を合わせてみる。「楽園マニア」の「ポリネシア・マイクロネシア・メラネシア」なるサイトを覗いてみる。
ポリネシアとは、「ハワイイ諸島、ニュージーランド、イースター島を結ぶ、一辺約8,000kmの巨大な三角形(ポリネシアン・トライアングル)の内側に位置する島々の総称。上記3諸島のほかに、サモア、トンガ、ウォリス、ツバル、フェニックス、トケラウ、クック、ライン、ソシエテ、オーストラル、トゥアモトゥ、マルキーズ等の各諸島が含まれる。「ポリネシア」は、元来ギリシャ語で「多くの島々」を意味する」という。
ちなみに、「マイクロネシア」は「小さい島々」であり、「メラネシア」は「黒い島々」である。
6~1万年前に、「オーストラリアのアボリジニやニューギニア人、そしてメラネシア人の祖先が、アジアからオセアニアへの第一歩を記した」が(彼らは「農耕は行われておらず、狩猟採集によりその日の糧を得ていた」という)、この頃は、「ポリネシアの島々は、人跡未踏で、動物は鳥とコウモリそして昆虫程度、植物も自ら流れ着いたか、動物に運ばれてきた種子が繁殖しているにすぎなかった」という。
本書『人類がたどってきた道』によると、「一万二〇〇〇年以上前に五大陸に広がった祖先たちは、旧石器時代の狩猟採集民だった。一方、リモート・オセアニアへ広がった人々は、彼らよりずっと後の時代の、新石器時代の農耕民である」という。
尚、リモート・オセアニアとは、ポリネシア・マイクロネシア・メラネシアの三地域からメラネシアに属するニューギニアを除いたもの(一九九〇年代に考古学者のロジャー・グリーンが提唱した)である。
その後、「1万年前頃から、東南アジア及びニューギニアにおいて農耕が始められ」たらしい(以下、再度、「ポリネシア・マイクロネシア・メラネシア」参照)。
そしていよいよ、「3600年前ラピタ人がビズマーク諸島に出現する」わけである(本書『人類がたどってきた道』では、「三五〇〇年前、ビスマルク諸島に忽然と現れた」とある。ラピタ人が何処から来たのかは分からないが、カヌー文化などからすると、カヌー文化揺籃の地である東南アジアの沿岸部との関係を本書の中では示唆している)。
「現在、ポリネシア人の祖先と考えられているラピタ人の遺跡が、この年代の地層から突如出現する。彼らは土器を作る技術など独自の文化を持ち、セイル・カヌーを自由に操るきわめて熟達した航海者だったと言われている。加えてこの地域で栽培されていた作物が、彼らの精力的な移住の旅を可能にし、またその結果としてポリネシアの隅々にまで、食用植物の分布を広げていくことにな」り、さらに「3500年前頃は、ラピタ人はフィジーに達し、3000年前頃には、バヌアツ、ニューカレドニア、そして、ついに西ポリネシアのトンガ、サモアにも居住を開始していた。その後、約1000年に渡りこの地域に滞在する」と考えられている。
理由は分からない約1000年の滞在(文化圏拡大の中断)ののち、「2000年前、再び拡散を開始。クック諸島、ソシエテ諸島、マルキーズ諸島等東ポリネシアに到達」し、「まもなくハワイイ諸島へも移住」し、「西暦1000年頃にはイースター島、ニュージーランドにも到達して、ポリネシアン・トライアングルが完成する」というわけである。
本書『人類がたどってきた道』によると、小笠原諸島でも、「古い遺跡の存在が確認され」ているが、「その年代はどうやら二〇〇〇年前ごろのようで、ミクロネシア集団が一時ここへ住み着いていた可能性が考えられている」という。
リモート・オセアニアへのホモ・サピエンスの拡散については、本書では国立民族学博物館教授である印東道子氏のシナリオに基づいて記述されている。彼女には、『オセアニア 暮らしの考古学』(朝日選書)なる著書があるようだ。
小笠原諸島に関連して、「北硫黄島・石野遺跡について」というサイトが見つかった。ここでは言及はしないが、「火山列島の北にある近隣の遺跡としては八丈島の倉輪遺跡(約5000年前)、湯浜遺跡(約6500年前)が知られる。倉輪遺跡は磨製石器が主流であり、土器など他の出土品からも本土の縄文社会と交流があったと見られている」ことからして、いよいよリモート・オセアニアへのホモ・サピエンスの拡散の意味するドラマに(邪馬台国の所在は別にしても)好奇心を掻き立てられる。
今回は南のルートに注目してみたが、北のルートについても、ドラマが満ち満ちている。
いつか機会を設けて、改めて北の旅路をも辿ってみたい。ここでは、ポーラ アンダーウッド(Paula Underwood)著『一万年の旅路―ネイティヴ・アメリカンの口承史』(星川 淳訳、翔泳社刊)なる本があることを示すに留めておく。
レビューだけ転記しておくと、「人類ははるか一万年前、ベーリング陸橋を越え、アジアから北米へ渡った。イロコイ族の血をひく女性が未来の世代へ贈る、一万年間語り継がれたモンゴロイドの大いなる旅路」といった内容。
史実かどうかとか、際物だといった、いかにも現代的な、批判精神なる先入見を排し、人類の知恵と勇気の壮大な物語として、ひたすら語りの世界に没入すればいいのだと思う。
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