スコールズ『記号論のたのしみ』
ロバート・スコールズ(Robert Scholes)著『記号論のたのしみ ―― 文学・映画・女 ――』 (富山 太佳夫訳、岩波モダンクラシックス、岩波書店刊)を読んだ…というより、読み流した。
図書館へ行ったら、まずは新刊本のコーナーを覗く。大抵、そこで一冊か二冊、読んでもいいかなという本を見つける。そのときは、迷わず、まず手に取り、借り出す本の候補にする。
で、次は新聞・雑誌のコーナーへ。そこで新聞を読んだり、借りる候補の本を改めて頁を捲って、検討する。
その時、初めて本書が新刊本ではないことに気づく。
考えてみると、新刊本のコーナーと書いたのは、小生の表現(理解)が不正確なのである。新入荷本のコーナーなのである。で、大概は新刊乃至はそれに近いが、時にはそんなに新しくもない本が飾られてあったりする。
小生には目新しいし、関心を引く本なので、つい、ふらふらと手に取ってしまったというわけだ。
が、本書については、もう少し話が入り組んでいる。刊行は2000年7月7日(品切重版未定)だから、そんなに古くはないが、新刊というには苦しいものがある…が、よくよく確かめてみると、85年刊の再刊なのである!
85年の頃は未だ、本書で扱うようなテクスト、ミメーシス、エクリチュール、ディエゲーシスなどの概念が目新しかった時代だったのだ。差異化。ディコンストラクション。今もこういった概念は使われているのだろうか。
雑談が続く前に本書のレビューを示しておく(岩波ブックサーチャーより):
記号論の基本的な理論をわかりやすく整理しながら,ジョイスやヘミングウェイの文学作品,映画や演劇についての具体的な分析を行い,さらに人間の身体のもつ男性性や女性性の意味へと論考を進めていく.文化のあらゆる諸相を解読することができる記号論-その可能性と拡がり,魅力を探る恰好の入門書.用語解説付き.
(転記終わり)
目次を参考に購入あるいは読むかどうかを決める人も結構、多いかも。なので、目次を:
1 人文系の諸学、批評、記号論
2 文学の記号論にむけて
3 詩のテクストの記号論
4 映画とフィクションにおける語り
5 戯曲と小説におけるアイロニーの記号論
6 ジョイスの「イーヴリン」の記号論
7 パパのコードを解読する―作品ならびにテクストとしての「ひどく短い話」
8 ママのコードを解体する―テクストとしての女性の体
本書には記号論ということで、ペアノの名も出てくるが、本格的な記号論というより、あくまで実際の作品を使っての理論の応用を通じて、記号論の楽しみを示そうというもの。
ペアノからフレーゲとなると、小生もビビビと来るものがあるが、本書ではさらりと流されている。
本書に直接は関係ないのだが、ネット検索していたら、「笑いとパロディーについてのメモ」という頁に行き当たった。必ずしもまとまりが感じられないのだが(未だ中途なのかな)、ただ、「さらにまた『ドン・キホーテ』は、一個のメタフィクショナルな作品として、文学テクストにひそむ多くの隠れた要素を、また、自立的な作品と思われていた文学テクストが他のテクスト、その読者たちの期待、およびそのテクストを取り囲む社会的環境に依存する事実を前景化してもいる」という引用部分は気になった。
『記号論のたのしみ』の中でも、シェイクスピア、ウンベルト・エーコやジョイスらと共に、セルバンテスの『ドン・キホーテ』に言及されている。ある意味、記号論と仰々しく構えなくとも、セルバンテスの仕掛けた『ドン・キホーテ』ワールドにどっぷり浸かったなら、どんな記号論の講義を受けたよりも、現実と虚構との何処までも入り組んだ目くるめく世界そのものへ至りつくことができるのだと、改めて感じてしまった。
いつか、今度こそ、『ドン・キホーテ』全文に挑戦したいものだ。
「ドン・キホーテ」という作品の紹介では、その名も「セルバンテス」というサイトの読書記録が簡潔にまとまっていて、しかも、読んで面白いので、是非、一読を。
関係ないが、セルバンテスとシェイクスピアは1616年に相次いで亡くなっている。二人の関係は…?!
ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』(河島英昭訳、1990 東京創元社刊)も、十数年振りに読み直したい。
ロバート・スコールズには、他に、『スコールズの文学講義 ―― テクストの構造分析にむけて ――』(高井 宏子,柳谷 啓子,岩本 弘道,具島 靖訳、1992年5月27日岩波書店刊)があり、「文学における「構造主義」は,どんな思想・方法論として生きているのか.言語学の先人からロシア・フォルマリズムをへてバルト,ジュネットまで,スコールズ一流の明快さで人物と論脈を読み直す.ロングランを続ける入門書」と銘打ってあるのだが、それにしては、品切重版未定というのは話が違うような。
他に、ロバート・スコールズ、エリック・ラブキン共著『SFその歴史とヴィジョン』 (伊藤典夫ほか訳、1980年11月20日TBSブリタニカ刊)がある。この本は、 SF好きな人なら、一度は読みたい本だというが、さて。
本書『記号論のたのしみ』に関連する本として、E.アウエルバッハ著『ミメーシス ヨーロッパ文学における現実描写』(篠田 一士/川村 二郎訳、筑摩書房〔旧版:筑摩叢書、現行版:ちくま学芸文庫〕) が参考になりそう。
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